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細胞機能学研究室〈西條准教授〉

役職 氏名 Email TEL 研究・教育業績
准教授 西條 將文 06-6879-7974 詳細を見る
TEL 06-6879-7974
FAX 06-6877-9136
研究室郵便宛先 〒565-0871 吹田市山田丘1-3 
大阪大学大学院生命機能研究科 個体機能学講座 田中研究室
田中研所属の中国人留学生、張雪さんのブログです。 http://xuefornowandever.cocolog-nifty.com/

<ニュース>

雪さんの論文がNature Geneticsに掲載されました!
(参照) 新聞発表です。読売新聞2.jpg


田中先生ー最終講義(平成24年3月16日)

平成24年3月16日に、田中先生の最終講義が行われました。講義風景と懇親会の写真です。

<最終講義風景>
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<懇親会風景>
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1. 研究テーマ「ゲノム情報維持の分子機構とその欠損病態の解析」

遺伝情報を担うDNAは、紫外線、放射線、発ガン物質、代謝の過程で生じる活性酸素など、種々の外的・内的要因により絶えず損傷を受けている。これらのDNA損傷は、細胞死や突然変異・ゲノム不安定性を誘発し、ひいては老化・癌化等の原因になる。ヒトを含めた全ての生物はこれらのDNA損傷に対して、DNA修復を始めとする多様なDNA損傷応答機構を進化の過程で獲得し、遺伝情報の維持を計ってきた。ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair:NER)は、紫外線や活性酸素による損傷を始め多様なDNA損傷を修復できる重要な遺伝情報維持機構である。NER機構に異常をもつヒト遺伝疾患として、日光露出部位での高頻度皮膚発がんや種々の神経症状を示す色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum:XP)、身体発育不全、精神神経症状や早期老化を示すコケイン症候群(Cockayne syndrome:CS)、CSの重症型であるcerebro-oculo-facio-skeletal syndrome (COFSS)、軽微な日光過敏性や色素班を示す紫外線高感受性症候群(UV-sensitive syndrome:UVsS)などが知られており、NERの重要性が示唆される。NER異常を示すXPにはXP-A~XP-Gの7つ、CSにはCS-AとCS-Bの2つの遺伝的相補性群が存在し、それぞれの原因遺伝子は既にクローニングされている。田中は、CSにA、B二つの相補性群が存在すること (Somat. Cell Genet., 7, 445-455, 1981) 、日本のXP患者の大部分はA群であることを見つけ、XPA遺伝子のクローニングを世界に先駆けて行った(Nature, 348, 73-76, 1990) 。一方、紫外線などのDNA損傷のNERには、転写鎖上のDNA損傷を認識して修復することのできる「転写と共役した修復:transcription-coupled repair:TCR」と、非転写鎖上や非転写部位のDNA損傷も修復する「ゲノム全体の修復:global genome repair:GGR」の2つの経路が存在する。

03_img1.gifFigure 1 ヌクレオチド除去修復機構のモデル

ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair: NER)機構は、DNA損傷の認識方法により、転写と共役した修復(transcription-coupled repair: TCR)とゲノム全体の修復(global genome repair: GGR)の2つの副経路に分けられる。転写鎖上のDNA損傷は転写伸長中の高リン酸化型RNAポリメラーゼII(RNAPIIO)の進行を阻害し、そのことがTCR開始の引き金となり転写鎖上のDNA損傷は迅速に修復される。一方、非転写鎖上や非転写領域のDNA損傷は、GGR機構によって比較的ゆっくりと修復される。損傷の認識過程において、CSAとCSBはTCRに、XPCとDDB2(XPE)はGGRに特異的に働く。損傷認識後は、TCR、GGRともに共通のNER因子が働く。TFIIHのサブユニットXPB、XPDはヘリカーゼ活性をもち損傷近傍を部分的に一本鎖に巻き戻しバブル構造が形成され、損傷結合タンパク質XPAと一本鎖DNA結合タンパク質RPAによりバブル構造が安定化される。ついで、XPGとXPF-ERCC1複合体がそれぞれバブル構造の3'側、5'側でDNAを切断し、損傷を含む約30ヌクレオチドが除去される。形成された一本鎖ギャップはDNAポリメラーゼにより埋められ、最後にDNAリガーゼがDNA鎖を連結して修復が完了する。

転写鎖上のDNA損傷はRNAポリメラーゼIIによる転写をブロックし細胞死を誘発する。細胞はTCR機構によりこれらの損傷を迅速に修復し、転写を再開することにより細胞死から免れることができる。CS-AとCS-B細胞はTCR機構を選択的に欠損しており、CSAやCSBはTCRに重要な役割を担っていると思われるがその詳細は不明である。しかしながら、TCRとGGRの両方を欠損するXP-A患者はCS徴候を示さないことから、CS徴候が紫外線損傷のTCRの異常だけでは説明できず、CSの主病因の解明が必要である。

2. 研究成果

当研究室ではTCRの分子機構やその異常を示すCS等の分子病態の解明を目的とし、これまで以下のような研究を進めてきた。

2-1. 紫外線照射細胞におけるCSA複合体ユビキチンリガーゼの核マトリクスへの移行

CSA蛋白質は、紫外線などのDNA損傷を受けた細胞では、CSB依存性に核マトリクスへと迅速に移動し、転写伸長中のRNAポリメラ-ゼIIo(Pol IIo)と共局在する(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99, 201-206, 2002)。CS-A患者由来の変異CSAは核マトリクスへ移行せず、そのTCR能欠損とよく相関した。CSA蛋白質が核マトリクスへと移行する無細胞系を構築し、CSAの核マトリクスへの移行は基本転写/修復因子TFIIHにも依存し、クロマチン構築や転写伸長活性にも依存することを明らかにした(Mol. Cell. Biol., 27: 2538-2547, 2007)。中谷らとの共同研究でCSAを蛋白質複合体として精製し、CSAがDDB1、Roc1、Cullin4A、COP9 signalosomeと複合体を形成し、ユビキチンリガーゼ(E3)活性を持つことを明らかにした(Cell, 113: 357-367, 2003)。また、CSA複合体E3は、紫外線照射細胞においてCSB蛋白質をポリユビキチン化し、プロテアソー厶により分解することを示唆した(Genes & Development, 20: 1429-1434, 2006)。一方、Fousteriらは、DNA損傷部位で停止したPol IIoに結合する蛋白質複合体をin vivo crosslinkとChIP法を用いて精製し、CSB、CSA、TFIIH、XPG、XPF-ERCC1、XPA、RPA等を含むTCR複合体が形成されることを報告した。当研究室の結果と一致して、TCR複合体はCSB依存性に形成されること、CS-A細胞では一部の因子を除きTCR複合体が形成されること、当研究室が同定した新規TCR因子であるXAB2 (J. Biol. Chem., 275: 34931-34937, 2000 ; J. Biol. Chem., 283: 940-950, 2008)が、CSA+CSB依存性にTCR複合体に含まれることを報告した。

03_img2.gifFigure 2 TCR機構のモデル

(A) 転写伸長中の高リン酸化型RNAポリメラーゼII(RNAPIIO)がDNA損傷に遭遇し転写がブロックされる。転写がブロックされた部位を中心にCSBがクロマチンリモデリングを行う。

(B) CSBはXPGやTFIIHと共同し、おそらくRNAPIIOとDNAの結合を変化させることにより、XPA、RPA、XPF/ERCC1など種々のNER因子をDNA損傷部位にリクルートする。さらに、ヒストンアセチルトランスフェラーゼp300やCSAユビキチンリガーゼ複合体がCSB依存性に当該部位にリクルートされる。

(C) CSAはTFIIS、HMGN1、XAB2等のリクルートに必要であるのみならず、CSBとRNAPIIOのユビキチン化に必要であり、その結果、転写の再開がおこると考えられている。

 



Pol IIo 、CSA、CSBはTCR機構の中核的役割を担い、その機能の解析は重要であると考えられる。また、CSA複合体E3のユビキチン化標的の更なる検索とそのユビキチン化の意義を解明する必要がある。

03_img3.gifFigure 3 DNA損傷によって誘導されるRNAポリメラーゼ IIのユビキチン化に関与する3種類のユビキチンリガーゼ

CSA複合体、BRCA1/BARD1、NEDD4の3種のユビキチンリガーゼは、それぞれ異なったユビキチンのリジン残基を用いてRNAPIIoをポリユビキチン化する。NEDD4についてはリジン48を用いてポリユビキチン化し、RNAPIIoの破壊をもたらすが、TCR機構には関与しないことが示唆されている。他方、CSA複合体あるいはBRCA1/BARD1によるRNAPIIoのポリユビキチン化がTCR機構あるいは転写の再開に関与する可能性が示唆されているが、詳細は不明である。

2-2. XPGはTFIIHと安定な複合体を形成し、転写活性化に関与する

XPB、XPD、XPF、XPG遺伝子の突然変異によって、XP症状にCS徴候を合併する症例(XP/CS)がある。当研究室では、XPGの新規機能とその欠損がCS徴候を発症する機構を解明する目的で、XPGと結合する蛋白質を精製した。その結果、XPGはTFIIHと複合体を形成することを見つけた。NERに必須のエンドヌクレアーゼ活性に異常を持ち、XP症状のみを示すXP-G患者由来の変異XPG蛋白質はTFIIHと結合した。しかし、XP-G/CS患者由来でC末端に欠失をもつXPG蛋白質はTFIIHと結合しなかった。その結果、TFIIHの安定性が減少し、CAKサブユニットが核内レセプターをリン酸化できず、標的遺伝子の転写活性化がおこらないことを明らかにした(Molecular Cell, 26:231-243, 2007)。以上の結果は、XP-G/CS患者のCS徴候は転写の異常がその一因になっていることを示唆する。NERやTCRに関与する蛋白質は未知の機能を持ち、その異常がCS等の病因になっている可能性が示唆され、NERやTCR因子の新規機能の探索が重要であると考えられる。

03_img4.gifFigure 4 XPG、XPDはTFIIHの構造維持に関与し、そのことでTFIIHのCAKサブコンプレックスによるリガンド誘発核内受容体のリン酸化、ひいては、その転写活性化に関与する。

 (A) XPGは基本転写因子TFIIHと安定な蛋白質複合体を形成する。XPGは1,186アミノ酸からなる蛋白質で、2つのヌクレアーゼ活性ドメインを持つ。XP症状のみを示すXP-G患者はヌクレアーゼドメインにミスセンス変異をもちヌクレアーゼ活性を損なうが、TFIIHとは正常に結合し、TFIIHの構造も正常である。一方、XPとCS症状を合併するXP-G/CS患者では、XPG蛋白質C末端に欠失変異をもち、TFIIHと結合することができない。その結果、XPDやCAKサブコンプレックスがコアTFIIHと結合できなくなる。他方、XPDのミスセンス変異をもつXP-D細胞では、XPDとTFIIHのサブユニットp44やXPGとの結合に異常を示し、その結果、CAKサブコンプレックスがコアTFIIHと結合できなくなる。

(B) 転写開始には、プロモーター上にTFIIHを含む基本転写因子(THIIB、IID、IIE、IIF)やRNAPIIが転写開始前複合体を形成することが必須である。TFIIHはヘリカーゼ活性によりプロモーター領域の二本鎖DNAを開裂すると同時に、RNAPII最大サブユニットのCTDをリン酸化し転写を開始させる。また、プロモーター上流の応答配列(HRE)に結合した核内受容体は、リガンド誘導性にTFIIHのCAKサブコンプレックスによりリン酸化を受け、立体構造の変化に伴い転写共役因子と結合する。その結果、クロマチンリモデリングが起こり基本転写因子やRNAPIIがプロモーターに結合し、転写は活性化すると考えられる。野生型 XPGや XP-G患者に見られるミスセンス変異をもつXPGはTFIIHと安定な複合体を形成し、TFIIH構造を維持し、HREに結合した核内受容体は、リガンド誘導性にTFIIHのCAKサブコンプレックスによりリン酸化を受け、転写活性化がおこる(左図)。他方、XP-G/CS患者やXP-D患者では、CAKサブコンプレックスがTFIIHコア複合体から解離し、核内受容体をリン酸化することができず、転写活性化もおこらない(右図)。このように部分的に構造が崩れたTFIIHは、NERのみならず、転写機構の異常を伴い、XPやCSの発症に至ると考えられる。

2-3. 紫外線高感受性症候群(UV-sensitive syndrome : UVsS)原因遺伝子の同定とCS病態の解析

UV損傷のTCR機構に異常を持つUVsS (UVs1KO患者)の原因遺伝子はXPやCSのどの相補性群にも属さないと報告され、UVsS原因遺伝子がTCR機構に関わる新規遺伝子である可能性が示唆された。当研究室ではUVsSの原因遺伝子のクローニングを目的に単一染色体導入法を行い、UVsSの原因遺伝子が10番染色体に存在することを見つけると共に、10番染色体に座位するCSB遺伝子のnull変異がその原因であることを発見した。以上の結果から、これまでの報告が間違っていることを明らかにした。CSB遺伝子のnull変異の結果として、UVsS 患者ではCSB蛋白質が全く検出できなかったが、CS徴候を発症するCS-B患者では変異短縮CSB蛋白質が生成されていた。これらの結果から、変異短縮CSB蛋白質が何らかの阻害効果を持ち、そのことがCS徴候の発症に関連していると考えた(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101: 15410-15415, 2004)。変異短縮CSB蛋白質の阻害効果を具体的に明らかにすることがCSの病因解明に重要である。

03_img5.gifFigure 5 短縮CSB蛋白質の阻害効果によるCS徴候の発症

紫外線高感受性症候群(UVsS)は、CSと同様にTCRに異常をもつが、CS徴候を示さず軽度のXP様皮膚症状のみを示す。UVsSの1例ではCSB遺伝子のヌル突然変異により、CSB蛋白質が全く生成されていない。他方、CS徴候を示すCS-B患者では短縮CSBタンパク質が安定に発現している。この結果から、CS-B患者ではその短縮CSB蛋白質が何らかの細胞機能阻害効果を持つ(gain of function)ことがCS徴候の原因になっていると考えられる。


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