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細胞核の新しい分裂様式を発見

論文誌情報 Curr Biol 20, 1919-25 (2010)
著者 淺川東彦(1),糀谷知子(2),森知栄(2),小坂田裕子(2),佐藤眞美子(3),丁大橋(2),平岡泰(1,2,4),原口徳子(1,2,4)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科細胞核ダイナミクス研究室
  2. (独)情報通信研究機構神戸研究所未来ICT研究センターバイオICTグループ
  3. 日本女子大電子顕微鏡施設
  4. 大阪大学大学院理学研究科細胞機能構造学研究室
論文タイトル Virtual breakdown of the nuclear envelope in fission yeast meiosis
PubMed 20970342
研究室HP 細胞核ダイナミクス研究室〈平岡教授〉

図1. 分裂酵母の減数第二分裂では核蛋白質が拡散すると同時にRanGAP1の核へ...

要旨

研究の背景

 真核細胞の核は核膜によって細胞質と隔てられている。間期では、核-細胞質間の物質輸送はRan-GTPの勾配によって調節される。分裂期では高等真核生物では核膜が消失し(open mitosis)、またある種の微生物では核膜孔が部分的に消失することで、勾配は消え、核と細胞質が均一化する。一方、酵母などの下等真核生物では、核分裂過程で核膜は保持され(closed mitosis)、核蛋白質は全生活環を通して核内に保たれると考えられていた。

研究の成果

 分裂期で核膜が消失しない分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)細胞で、核に局在する蛋白質(GFP-NLS)を発現させると、GFP-NLSは核内に留まったままで体細胞分裂が進行した。ところが、減数分裂の第二分裂では、時期特異的にGFP-NLSは核から拡散することを発見した(図1)。そこでまず、その時期に核膜と核膜孔複合体が存在するかを調べた。細胞を電子顕微鏡観察したが、核膜は維持されていた(図2)。また、核膜孔複合体を構成する約30種類のヌクレオポリンの動態を観察したが消失は見られなかった(図3)。次に、Ran-GTPの勾配を作り出す因子のひとつであるRanGTPase活性化因子(RanGAP1)の局在を調べたところ、RanGAP1が時期特異的に核に流入することが分かった(図1)。RanGAP1の核への流入は、核膜の内側と外側のRan-GTP勾配を解消し、核蛋白質の拡散を促進する可能性がある。核移行シグナルを付加したRanGAP1を発現させると、増殖細胞でも減数分裂細胞でも核蛋白質が流出する一方で、活性のない変異型RanGAP1では流出が起こらないことから、活性のあるRanGAP1の核移行によって核蛋白質が拡散することが分かった。本研究は、核膜や核膜孔の構造を維持しながらも、機能的な「核膜崩壊」を起こることを発見したものであり、RanGAP1の局在調節だけで、核膜や核膜孔の消失を伴わずに核蛋白質の空間制御を起こせることを示している(図4)。

今後の展開

 核膜や核膜孔の構造を維持しながらも機能的には核膜消失と同じ効果がもたらされるという新しい分裂様式の発見は、分裂様式の仕組みに対する従来の理解に思いがけない影響を与える可能性がある。今回見つかった分裂様式が、どのようなメカニズムで起きるのか、またそれがなぜ減数第二分裂でだけ起きるのかを追究していくことで、open mitosisとclosed mitosisの根源的な理解へとつながると考えられる。またそれによって核(膜)を持つ細胞の進化過程を窺い知ることができるかもしれない。

図1.
分裂酵母の減数第二分裂では核蛋白質が拡散すると同時にRanGAP1の核への流入が観察される。この現象は、体細胞分裂(mitosis)や減数第一分裂では見られない。

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図2.
RanGAP1の流入の際にも核膜は維持されている。
(A) 生細胞の連続観察をおこない、RanGAP1が核に入った瞬間に細胞を固定した。
(B) 観察していた同一の細胞を透過型電子顕微鏡で観察した。

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図3.
核膜孔複合体蛋白質は減数第二分裂の間も局在変化しない。
GFP融合した核膜孔複合体蛋白質(30種類)を生細胞観察したが、減数第二分裂の間も核膜上に局在していた。代表的なものを示す。Cut11はヒトNdc1のホモログ、Nup45はヒトNup58のホモログ、Nup211はヒトTprのホモログ。

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図4.
真核細胞で見られる核分裂の様式。
核分裂の際、多くの高等な真核生物では核膜と核膜孔は消失し(Open mitosis)、核と細胞質の物質が混ざり合う。一方、酵母などの下等な真核生物は核膜や核膜孔を維持したまま分裂をおこなうことが知られていた(Closed mitosis)。糸状菌Aspergillus nidulansでは分裂期に核膜孔の一部が消失して核と細胞質の物質が混ざり合う(Semi-open mitosis)。分裂酵母の減数第二分裂では、核膜も核膜孔も維持したままで、核と細胞質の物質が混ざり合う(Virtual nuclear envelope breakdown)。

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