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Trio RhoGEF結合タンパク質としてのTaraはRac signalを阻害する事によりE-cadherinの転写を上昇させる

論文誌情報 J Cell Biol 193, 319-32 (2011)
著者 矢野智樹(1),山崎裕自(1),足立誠(2),大川克也(3),Philippe Fort(4),氏昌未(1),月田承一郎(1,2),月田 早智子(1)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科、医学系研究科
  2. 京都大学大学院医学研究科
  3. 協和発酵キリン株式会社探索研究所
  4. CRBM, UMSF, Université Montpellier 2 and 1, CNRS UMR 5237, Montpellier 34293, France
論文タイトル Tara up-regulates E-cadherin transcription by binding to the Trio RhoGEF and inhibiting Rac-signaling
PubMed 21482718
研究室HP 分子生体情報学研究室〈月田教授〉

図1.Tara (Trio association repeat on acti...

解説

研究の背景

 上皮細胞は組織において上皮細胞シートを形成し生体内と外界とを遮断することで生体内の恒常性を保っている。この上皮細胞シートの形成に必要不可欠なのが細胞間接着因子から成る細胞接着装置である。E-cadherinは生体のBody Planにおいてその発現が目まぐるしく変化し、発生や分化などに非常に重要な働きを担っている。また、ガンではE-cadherinが消失し、上皮細胞シートは破綻をきたす。しかし上皮細胞シートが維持されながらその特性と動態が制御される分子基盤については不明な点が多く残されているのが現状である。本研究では、E-cadherinの発現のレベルを時空間的に制御する新しいシグナル経路を発見し、上皮細胞シートのダイナミックな構築機構を解明する事を目的とした。

研究の成果

E-cadherin複合体因子としてのTaraの同定

高度に精製したCell-cell adhering junction 画分の2次元泳動スポットをMASS解析し、E-cadherinの発現を制御する新規因子Tara (Trio-associated repeat on actin)を見出した。HA tag-TaraをMDCK細胞に強制発現した結果、AJに濃縮する事が明らかとなった。一方、抗Tara抗体を作製しマウス組織およびMDCK細胞を用いて免疫染色を行った結果、AJに局在する事が確かめられた。以上より、Taraは新規のAJ構成タンパク質と言える。

Taraの機能解析

Taraの機能解析を行う為にRNAi法を用いてMDCK細胞のTaraの発現を押さえた(Tara-KD)。その結果E-cadherinの発現がmRNAレベルより抑制されることが確認されたが、上皮間葉転換は起こっていなかった。しかしながらこのCadherin-6がE-cadherinに代わり発現の上昇するカドヘリンスイッチが誘発されていた。このようにTaraは上皮細胞シートを維持したままAJにおけるcadherinの発現様式を変化させる因子である事が示唆された。

TaraのE-cadherinの転写制御のシグナル解析

TaraはRho GEFであるTrioのRhoG/Rac1 GEFドメインに結合するタンパク質であり、Tara-KD MDCK細胞においてRac1の活性がcontrol細胞よりも上昇していることが明らかとなった。Tara-KDにより、Rac1の下流でp38のリン酸化の上昇が認められた。このp38のリン酸化がE-cadherinのrepressorであるTbx3のリン酸化を促しE-cadherinの発現を転写制御する事が明らかとなった。

Taraによる上皮細胞シート構築の制御

Tara-KD細胞ではE-cadherinからCadherin-6へと細胞接着分子が発現変化する事により、上皮細胞に固有なactinのcircumferential ringの形状が乱れる事が見いだされた。さらにゲル内3次元培養では、通常の球状cyst構造が、Tara-KD細胞では大幅に歪む事が明らかとなった。TaraがKDされることでCircumferential ringのactin束が細くなり、actin bundlingが弱くなる為であることが示唆された。

今後の展開

新規AJ構成タンパク質TaraはTrio/Rac/p38/Tbx3経路によりE-cadherinの発現を制御し、上皮細胞シート構築を変化させる事が明らかとなった。これはAJ発のシグナルによりE-cadherinの転写が制御されるはじめての事例であると考えられるが、その事によりAJが上皮細胞シートの動態を制御する事を示すことができた。このようなE-cadherinの転写制御シグナルについて更に詳しく解析を進めていく事で、生体の分化/発生過程やガン化のメカニズムについて理解が深まるものと考えられる。
また、Tara-KOマウスを解析し、生体内におけるTaraの機能を解析して行く。

図1.

Tara (Trio association repeat on actin) はTrio-RhoGEFのRhoG/Rac1 GEFドメインに結合することが知られている。TaraのPHドメインとCoiled-coilドメインに挟まれた領域がTrio-RhoGEFとの結合に必要である事がわかり、それをmidドメインと名付けた。

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図2.

細胞内のRac1の活性をFRET (Fluorescence Resonance Energy Transfer)を用いて可視化した。WT細胞では細胞をまいて48時間後においてRaclの活性化が抑制されているのに対し、Tara-KD細胞では48時間後においてもRac1は活性の高い状態が続く。

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図3.

Tara KD細胞で活性化されているRac1の下流では、p38 MAPKのリン酸化が上昇し、E-cadherinリプレッサーであるTbx3を活性化することにより、E-cadherinのmRNAの転写が抑制される。それによりE-cadherinのタンパク質の発現が抑制され、MDCK細胞で二番目に多いcadherinであるCadherin-6の発現が上昇する。その結果上皮細胞シートの性質が変化し、3次元培養するとTara-KD細胞ではcyst構造が潰れてしまう。

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図4.

TaraからE-cadherinの発現制御へのシグナル経路及び、上皮細胞シート特性の変化を説明する模式図。

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