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ケモカインが脳の神経核形成に重要な役割を果たしている。

論文誌情報 Development 136, 1919-1928 (2009)
著者 Zhu, Y, Matsumoto, Y., Mikami, S., Nagasawa, T., Murakami F.
論文タイトル Abnormal tangential migration of precerebellar neurons in SDF-1/CXCR4 mutants leads to marked disruption in anterior position and bilateral symmetry of pontine nuclei formation
PubMed 19429788
研究室HP

図1 髄膜に小脳前核細胞を引きつける要素が存在している。 A 後脳を背側(左側)...

要旨

脳の中では同種の神経細胞は神経核と呼ばれる集団を作っており、入出力を共有しています。即ち、脳における情報処理にとって重要な基本ユニットです。今回私たちは神経核形成の分子機構を明らかにしました。後脳にある小脳前核と呼ばれる神経核群は後脳の背側部で生まれた後、後脳の周囲に沿って移動したのち、一部は正中線を越え、集合して神経核を形成します。私たちはこの神経細胞群が免疫系でその働きがよく知られているケモカイン一種であるSDF-1の受容体であるCXCR4を発現していることに着目しました。この神経細胞は腹側正中線付近に発現するネトリン-1によって誘引されることが知られています。それにもかかわらず、小脳前核細胞がネトリンの発現部位である腹側正中部に真っ直ぐに向かわず、髄膜直下を通って移動する理由は不明でした。私たちはまずこのような移動経路決定のメカニズムを探るための研究に取り組みました。そしてSDF-1とその受容体であるCXCR4のノックアウトマウスを用い、以下の結果を得ました。1)展開培養標本を髄膜が付いた状態で培養すると、in vivoと同様に髄膜直下を小脳前核細胞が移動する様子を観察することができました。いっぽう髄膜を除去すると、多くの細胞が髄膜から離れた神経管の深部を移動する様子が観察されました(図1)。2)後脳髄膜にはケモカインの一種であるSDF-1が発現していました。3)接線方向に移動中の小脳前核細胞はSDF-1の受容体であるCXCR4を発現していました。4)コラーゲンゲル中で菱脳唇と髄膜の組織片またはSDF-1発現する細胞塊を共培養すると小脳前核細胞が誘引されました。5)CXCR4ノックアウトマウスの後脳では、元来髄膜直下に分布するべき移動中の小脳前核細胞の一部が神経管深部を接線方向に移動しました。6)そして神経核形成にも異常が認められ、橋核は左右非対称で後方に偏った分布を示しました(図2)。7)また髄膜のSDF-1は前後軸に沿って濃度勾配を持って分布しており、脳の前に行くほど強い発現がみられました。以上の観察結果は、小脳前核細胞の移動経路の決定やその結果として生ずる神経核の形成には髄膜に発現するケモカインのSDF-1が極めて重要な役割を果たしており、SDF-1による誘引作用により小脳前核細胞が移動中に髄膜に惹きつけられるとともに前方向に誘導されているとの仮説を強く支持しています。

図1 髄膜に小脳前核細胞を引きつける要素が存在している。

A 後脳を背側(左側)および腹側(右側)から見た図。背側部で生まれた小脳前核細胞の一部は後脳の周囲に沿って前方に移動し橋核(PN)を形成する。後方の経路を移動する細胞は外側網様核(LRN)と外楔状核(ECN)を形成する。B 電気穿孔法でGFP遺伝子を用いて小脳前核細胞を標識した。D 2日後に移動の様子を観察すると、正常では表面の髄膜の直下を移動する細胞が、髄膜を除去した標本(E)では表面から離れた部位を移動した。
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図2 CXCR4ノックアウトマウスにおける核形成の異常

A-F 後脳を腹側から見た図。Aは正常マウス。Bはヘテロ。CとDはホモマウス。CとDでは青く染まった橋核の位置と大きさが異常で左右非対称になっているのがわかる。Eは冠状断面を示す。茶色く染まった橋核が左右非対称になっていることがわかる。
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