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細菌のべん毛の数を巧みにコントロールするしくみを解明

論文誌情報 Proc Natl Acad Sci USA 107, 8812-8817 (2010)
著者 今田勝巳,南野徹,木下実紀,古川進朗,難波啓一
論文タイトル Structural insight into the regulatory mechanisms of interactions of the flagellar type III chaperone FliT with its binding partners
PubMed 20421493
研究室HP 日本電子YOKOGUSHI恊働研究所〈難波特任教授〉

要旨

研究の背景

 細菌は生育環境が悪くなると、べん毛と呼ばれる細長いらせん状の繊維を6-8本程度生やします。そして、住みよい環境を求めてべん毛をスクリューのように回転させて泳ぎ始め、良い場所を見つけるとそこへ定着します。
 べん毛は、細菌の中でつくられたべん毛タンパク質がべん毛基部にあるタンパク質輸送装置によって、べん毛の中心を貫くパイプの中へ順序良く送り込まれることで形成されます。このとき、輸送シャペロンと呼ばれるタンパク質が細菌内でできたばかりのべん毛タンパク質に結合し、輸送前に凝集するのを防ぐとともに、輸送装置と結合して輸送の手助けを行います。輸送シャペロンのひとつであるFliTは、このような機能に加え、べん毛遺伝子の主制御蛋白質であるFlhDCに結合してべん毛遺伝子のスイッチを切る働きを持ち、細菌に生えるべん毛の数を制御します。このように、FliTはべん毛タンパク質の輸送状況をモニターしてべん毛タンパク質の製造をコントロールする多機能なタンパク質です。しかし、FliTの分子量は14,000と小さく、どのようにしてこのような多機能性を発揮するのか謎でした。

研究の成果

 FliTの構造を大型放射光施設SPring-8を用いて解析した結果、FliTのC末端側のa-ヘリックスと呼ばれる構造が分子スイッチのように変化することを見出しました。驚いたことに、この構造を取り除くとべん毛遺伝子の主制御蛋白質FlhDCや輸送装置と非常に強く相互作用することがわかりました。これらの結果から、FliTは自身のC末端のヘリックス構造を変化させて輸送装置やFlhDCと結合する領域を隠したり露出したりすることで相互作用する相手を次々と変えて多機能性を発揮し、生えるべん毛の数をコントロールしていることが明らかになりました。

今後の展開

 べん毛は細菌が生き残る上で重要な器官である一方で、完成までに数世代分の時間を要し、その形成は細菌にとって多大なエネルギーを必要とする作業です。細菌がべん毛タンパク質の輸送状況をモニターしながら遺伝子発現を細かくコントロールすることでべん毛の数を制御するしくみを明らかにした今回の成果は、多機能性タンパク質による細胞の遺伝子制御機構の理解を大きく進展させました。また、べん毛輸送装置は病原性細菌が感染する際に宿主細胞に毒素を注入するIII型分泌装置と同様の構造を持ち、同様の機構で作用すると考えられています。従って今回の成果は、べん毛形成機構だけでなく、病原性細菌の感染や病原性発現機構の解明につながる成果であり、III型分泌装置を標的とする新たな薬剤の開発へもつながる成果でもあります。

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