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生体内での遺伝子活性化の目印の観察に成功

論文誌情報 Sci Rep 3, 2436 (2013)
著者 佐藤 優子(1,2),向 正則(3),上田 潤(4),村木 倫子(5),Timothy J. Stasevich(1),堀越 直樹(6),鯨井 智也(6),北 大晃(3),木村 泰介(3),平 誠司(3),岡田 康志(7),林‐高中 陽子(1,2),小布施 力史(8),胡桃坂 仁志(6),川原 敦雄(5),山縣 一夫(4),野崎 直仁(9),木村 宏(1,2)

  1. 大阪大学大学院 生命機能研究科
  2. JST-CREST
  3. 甲南大学 理工学部 生物学科
  4. 大阪大学 微生物病研究所
  5. 理研QBiC循環器分子動態研究ユニット
  6. 早稲田大学 理工学術院
  7. 理研QBiC細胞極性統御研究チーム
  8. 北海道大学大学院 先端生命科学研究院
  9. (株)モノクローナル抗体研究所

論文タイトル Genetically encoded system to track histone modification in vivo.
PubMed 23942372
研究室HP 細胞核ダイナミクス研究室〈平岡教授〉

図1.ヒストン修飾と遺伝子の活性化状態 転写が活性化された遺伝子領域のヒストンは...

解説

概要

 大阪大学生命機能研究科の佐藤優子特任研究員、木村宏准教授を中心とする共同研究グループは、遺伝子活性化の目印となるヒストンH3蛋白質のアセチル化修飾を生体内で検出する方法を開発しました。
 これまで、アセチル化修飾などの蛋白質の翻訳後修飾*1を生体内で観察する方法はありませんでした。木村准教授らは、アセチル化修飾を受けたヒストンH3を特異的に認識する抗体をもとに、蛍光プローブ*2 Mintbody(Modification specific intracellular antibody[修飾特異的細胞内抗体])を作製し、モデル生物(ショウジョウバエおよびゼブラフィッシュ)の初期発生過程に導入して観察したところ、ヒストンH3のアセチル化修飾の変動を、世界で初めて観察することができました。これは、生体内で、細胞の発生や分化をつかさどる機能が、どこで、どのように活性化しているのかを生きたまま視覚的に観測できることを意味します。Mintbodyは、今後の発生・再生の研究や、抗がん剤などの創薬開発に極めて有用であると考えられます。



研究の背景

 ヒトを始めとした生物はひとつの受精卵から始まり、細胞分裂と細胞分化を経て異なる性質を持つ細胞や組織、器官が形成され、個体ができあがります。ひとつの生物個体では、免疫系および生殖系を除くすべての細胞が同じDNAを持っていますが、どの遺伝子が働くかによって個々の細胞の性質が決まります。それぞれの細胞で適切な遺伝子が働くために、DNAの化学修飾(メチル化など)やDNAと強固に結合する蛋白質であるヒストンの翻訳後修飾が重要な役割を果たしています。これらの、DNA配列の変化を伴わずに起こる遺伝子発現の制御は、「エピジェネティクス」と呼ばれています。ヒストンの翻訳後修飾の中でも、特にヒストンのアセチル化修飾は遺伝子活性化の目印として働くと考えられており(図1)、発生や分化、iPS細胞(人工多能性幹細胞)の形成過程で大きく変動することが知られています。また、最近、がんを始めとした多くの疾患で、ヒストンの修飾制御が異常になることが明らかにされています。ヒストン翻訳後修飾は、細胞内の修飾酵素と脱修飾酵素により制御されているため、これらの酵素を標的とする薬剤の開発が注目を集めています。実際、抗がん剤としてヒストン脱アセチル化酵素阻害剤などの開発が進められています。
 これまで、生きている生物個体の中でヒストンの翻訳後修飾の変動を検出することはできませんでした。ヒストンやその他の多くの蛋白質は、どのような翻訳後修飾を受けるかにより、まったく異なる役割を演じます。GFPなど蛍光蛋白質との融合により、細胞内の蛋白質は培養細胞や個体で可視化できるようになりましたが、蛋白質の働きを調節するアセチル化やリン酸化などの翻訳後修飾を生きている生物個体で観察する方法はありませんでした。そこで木村准教授らは、アセチル化ヒストンを特異的に認識する抗体をもとに、Mintbody(Modification specific intracellular antibody[修飾特異的細胞内抗体])を作製し、モデル生物へ導入して蛍光観察する系を樹立しました(図2,3)。



今後の展開

 エピジェネティクス制御は、細胞分化過程や、様々な疾患の進行に重要な役割を果たすことが分かってきています。本研究で開発したMintbodyを用いたヒストン修飾の生体イメージングにより、モデル動物を使った発生過程におけるエピジェネティクスの遡及的解析や、種々の疾患によるエピジェネティクス動態への影響の解明が可能となります。また、Mintobodyを発現する細胞やモデル動物は、エピジェネティクスを標的とした創薬に有用な研究ツールとなることが期待できます。さらに、本研究で開発した手法は、任意の蛋白質の翻訳後修飾の生体イメージングに応用可能なため、今後の生命現象の解明や創薬の促進に大きく貢献すると考えられます。



用語解説

※1 翻訳後修飾:

蛋白質は生合成された後、糖鎖付加、脂質付加、メチル化、アセチル化などの化学修飾を受ける。細胞内のほとんどの蛋白質は、これらの修飾により機能や活性が調節されている。


※2 蛍光プローブ:

生体内の現象を観察するための、蛍光を発する化合物や蛋白質などの小分子。細胞内で標的に特異的に結合するものや、酵素反応の基質として働くものなどがある。

図1.ヒストン修飾と遺伝子の活性化状態
転写が活性化された遺伝子領域のヒストンはアセチル化修飾を受けている(A)。一方、不活性化された遺伝子領域では、メチル化修飾が多くみられる(B)。

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図2.Mintbodyを用いた観察法の概要

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図3.Mintbodyを用いた生物個体観察の例
(A)ショウジョウバエ初期発生において母性/胚性遷移と同時にアセチル化修飾の著しい上昇がみられた。(B)ゼブラフィッシュ初期発生過程におけるアセチル化修飾の観察に成功した。

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