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脳において神経細胞が均一に分布するようになる機構を解明

論文誌情報 J Neurosci 29, 1300-1311 (2009)
著者 Daisuke H. Tanaka, Mitsutoshi Yanagida, Yan Zhu, Sakae Mikami, Takashi Nagasawa, Jun-ichi Miyazaki, Yuchio Yanagawa, Kunihiko Obata, and Fujio Murakami
論文タイトル Random walk behavior of migrating cortical interneurons in the marginal zone: time-lapse analysis in flat-mount cortex.
PubMed 19193877
研究室HP

要旨

発生期において、神経細胞は細胞が作られる場所から、神経細胞として機能す る場所へと移動することが知られている。この神経細胞の移動が適切に行われる ことが、やがて脳の機能を発揮するための神経回路形成の基礎となる。一般的に 細胞の移動は、細胞が周辺の情報をもとに正しい方向へと動くことにより実現さ れていると考えられている。一方、大脳皮質に分布するGABA作動性介在ニューロ ン(※)は、大脳皮質辺縁層では様々な方向に移動していることが、以前の我々 の研究において明らかになっていた。このことから今回発表された我々の研究で は、神経細胞の移動においては周辺環境の情報をもとにしない場合もあるのでは ないかと考えその可能性を検証した。

マウス胎児の大脳皮質を切り出し培養下において、エレクトロポレーション法 により蛍光タンパク質で標識したGABA作動性介在ニューロンをタイムラプスイ メージングを行い、その動態を観察し速度や方向を解析した。

その結果、様々な動態が観察された。その中には頻繁に移動方向を変え、まる で"彷徨っている"かのような細胞が観察された。観察した細胞の平均二乗変位を 求めグラフにするとランダムウォークを示唆する直線性がみられた。また、標識 された細胞の分布を調べたところ、発生期のGABA作動性介在ニューロンは大脳皮 質深層から表層の辺縁層まで移動し、その後また内側の皮質板へと分布していく ことも明らかになった。更に、辺縁層へのGABA作動性介在ニューロンの分布にケ モカインの一つとその受容体である、CXCL12及びCXCR4が必要であることが確認 できた。

今回の研究結果から、GABA作動性介在ニューロンが最終的に大脳皮質の様々な 層及び領域に広く分布するのは、辺縁層において、周辺の情報を頼りに特定の方 向に動くのではなく、細胞自立的にランダムウォークをすることで実現されてい ることが示唆された。

※神経回路において抑制性の作用を持つ、大脳皮質の構成ニューロンの1つ。

図1.組織片の培養下でのタイムラプスイメージングとGABA作動性介在ニューロ ンの移動の模式図。

mfig1-L787.jpg左図のように胎生期12日目に蛍光たんぱく質で標識した細胞 を、15.5日目の大脳皮質を切り出して、辺縁層を共焦点レーザー顕微鏡で経時観 察した。(MZ: 辺縁層)右図は黒線矢印で示すように、今回の結果から考えられ るGABA作動性介在ニューロンの移動のモデル図で、大脳皮質の深い層(SVZ)から 辺縁層(MZ)に移動し、辺縁層でランダムに移動し、皮質板(CP)に再度侵入し、そ の結果広く分布すると考えられる。

図2.タイムラプスイメージングで得られた辺縁層での神経細胞の"彷徨ってい る"ような動きの様子(矢印)。

mfig2-L763.jpg

各写真の右下の数字は観察時間を表わしている (時間:分)。C'は、Cと同じ細胞の軌跡を示す。黒点は20分毎の細胞の位置を示 し、円と四角は観察開始位置と終了時の位置を示す。このように40時間近くラン ダムに方向を変え移動する細胞が観察された。

図3.エレクトロポレーション法を用いたCre-LoxPシステムによるCXCR4遺伝子 発現制御。

mfig3-L763.jpg
左図はエレクトロポレーション法の模式図。ケモカインCXCL12の受容 体であるCXCR4のfloxedマウス胎児に(胎生期12.5日目)、DNA組み換え酵素Cre と蛍光タンパク質のGFPをコードしたプラスミド溶液を脳室へエレクトロポレー ション法で導入した。右図はGFP, Cre, CXCR4のそれぞれを胎生期18.5日目に免 疫染色法で可視化したもの。このようにCXCR4を発現しないGABA作動性介在 ニューロンの辺縁層での分布は減少していた。