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遺伝子が次世代へ伝わるメカニズムを解明
- 遺伝子伝達異常を防ぐ抗がん剤開発に期待 -

論文誌情報 Nat Commun 7, 13465 (2016)
著者 Wei-Hao Shang(1),堀哲也(1),Frederick G. Westhorpe(2),Kristina M. Godek(2),豊田敦(3),三須定彦(3),門間則和(3),池尾一穂(3),Christopher W. Carroll(2),高見恭成(4),藤山秋佐夫(3),木村宏(5),Aaron F. Straight(2),深川竜郎(1*)
  1. 大阪大学
  2. スタンフォード大学
  3. 国立遺伝学研究所
  4. 宮崎大学
  5. 東京工業大学

(*責任著者)
論文タイトル Acetylation of histone H4 Lysine 5 and 12 is required for CENP-A deposition into centromeres
PubMed 27811920
研究室HP 染色体生物学研究室〈深川教授〉

本研究成果のポイント

  • 遺伝子が子孫に伝わる際に、重要な働きを担う分子装置(セントロメア)の形成メカニズムを発見
  • 遺伝子伝達に関わる分子装置がどのようにできるか不明であったが、特定のタンパク質(RbAp48)に注目して、その形成メカニズムを解明
  • 遺伝子伝達の異常で起こる「がん」などの疾病を防ぐ薬の開発に期待

要旨

大阪大学大学院生命機能研究科の深川竜郎教授らの研究グループは、遺伝子が子孫に伝わる際に、重要な働きを担う分子装置であるセントロメア※1(図1)の形成メカニズムを明らかにしました。

これまで、遺伝子の伝達には、セントロメアと呼ばれる分子装置が重要であることはわかっていましたが、セントロメアがどのように形成されるのかについては解明されていませんでした。

今回、研究グループは、ヒトやニワトリの細胞を用いて、RbAp48というタンパク質に注目して研究を行い、RbAp48がCENP-A※2と呼ばれるタンパク質を修飾※3することによってセントロメアが形成されることを世界で初めて解明しました。これにより、遺伝子伝達の異常で起こる「がん」を防ぐ抗がん剤などの開発が期待されます。

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図1.遺伝子が次世代の細胞へ伝わる仕組み
遺伝子は染色体という構造体に含まれる。細胞分裂期に、紡錘糸が染色体上の分裂装置とくっついて、次世代の細胞へ遺伝子を伝達する。紡錘糸の付着する染色体上の分裂装置をセントロメアとよぶ。今回このセントロメアの形成の仕組みを解明した。

解説

研究の背景

遺伝子が次世代の細胞に伝わることは、生命を維持する上で必須です。遺伝子は、染色体と呼ばれる構造体を通じて、次世代の細胞へ伝わりますが、染色体の伝達に異常がおきると、細胞のがん化などが引きおこされます。したがって、染色体が正確に次世代の細胞へ伝達するメカニズムを解明することは、「がん化」抑制する方法の開発にもつながり、極めて重要な研究です。これまでの研究から、遺伝子や染色体の伝達には、セントロメアと呼ばれる染色体上の分子装置が重要であることはわかっていましたが(図1)、セントロメアがどのように形成されるのかについては解明されていませんでした。

研究グループでは、セントロメアに存在するCENP-A※2というタンパク質に注目し、これがどのようにセントロメアの形成に関わるのかを明らかにしようと考えました。


本研究の成果

研究グループは、CENP-A複合体がある種の修飾(アセチル化)を受けることが重要であることを突き止め、RbAp48と呼ばれるタンパク質がその修飾に関与していること明らかにしました(図2)。RbAp48の機能をなくすと、CENP-A複合体は修飾を受けることができず、遺伝子を伝達するために必要な分子装置であるセントロメアは作られなくなり、細胞は死に至ります。これは、RbAp48によるCENP-A複合体の修飾がセントロメアの形成に必須であるということ示しています。

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図2.CENP-A(図中CA)は、ヒストンH4とともに、CENP-A複合体を作る。このCENP-A複合体のヒストンH4がアセチル化修飾(RbAp48による働き)を受け、セントロメアの形成が導かれる。


本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、「がん」を防ぐ抗がん剤などの開発が期待されます。つまり、今回解析したRbAp48の機能をコントロールしたり、CENP-A複合体の修飾を強めたり、弱めたりすることで、セントロメアの形成を調節できれば、がん細胞を特異的に死滅させることも可能となります。


用語解説
  1. セントロメア
    細胞分裂の際、紡錘糸が結合する染色体の分子装置を指す。動原体とも呼ばれる。セントロメアが形成されるためには、ある特定の領域に複数のタンパク質が集合しなければならない。どのような分子機構でセントロメアが形成されるのかについては不明な点が多い。
  2. CENP-A
    セントロメアに存在するタンパク質の一種である。ヒストン(※4を参照)と似たタンパク質であり、セントロメアの形成に重要であると考えられている。
  3. タンパク質修飾
    生体内で合成されたタンパク質は、合成後、様々な化学修飾を受けることが知られている。アセチル基、メチル基などの様々な官能基が、アミノ酸に付加し、タンパク質の機能に幅を持たせる。リン酸が付加するリン酸化もタンパク質修飾の一種。翻訳後修飾とも呼ばれ、生体機能の制御に重要な働きを担う。
  4. ヒストン
    真核細胞の核内に存在する塩基性タンパク質でDNAと結合して、核内におけるDNA の規則正しい配置重要な働きを担っている。ヒストンH2A, H2B, H3, H4が2つずつ入った8量体で機能する。DNAがヒストン8量体に巻きついた単位をヌクレオソームという。CENP-A(※2)は、H3に似ており、他のヒストンとともにヌクレオソーム構造を取る (CENP-A型ヌクレオソーム)。ヒストンのタンパク質修飾(※3)は、近年注目をされており、遺伝子の発現調節に関与していると言われている。

研究者のコメント

セントロメアに着目した抗がん剤の開発は、米国などでは進んでいます。より効果的な薬の開発には、基礎研究の充実が何よりも重要です。セントロメアに関する基礎研究に邁進することで、抗がん剤の開発につなげていきたいと思います。

特記事項

本研究成果は、11月4日(金)午後7時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に公開されました。

なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)及び文科省科学研究費補助金新学術領域研究「染色体OS」の一環として行われ、スタンフォード大学、国立遺伝学研究所、宮崎大学、東京工業大学との共同研究です。

本件に関する問い合わせ先

  • 研究に関すること
    深川 竜郎(ふかがわ たつお)
    大阪大学 大学院生命機能研究科 教授
    TEL:06-6879-4428
    FAX:06-6879-4427
    E-mail:tfukagawa@fbs.osaka-u.ac.jp
    関係リンク先:http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/fukagawa/index_j.html
  • 報道に関すること
    大阪大学 大学院生命機能研究科 庶務係
    TEL:06-6879-4692
    FAX:06-6879-4420
    E-mail:seimei-syomu@office.osaka-u.ac.jp