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減数分裂特異的なノンコーディングRNAが減数分裂における相同染色体対合を強固にする

論文誌情報 Science 336, 732-736 (2012)
著者 丁大橋,岡正華澄,山根美穂,堤千尋,原口徳子,山本正幸,平岡泰
Ding DQ, Okamasa K, Yamane M, Tsutsumi C, Haraguchi T, Yamamoto M, Hiraoka Y
論文タイトル Meiosis-specific noncoding RNA mediates robust pairing of homologous chromosomes in meiosis.
PubMed 22582262
研究室HP 細胞核ダイナミクス研究室〈平岡教授〉

図1.分裂酵母減数分裂染色体(マゼンタ)に蓄積するRNA(緑)マゼンタ色の細長く...

解説

研究の背景

 ヒトを含むすべての真核生物は、生殖細胞(精子や卵子等)を作り出す際に、減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂を行う。この減数分裂の際に、父母に由来する同種の2組の染色体(相同染色体)が対合し、DNAの組換えを行う。相同染色体間の対合・組換えは、減数分裂の正常な染色体分離に必須であり、これが正常に行われないと、染色体異常に起因する病気(ダウン症等)や流産の原因にもなる。このため、対合のメカニズムは、医学的見地からも解明が長い間求められてきた。しかし、どのようにして染色体が対合する相同なパートナーを認識して、対合するかということについて、これまで明らかにされていなかった。今回の研究で、相同染色体の相互認識に非コードRNA(タンパク質を翻訳情報を持たないRNA)が働くことを、生細胞蛍光イメージングによって初めて明らかにした。

研究の成果

 減数分裂はすべての真核生物に普遍的に重要であるにもかかわらず、この過程を高等動物細胞で連続観察することは極めて困難である。一方、分裂酵母は、いくつかの理由で減数分裂の実験系として適している。その理由は、(1)増殖(体細胞分裂)と生殖(減数分裂)の全過程を顕微鏡下で観察することができる、(2)培養条件を変えるだけで、体細胞分裂と減数分裂の切換えができる、(3)遺伝的改変を用いて分子レベルでの解析が行える、(4)ゲノムを構成する染色体数が3本と少なく、染色体の核内配置の解析が比較的容易であること、などが挙げられる。減数分裂は、ヒトなどの高等動物では精巣や卵巣でのみ起こり、しかも長時間(約60日)にわたるプロセスのため、それを体外で再現するのが困難であるのに対し、分裂酵母では、短時間(約8時間)で完了するため、観察が比較的容易である。
 今回、染色体の特定領域が光るように仕掛けを施した分裂酵母を、生細胞イメージング技術によって、生きたままで観察した。その結果、第2染色体のsme2遺伝子領域において高頻度で相同染色体が対合することを発見した。sme2遺伝子領域を欠損させると対合の頻度が低下し、sme2遺伝子領域を染色体の別の領域に移動させると、その領域の対合頻度が上昇した。さらに、sme2からは非コードRNAが合成され、これがsme2遺伝子領域に蓄積されて、対合が起こることを明らかにした(図1)。


今後の展開

 今回得られた結果から推論されるモデルとして、図2のような仕組みを考えている。減数分裂期の一時期にテロメアが1箇所に集合することが、分裂酵母で1994年に報告され (Chikashige et al., 1994)、その後、高等動植物でも確認された (Hiraoka and Dernburg, 2009)。このように、染色体がテロメアで束ねられて整列した後、染色体は相同なパートナーを見つけて対合する。その相同認識の仕組みとして、染色体上にいくつかの相同配列認識サイトがあり、そのような認識サイトを頼りに相同なパートナーを見つけると考えている。今後の課題は、(1)sme2遺伝子領域以外に同じような活性を持った領域があるかどうか検索すること、(2)非コードRNAが相同染色体の認識を担う分子レベルのメカニズムを明らかにすること、(3)この現象が、高等動植物に見られるか検討することである。そのために、生化学的手法や分子遺伝学的手法を用いて探索を行う。得られた知見をもとに、この仕組みが高等動植物に普遍化できるか検討する。

図1.分裂酵母減数分裂染色体(マゼンタ)に蓄積するRNA(緑)
マゼンタ色の細長く伸びた構造が、減数分裂前期の細胞核。細長い細胞核の上に緑色の点がsme2 RNA。丸く見えて緑の点が無いのは、体細胞分裂期の核。



図2.相同染色体の認識と対合のモデル