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紫外線高感受性症候群原因遺伝子の発見と転写と共役したDNA修復における機能解析

論文誌情報 Nat Genet 44, 593-597 (2012)
著者 張雪,堀端克良,西條将文,石上智愛,鵜飼明子,菅野新一郎,田原英俊,Edward G. Neilan,本間正充,能美健彦,安井明,田中亀代次
論文タイトル Mutations in UVSSA cause UV-sensitive syndrome and destabilize ERCC6 in transcription-coupled DNA repair
PubMed 22466612
研究室HP 細胞機能学研究室〈西條准教授〉

解説

研究の背景

 ヌクレオチド除去修復(nucleotide excision repair: NER)は、紫外線(UV)損傷を始め多様なDNA損傷を修復できる遺伝情報維持機構である。NERに異常をもつヒト遺伝疾患として、日光露出部位での高頻度皮膚発がんや種々の精神神経症状を示す色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum: XP)、日光過敏症、身体発育不全、精神神経症状や早期老化を示すコケイン症候群(Cockayne syndrome: CS)、日光露出部の皮膚にしみ、ソバカスを多発する紫外線高感受性症候群(UV-sensitive syndrome; UVSS)などがあり、NERの重要性が示唆される。UV等による鋳型鎖上のDNA損傷はRNAポリメラーゼII (RNA pol II)による転写をブロックし、細胞死を誘導する。NERの副経路である「転写と共役した修復」(transcription-coupled repair; TCR)は、鋳型鎖上のDNA損傷を迅速に修復し転写を再開することができる。しかし、CSとUVSSはTCR機構を選択的に欠損しており、転写中の遺伝子の鋳型鎖上のDNA損傷が除去されず、RNA pol IIが損傷部位で停止したままで転写を再開することができない。
 一方、XPには8つの遺伝的相補性群が存在し(XP-A〜XP-G及びXP-V)、CSにはAとB群(CS-AとCS-B)の2つの相補性群が存在する。XPBXPDXPG遺伝子の突然変異によってXPとCSを合併する患者も存在する。UVSSには3つの遺伝的相補性群が存在し、このうち2つの相補性群の原因遺伝子は、CSの原因遺伝子でもあるCSA(ERCC8)
CSB(ERCC6)であることが報告されている。UVSSとCSのどちらもTCRが欠損しているにもかかわらず症状が異なる理由について、CSでは酸化的DNA損傷の修復やRNA pol IIやRNAポリメラーゼI (RNA pol I)の転写も影響を受けているのに対し、UVSSでは正常であることがその原因ではないかと言われているが、詳細は不明である。TCRは、転写の鋳型鎖上のDNA損傷によりRNA pol IIが停止することことが引き金になると考えられ、CSA、CSBが関与するが、その分子機構は明らかではない。今回我々は、原因遺伝子のわかっていなかったA群UVSS (UVSS-A)の原因遺伝子をクローニングし、そのTCR機能の解析を行った。


研究の成果

1. UVSS-A原因遺伝子のクローニング
 UVSS-A群患者由来の繊維芽細胞であるKps3細胞は、UVに高感受性を示し、TCRの指標であるUV照射後のRNA合成の回復(UV-RRS)がみられないという特徴がある。UVSS-A群の原因遺伝子をクローニングするために、マウスA9細胞より調製した微小核とKps3細胞を融合し、マウスの染色体をKps3細胞にランダムに導入した(微小核融合法)(図1)。UVを定期的に照射しながら6週間培養した結果、UV抵抗性の4つの独立したKps3クローンが得られた。これらの細胞は、正常細胞と同程度のUV抵抗性とUV-RRSを示した。
 これら4クローンに導入されたマウスのDNAを同定するために、CGHアレイ解析を行った。4クローンのうち2クローンはマウス5番染色体全体(このうち1クローンはさらに12番と17番染色体の一部分も)が導入されていた。残りの2クローンでは、マウス5番染色体の小断片が導入されていた。導入されたDNAで共通している領域は600 kbで、11個の遺伝子が存在していた。
 次に、この領域をカバーする6つのBACクローンをKps3細胞に導入してUV抵抗性を調べたところ、
4933407H18Rik遺伝子を含むBACのみでUV抵抗性がみられた。このマウス遺伝子のヒトのホモローグはKIAA1530である。KIAA1530 cDNAをKps3細胞に導入することにより、UV抵抗性とUV-RRSが正常細胞と同程度に回復した。さらに、日本人UVSS-A患者(Kps3、XP24KO)細胞ではKIAA1530 遺伝子にホモ接合性のノンセンス突然変異が、イラン人患者(TA24)細胞ではホモ接合性の1塩基欠失によるフレームシフト変異が見つかった。以上の結果は、KIAA1530がUVSS-Aの原因遺伝子であることを示しており、この遺伝子をUVSSAと命名した。(図2)

2. UVSSAとTCR因子との相互作用
 TCRにおけるUVSSAの機能を明らかにするために、UVSSAと相互作用する新規タンパク質を検索した。その結果、ユビキチン鎖分解酵素であるUSP7がUVSSAと結合することが明らかになった。USP7を siRNA を用いてノックダウンした細胞はUV感受性になりUV-RRSも低下した。さらに、USP7 siRNA を導入した細胞ではUSP7のみならずUVSSAの量も減少した。すなわち、細胞内ではUSP7とUVSSAは安定な複合体を形成し、TCRに関与することが明らかになった。次に、UVSSA-USP複合体と既知のTCR因子との相互作用を調べた。UV照射した細胞より調製したクロマチン画分で、UVSSA-USP複合体はCSA、CSB、RNA Pol IIと結合した。しかも、UVSSA-USP複合体とDNA損傷で転写を停止したRNA Pol IIとの結合は、CSAとCSB 依存性であることがわかった。

3. UVSSA-USP7複合体のUV照射後の非リン酸化型RNA Pol II回復やCSBタンパク質安定化機構への関与
 UV照射によるDNA損傷は、RNA pol IIによる転写伸長を阻害するだけではなく、RNA pol II最大サブユニットRPB1のC末端領域が低リン酸化型であるRNA pol IIaの減少をもたらす。RNA pol IIaは転写再開に必要であり、UV照射後の時間とともに回復するが、TCRを欠損したCS細胞では回復しないことが報告されている。Kps3細胞とUVSSAを発現させ正常化したKps3細胞とでUV照射後のRPB1のリン酸化状態を調べたところ、正常化細胞ではUV照射後にRNA pol IIaが一旦減少したのち回復したのに対し、Kps3細胞ではRNA pol IIaは減少したまま回復しなかった。この結果は、CSB, CSAに加えUVSSAもUV照射後のRNA pol IIaの回復に必要であることを示している。さらに、正常化Kps3細胞ではUV照射後のCSBの減少がわずかなのに対して、Kps3細胞では大幅な減少がみられた。この結果は、UVSSAがTCRにおいてCSBを安定化するのに重要な役割を果たしていることを示唆している。UV照射後のCSBの減少は、UVSSAをノックダウンした細胞のみならず、USP7をノックダウンした細胞においても観察された。一方、UVSSAを欠損しているKps3細胞でUSP7をノックダウンしてもCSBの減少に変化はなかった。これらの結果より、UVSSA-USP7複合体はUV照射後のCSBの分解を防いでいると考えられる。また、プロテアソーム阻害剤MG132存在下では、UV照射後のKps3細胞におけるCSBの減少が抑制されるとともに、RNA pol IIaの回復もみられた。以上の結果より、UVSSAが機能しないとUV照射後にCSBはユビキチン化されてプロテアソームにより分解され、そのためにRNA pol IIaの回復が起こらないことが示された。(図3)


今後の展開

CSBタンパク質は、DNAの損傷部位で停止したRNA pol IIに他の修復因子をリクルートするのに必須であり、また転写の再開にも必要な因子である。今回の結果より、UVSSA-USP7複合体はUV照射後のCSBの安定化に関与することが示された。このCSBの安定化によりRNA pol IIaが回復し、転写が再開すると考えられる。一方、Kps3細胞では転写鋳型鎖上のDNA損傷の除去がみられないことから、UVSSAは転写の再開だけでなく損傷を除去する過程においても必要である。その機能が上記のようにCSBの安定化によるものなのか、あるいは別の働きがあるのかはまだ不明である。今後、新たに加わったTCR因子であるUVSSA-USP7複合体の機能を解析することによりTCRの分子機構が明らかになることが期待される。(図4)

図1.微小核融合によるUV抵抗性クローンの単離
UV抵抗性クローンを単離するために、Kps3細胞とマウスA9細胞より調製した微小核を融合し、マウスの染色体をランダムに導入した。染色体を断片化するために、場合によってはガンマ線を照射した微小核を使用した。結果として、UV抵抗性の4クローンが得られた。


図2.Kps3、XP24KO、TA24患者におけるUVSSA遺伝子の突然変異


図3.UVSSAによるCSBタンパク質の安定化
UVSSAを欠損しているUVSS-A患者細胞では、TCR因子のひとつであり転写の再開に必要なCSBタンパク質の分解がUV照射後に増加する。UVSSAはユビキチン鎖分解酵素であるUSP7と複合体を形成しており、この複合体の機能によりCSBタンパク質が安定化される。


図4.現在考えられているTCR機構のモデル