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piRNA産生とレトロトランスポゾンの抑制におけるMVHの役割を解明

論文誌情報 Gene Dev 24, 887-892 (2010)
著者 倉持-宮川さとみ,渡部聡朗,後藤健吾,高松加奈,中馬新一郎,小島-北加奈子,城本悠助,浅田徳子,豊田敦,藤山秋佐夫,十時泰,柴田龍弘,木村透,中辻憲男,野瀬俊明,佐々木裕之,仲野徹
論文タイトル MVH in piRNA processing and gene silencing of retrotranspoosns.
piRNAのプロセシングとレトロトランスポゾンの発現サイレンシングにおけるMVHの機能
PubMed 20439430
研究室HP 病因解析学研究室〈仲野教授〉

  図1.マウスの精子形成とpiRNAやPIWIファミリーおよびMVH...

要旨

研究の背景

 piRNA(PIWI interacting RNA)は、生殖細胞特異的に発現する小分子RNAです。piRNAは、哺乳類の胎生期において、幼弱な雄性生殖細胞(ゴノサイト)において発現しており、遺伝子のDNAメチル化を介して、レトロトランスポゾンの発現を抑制すると考えられています。piRNAの生合成には、MILIおよびMIWI2といったマウスのPIWIファミリー蛋白が関与していますが、その過程には不明な点がたくさん残されています。

研究の成果

VASAは、生殖細胞特異的に発現しているDEAD-box型RNAヘリケースで、いろいろな生物において生殖細胞の発生・分化に必須であることが知られています。そのマウスホモローグMVH(mouse vasa homologue)も胎仔期から成体の生殖細胞で発現し、欠損オスマウスは不妊であることが知られていました。今回、我々は、MVH欠損マウスにおいて、MILIやMIWI2の欠損マウスと同様に、piRNAの発現低下、レトロトランスポゾンの制御領域におけるDNAメチル化の低下および、その遺伝子発現の上昇、が生じていることを見出しました。また、piRNA合成の場とされているinter-mitochondrial cement(IMC)が、MVH欠損細胞では消失していました(図3)。これらの結果やpiRNAのdeep sequencingの結果から、MVHはpiRNA産生の初期の段階において機能すること(図2)が明らかとなりました。

今後の展開

 小分子RNAを介する遺伝子発現抑制機構の解析は、この10年で飛躍的な進歩を遂げてきました。我々は、哺乳類においても、piRNAの産生がレトロトランスポゾン遺伝子のDNAメチル化に重要であることを明らかにしてきました。しかし、piRNAがどのようにしてDNAメチル化を生じさせるのか、また、哺乳類においてpiRNAがどのようにして産生されるのか、など、未解明な部分が多く、その詳細な分子メカニズムはこれからの課題です。このような課題の解明に、今後も研究を展開していきます。

 

図1.マウスの精子形成とpiRNAやPIWIファミリーおよびMVHの発現時期

胎仔期のゴノサイトでは、細胞増殖が停止し、インプリント遺伝子やレトロトランスポゾン遺伝子にde novo DNAメチル化が生じます。この時期の生殖細胞には、MILIとMIWI2が発現しており、レトロトランスポゾンの配列を持つ25-29塩基のpiRNA(prenatal piRNA)が大量に存在します。×はそれぞれの欠損マウスの精巣において、精子形成が停止する時期を示しています。

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図2.マウスにおけるpiRNA生合成のモデルとMVHの作用点

piRNAの生合成過程は、一次生成過程(primary processing)と二次生成過程(secondary processing)とに分けることができます。一次生成過程では、piRNA前駆体の一次RNA転写産物から、5'末端がウラシル(1stU)であるpiRNAが切りだされMILIに結合します。二次生成過程では、MILIの酵素活性によって、piRNAと相補的なRNAが、piRNAの5'側から10番目の位置で切断されます。その結果、10番目のヌクレオチドがアデニン(10th A)であるpiRNAが産生され、そのpiRNAがMIWI2に取り込まれます。同様に、MIWI2に取り込まれたpiRNAに相補的なRNA転写産物がMIWI2によって切断され1stUのpiRNAが産生されます。この二次生成過程は「ping-pong増幅サイクル」と呼ばれています。MVH欠損マウスでは、MILIに結合するpiRNAは存在しますが、MIWI2に結合するpiRNAは認められませんでした。しかし、10th A のpiRNAは存在することから、ping-pong増幅サイクルにおいて、MILIによるRNAの切断までの反応は進行しますが、その次の段階は進行していないことがわかりました。

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図3.MVH欠損マウスの精巣における生殖顆粒の消失

(A)野生型の胎仔期精巣における抗MVH抗体を用いた組織染色像。VASAは、さまざまな生物種で生殖顆粒に存在することが知られています。マウスのゴノサイトにおいても、MVHは細胞質に均一ではなく、顆粒状に存在しています。 (B)ゴノサイトにおける電子顕微鏡像。生殖細胞には古くより、ミトコンドリアとミトコンドリアの間に、inter-mitochondrial cement(IMC)と呼ばれる電子密度の高い顆粒が存在することが知られていました。このIMCには、MILIおよびMVHが局在することが知られており、それぞれの欠損マウスにおいては、このIMCが消失していました。最近では、IMCはpiRNA産生の場とされていることから、MVHはpiRNA産生の場であるIMCの形成において重要な役割を有していることが明らかとなりました。

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