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入力線維に由来する分子が大脳皮質ニューロンの生存と樹状突起形成を促進する

論文誌情報 J Neurosci 32, 15388-15402 (2012)
This Week in The Journalとして特集されました。
著者 佐藤晴香(1),福谷祐真(1),山本悠二(1),多田羅英一(1),竹本誠(1),嶋村健児(2),山本亘彦(1)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 熊本大学発生医学研究所
論文タイトル Thalamus-Derived Molecules Promote Survival and Dendritic Growth of Developing Cortical Neurons(視床に由来する分子が大脳皮質ニューロンの生存と樹状突起形成を促進する)
PubMed 23115177
研究室HP 細胞分子神経生物学研究室〈山本教授〉

図1.網羅的な遺伝子発現解析により、分泌タンパク質をコードする遺伝子Nrn1とV...

解説

研究の背景


 新生児から幼児期にかけて起こる脳の発達は、将来、成熟した脳が機能を発揮するために重要な過程です。この時期、ニューロンが突起を成長させることによって、脳内のネットワークが発達します。個々のニューロンは軸索と呼ばれる長い突起を伸長させて標的細胞に結合すると同時に、樹状突起と呼ばれる比較的短い突起を多数伸展させて他のニューロンからの結合を受けます。この突起成長過程に関わる因子としてよく知られているのは、標的細胞から放出されて軸索の成長を促進する分子です。逆に、軸索から標的細胞に対して放出されて樹状突起の成長を制御する分子についてはほとんど明らかにされていませんでした。この点を明らかにするために、私たちは、感覚の中継部位である視床から大脳へと軸索が伸長する系に着目しました。視床ニューロンの軸索から放出されて大脳ニューロンの突起成長を促進する分子を同定することを目的としました。




研究の成果


 まず、視床ニューロンに発現するタンパク質を同定するために、発達期の視床に発現する遺伝子をマイクロアレイ(注1などの遺伝子工学の手法を駆使して網羅的に探索しました(図1)。得られた候補分子の細胞内での局在性を調べたところ、NRN1とVGFが視床ニューロンの軸索末端に分布することが分かりました(図2)。次に、ニューロンの培養系を用いてそれら2分子の機能を解析したところ、大脳ニューロンの生存と樹状突起の形成を促進することが明らかとなりました。さらに、どのニューロンタイプに効果を持つのかを調べるために、子宮内電気穿孔法(注2により特定の大脳ニューロンに蛍光タンパク質を発現させたのち、器官培養法(注3を用いてNRN1とVGFの作用を解析しました(図3)。その結果、大脳ニューロンの中でも特に、視床ニューロンの軸索が結合するニューロンタイプに対して効果を持つ一方で、別のタイプのニューロンには効果を示さないことが分かりました。以上より、視床ニューロンの軸索から分泌されるNRN1とVGFは、特定のタイプの大脳ニューロンに対して、生存と樹状突起の形成を促進する作用を持つことが明らかになりました。




今後の展開


 本研究により、外部のニューロンから伸長してきた軸索から分泌されるタンパク質がニューロンの生存や樹状突起の発達を促進することが分かりました(図4)。これにより、脳の発達メカニズムの一端が解明されたといえます。また、今回それを担う分子として同定されたNRN1とVGFは、特定のニューロンに効果を及ぼすことから、成熟した脳において多様な形態を持ったニューロンが存在することに寄与すると考えられます。さらに、これら分子の発現量は脳活動によって変化することから、脳のネットワークの発達には、遺伝だけでなく、これらの分泌タンパク質による後天的な作用が重要な役割を果すことが明らかになりました。このことは、幼少期において視覚、聴覚、触覚の感覚入力の影響がこれらタンパク質の作用に発現することを意味し、子供の脳発達の仕組みや自閉症などの精神神経疾患における環境要因の役割の解明にも光明をもたらすことが期待されます。




用語解説



注1)マイクロアレイ

DNAチップとも呼ばれ、特定の組織や細胞に発現する遺伝子を解析する手法。



注2)子宮内電気穿孔法

哺乳類の胎仔に遺伝子を導入する手法。生まれたばかりのニューロンに遺伝子導入されやすいことを利用し、異なる時期に生まれるニューロンタイプに遺伝子導入し分けることができる。遺伝子導入後も個体は成長を続けるため、任意の発達時期に解析を行うことができる。



注3)器官培養法

ある程度の大きさを持った組織を切り出し、透過性膜の上などで組織構築を保ったまま培養する手法。細胞をばらばらにしてから培養するよりも、生体内により近い細胞の形態や分布が維持された条件下で、容易に実験操作を加えることができる。

図1.網羅的な遺伝子発現解析により、分泌タンパク質をコードする遺伝子Nrn1とVgfが視床に強く発現することが分かった。図は生後3日目のラット脳におけるそれら遺伝子の発現パターン。Nissl染色によりニューロンを染色し、脳の部位を特定した(左)。In situ hybridization法により、Nrn1(中央)とVgf(右)のmRNAの発現を可視化した結果、視床に強いシグナルが見られる。



図2.視床に発現するNRN1とVGFは、視床ニューロンの軸索末端に分布する。図は培養した視床ニューロンの軸索におけるNRN1(上段)とVGF(下段)の局在。ニューロンの形態を可視化するために、赤色蛍光タンパク質DsRedを発現させてある(左列)。遺伝子導入して発現させたNRN1とVGF(中央列)は、軸索の末端に分布する(右列、矢印)。

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図3.器官培養法により特定の大脳ニューロンへの作用を解析した。子宮内電気穿孔法により特定のニューロンに蛍光タンパク質が導入された大脳からスライスを切り出し、器官培養法により培養した(左)。蛍光タンパク質により可視化された培養7日後の2種類の大脳ニューロン(中央、右)。

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図4.視床ニューロンの軸索末端に分布する分子NRN1とVGFは、特定の大脳ニューロンの樹状突起の成長を促進する。器官培養においてNRN1またはVGFタンパク質を添加し、各ニューロンへの作用を調べた。NRN1(中央列)とVGF(右列)は、視床ニューロンの軸索が結合するニューロンタイプに対して樹状突起の成長を促進する効果を持つ一方で(上段)、別のタイプのニューロンには効果を示さない(下段)。

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図5.まとめ。感覚の中継部位、視床のニューロンは、発達期に軸索を成長させ大脳ニューロンと結合する(左)。分泌タンパク質のNRN1とVGFは視床ニューロンで作られ、軸索の末端まで運ばれ放出される(右、赤丸)。放出されたNRN1とVGFは大脳ニューロンの生存や樹状突起の成長を促進する(右)。

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