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PGC7はヒストンH3K9me2との結合を介して受精卵における5mCから5hmCへの変換を阻害する

論文誌情報 Nature 486, 415-419 (2012)
著者 中村肇伸,劉有容,中島啓行,楳原宏紀,井上貴美子,的場章吾,立花誠,眞貝洋一,小倉淳郎,仲野徹
論文タイトル PGC7 binds histone H3K9me2 to protect against conversion of 5mC to 5hmC in early embryos
PubMed 22722204
研究室HP 病因解析学研究室〈仲野教授〉

解説

研究の背景

 哺乳類では、受精後にゲノム全体の5-メチルシトシン(5mC)が消去されるが、精子由来の雄性ゲノムと卵子由来の雌性ゲノムでは、5mC消去のタイミングが異なる。雄性ゲノムの5mCがDNA複製よりも前に能動的に消去されるのに対して、雌性ゲノムの5mCはDNA複製に伴い受動的に消去される。5mCが雌性ゲノムだけで能動的に消去されるために、受精卵においてゲノムの5mCの状態は不均等になる。これは、初期発生における「エピジェネティック不均等性」と呼ばれ、正常な個体発生に重要であると考えられている。
 我々はこれまでに初期胚、始原生殖細胞および卵細胞で特異的に発現するPGC7が雌性ゲノム特異的に5mCから5hmCへの変換を阻害することを明らかにしてきた。また、PGC7は初期発生において、雌性ゲノムだけではなく、インプリント遺伝子やレトロトランスポゾンの制御領域の5mCを維持する機能を有することも見出している。しかし、雌雄両方の前核に存在するPGC7がどのようにして雌性ゲノムや特定の領域を識別し5mCを制御するのかについては不明であった。今回の研究で、PGC7がヒストンH3の9番目のリジンのジメチル化(H3K9me2)を介して雌性クロマチンと結合し、Tet3による5mCから5hmCへの変換から保護することを見出した。さらに、成熟精子においてH3K9me2が存在するインプリント遺伝子の制御領域の5mCもPGC7との結合によって保護されていた。このような制御機構は、初期胚と同様に体細胞においてもDNA修飾に関与することが考えられる。

研究の成果

 受精卵の雌性クロマチンには、5mCとH3K9me2が存在しているのに対して、雄性クロマチンではこれらの修飾がほとんど認められない。そこで我々は、PGC7がH3K9me2を認識することにより、雌性クロマチンと特異的に結合しているという仮説を立て、研究を行った。通常の免疫染色法では、サンプルをパラホルムアルデヒド(PFA)等で固定した後、TritonX-100等で処理を行う。しかし、この方法では核内に存在するタンパク質は、クロマチンとの結合の有無に関係なく同じように染色される(図1A、PFA-Triton: TP)。そこで、サンプルをTritonX-100で前処理することにより、クロマチンとの結合が弱いタンパク質を洗い流した後、免疫染色を行った。その結果、通常の免疫染色では、雌雄両方の前核に検出されるPGC7がTritonX-100で前処理を行った場合には、雌性前核にのみ検出されるようになった(図1A、Triton-PFA: PT)。すなわち、PGC7は雌性クロマチンと強く結合していることが明らかとなった。次に、この結合がH3K9me2を介したものであるかどうかを検討するために、受精卵にH3K9me1/2に特異的な脱メチル化酵素であるJhdm2a(Kdm3a)を強制発現させた。その結果、Jhdm2aを発現させた場合にはH3K9me2が脱メチル化され、PGC7と雌性クロマチンの結合が解除された(図1B)。さらに、Jhdm2aを発現させた受精卵において、雌性ゲノムの5mCが5hmCへと変換されることがわかった(図1C)。これらのことから、PGC7はH3K9me2を認識して雌性クロマチンと結合することにより、雌性ゲノムを特異的に5mCから5hmCへの変換から保護していることが明らかとなった。
 これまでの研究から、受精卵における5mCから5hmCへの変換にはTet3が関与することが明らかにされていた。そこで、ES細胞を用いてPGC7がTet3のクロマチンへの結合に与える影響を検討した。PGC7ノックアウトES細胞にTet3を単独で発現させたところ、Tet3はクロマチンと結合することがわかった。一方、PGC7ノックアウトES細胞にPGC7とTet3を共発現させた場合には、PGC7はクロマチンに結合していたが、Tet3はクロマチンと結合していなかった。このことから、PGC7はTet3のクロマチンとの結合を阻害することがわかった。次に、C末端を欠質させたPGC7ΔC変異体を用いて同様の実験を行ったところ、PGC7ΔCはクロマチンとは結合したが、Tet3のクロマチンへの結合は阻害しないことがわかった。さらに、PGC7ΔC は全長のPGC7とは異なりMNase活性を阻害しないことが示された。

 PGC7によるTet3の阻害の分子機構には、PGC7とTet3のクロマチンへの競合的結合、PGC7による立体障害、PGC7によるクロマチンのコンフォメーション変化、の3つの可能性が考えられる。しかし、PGC7ΔCがクロマチンと結合するにも関わらず、Tet3のクロマチンと結合を阻害しなかったことから、PGC7がTet3と競合してクロマチンと結合している可能性は否定された。次に、PGC7(約17kDa)は、コアヒストン(約100kDa)に対して小さいこと、PGC7がヒストンのテールに結合するにも関わらずヌクレオソームのリンカー部を優先的に切断するMNaseの活性を阻害すること、から、PGC7による立体障害の可能性も低いと考えられる。これらのことから、PGC7はN末端側でクロマチンと結合することにより、クロマチンのコンフォメーション変化を誘起し、Tet3を阻害している可能性が高いと考えられる(図2)。


今後の展開

 今回の報告により、PGC7がH3K9me2を認識してクロマチンと結合することで、受精卵の雌性ゲノムに存在する5mCをTet3による5hmCへの変換から保護することが明らかとなった。また、インプリント遺伝子の制御領域に存在する5mCも同様の機構で維持されることが示された。しかし、最近5hmCはTetによりさらに5-ホルミルシトシン(5fC)、5-カルボキシルシトシン(5caC)へと変換されうることが報告されている。今後、これらの新たな塩基の生理的な役割や生物学的な意義が解明されることが期待される。

図1.
PGC7はヒストンH3K9me2との結合を介して雌性ゲノムを特異的に5mCから5hmCへの変換から保護する

A  受精卵をPTまたはTP条件でPGC7(赤)、H3K9me2(緑)およびDAPI(青)で染色した。
B  受精卵にJhdm2aを発現させ、TP条件でPGC7(赤)、H3(緑)およびDAPI(青)で染色した。
C  受精卵にJhdm2aを発現させ、5mC(緑)、5hmC(赤)およびDAPI(青)で染色した。

p: 雄性前核、m: 雌性前核、pb: 極体



図2.
PGC7による5-メチルシトシンから5-ヒドロキシメチルシトシンへの変換制御の分子機構

父性クロマチンでは、H3K9me2が存在しないために、PGC7がクロマチンと結合できず、Tet3による5mCから5hmCへの変換が生じる(左図)。一方、母性クロマチンでは、PGC7がH3K9me2を介してクロマチンと結合してコンフォメーションを変化させることにより、Tet3の機能を阻害している(右図)