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外側/尾側大脳基底核原基由来の介在ニューロンの皮質層分布は基底核原基内の発生部位に依存する

論文誌情報 J Neurosci 36, 2044-2056 (2016)
著者 鳥越万紀夫(1),山内健太(1),木村俊哉(1),上村葉(1),村上富士夫(1)
論文タイトル Evidence that the Laminar Fate of LGE/CGE-derived Neocortical Interneurons Is Dependent on Their Progenitor Domains
PubMed 26865626
研究室HP

解説

研究の背景

人間の脳には 種々の神経細胞が存在します。この神経細胞の多様性は脳の様々な機能の発現にとって不可欠です。これまでの研究によって神経細胞の多様性を生む機構に関しては二つの重要な要素があることが知られています。 一つ目は、神経細胞の生まれる場所は部位特異的であるということです。脳の神経細胞の大部分は神経管の内面の脳室層という部分にある神経上皮細胞と呼ばれる細胞から生まれますが、神経管の異なる部位の神経上皮細胞からは異なる神経細胞が生まれます。例えば大脳の細胞は神経管の前方から、小脳の細胞はその少し後ろの部分から生まれます。もう一つの重要な要素は神経細胞の生まれる時期です。典型的な例として挙げることができるのが、大脳皮質の興奮性神経細胞です。大脳皮質には明確な層構造があり、異なる層の細胞では神経細胞の形も入出力も異なり、分子発現の違いも認められます。そして同じ神経上皮細胞から生まれる大脳皮質の興奮性神経細胞でも早く生まれたものは深層の細胞となり、遅く生まれたものは浅層の細胞となります(図1)。いっぽう大脳皮質の抑制性神経細胞の多くは大脳の腹側部に位置する内側基底核原基で生まれた後に大脳皮質に移動し、皮質のほぼ全層に分布しますが、これも興奮性神経細胞と同様に誕生日依存的に皮質内における層分布が決定します。残りの皮質抑制性神経細胞は外側・尾側基底核原基(LGE/CGE)に由来し、これらの細胞も皮質のほぼ全層に分布するようになります。そして異なる層の細胞は形態も分子発現も異なります。ところがこれらの細胞の層分布は誕生日に依存しないことが知られており、層分布の違いを生む機構については不明でした。

今回、当研究科の村上研究室(脳システム構築学研究室、 鳥越ら)は、これまで誕生時期が重要と考えられてきた大脳皮質における神経細胞の層分布が発生部位に依存することを明らかにしました。


研究の内容

LGE/CGEの神経細胞の層分布の違いが誕生日に依存しないのであれば、他に考えられる原因は抑制性神経細胞を生み出す神経上皮細胞がLGE/CGEの中の異なる部位にある可能性です。LGE/CGE内の部位によって異なる発現を示す遺伝子が知られていればこの問題は比較的容易に解決できると予想されますが、そのような遺伝子は知られていませんでした。そこで私たちは子宮内電気穿孔法という方法を用いてLGE/CGE内の神経上皮細胞を標識することにしました。そして特定の部位の神経管細胞から生まれる抑制性神経細胞をその誕生日に関係なく全て標識する方法を用いることにしました。もしそれで異なる層に分布する細胞が見つかればそれを生み出す神経上皮細胞の部位が異なると考える事ができます。

そのための手段としてトランスポゾンを用いて蛍光タンパク遺伝子をゲノムに挿入する方法、またはCreリコンビナーゼを用いてレポーターマウスの遺伝子を組み替えて蛍光タンパク遺伝子の発現を誘導する方法を用い、マウスの胎仔の脳に遺伝子を導入しました。その結果、一部の動物群ではLGE/CGE由来の介在ニューロンは第一層に限局して分布したのに対して別の群の細胞では第一層を除く浅層、つまり2−3層に主に分布していました(図2)。さらに前者では多くの細胞がリーリンという分子を発現していたのに対して、後者ではそのような特徴は認められませんでした。また、前者で皮質下の標識細胞を調べると嗅球や線条体の吻側部がよく染まっていたのに対して、後者では、より尾側部に位置する視床下部や扁桃体が染まっていました。以上の結果はLGE/CGE由来の皮質介在ニューロンの層分布は誕生日依存的に決まるのではなく、LGE/CGE内の神経上皮細胞の位置に依存することを示しています。具体的には2−3層の細胞はLGE/CGEの吻側部に由来するのに対して、1層の細胞はより尾側部に由来することを示しています。


本研究の意義と今後の展望

神経細胞の多様性を生むメカニズムの研究はこれまで盛んに行われてきましたが、研究の大部分は大脳皮質や脊髄などの限られた部位で行われ、共通原理の解明には至っていません。本研究はこれまで誕生時期が重要と考えられてきた大脳皮質における神経細胞の層分布が発生部位に依存することを明らかにしました。これはこれまでの考えの基本的改変を求めるものです。本研究ではI層とII/III層の細胞が具体的にどの部位から発生するのかを示すことはできませんでしたが、今後部位特異的に発現する新たな分子の探索により、これらも明確になることが期待されます。

図1.大脳皮質興奮性神経細胞の誕生時期と層分布。早生まれ(図左方)の細胞は、深層に(黄土色)、遅生まれは表層に分布する(薄茶色)。

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図2.本研究の結果わかったこと。LGE/CGE由来の大脳皮質介在ニューロンの層分布は誕生日とは関係なく、それを産み出す幹細胞のLGE/CGE内の部位によって異なる(I層は尾側部、II/III層は吻側部に由来する)。

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