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磁性細菌(注1の驚異的高速遊泳を可能にする 水平連結六方7連べん毛モーター
仕組み解明!

論文誌情報 Proc Natl Acad Sci USA 109, 20643-20648 (2012)
著者 Juanfang Ruana(1),Takayuki Katoa(1),Claire-Lise Santinib(2),Tomoko Miyataa(1),Akihiro Kawamotoa(1),Wei-Jia Zhangb(2),Alain Bernadacc(3),Long-Fei Wub(2),Keiichi Namba(1,4)
  1. Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  2. Laboratoire de Chimie Bactérienne, Unité Mixte de Recherche 7283, Aix-Marseille Université, Centre National de la Recherche Scientifique, F-13402, Marseille Cedex 20, France
  3. Service de Microscopie, Aix-Marseille Université, Institut de Microbiologie de la Méditerranée-Centre National de la Recherche Scientifique, F-13402, Marseille Cedex 20, France
  4. Riken Quantitative Biology Center, Suita, Osaka 565-0871, Japan
論文タイトル Architecture of a flagellar apparatus in the fast-swimming magnetic bacterium MO-1
PubMed 23184985
研究室HP 日本電子YOKOGUSHI恊働研究所〈難波特任教授〉

図1.地中海で発見された磁性細菌MO-1 (A) MO-1のクライオ電子顕微鏡写...

解説

大阪大学大学院生命機能研究科のJuanfan Ruan 研究員、加藤貴之助教、難波啓一教授と、フランスCNRSのLong-Fei Wu らの共同研究グループは、電子線クライオトモグラフィー法(注2により、驚異的な速度で高速遊泳する細菌が持つ7 連のべん毛モーターの仕組みを解明しました。



研究の背景と内容


 大腸菌などの細菌は、べん毛と呼ばれるらせん状の運動器官を数本持ち、それを根元にあるべん毛モーターで回転させることで水中を自由に泳ぐことができます。べん毛モーターは直径45ナノメートル程度の極めて小さなモーターですが、大腸菌やサルモネラ菌の場合、約2万 rpm というF1マシンのエンジンに匹敵する速度で回転し、瞬時に逆回転することもできる高性能なモーターです。

 2年前に地中海で発見された磁性細菌MO-1は、体長 2 m x 1.5 m のそらまめのような形をした細菌で、体内にあるmagetosomeと呼ばれる、地磁気を感じる器官を使って泳ぐ方向を決めることができます。両極には7本のべん毛繊維が束となって鞘に包まれた運動器官を1本ずつ持っており、それを使って300μm/秒という、大腸菌やサルモネラ菌の10 倍にも達する速度で泳ぎます(図 1)。

 本研究では、低温電子顕微鏡を用いた電子線クライオトモグラフィー法により、MO-1 のべん毛とべん毛モーターの構造を解析し、高速遊泳のメカニズムを明らかにしました。鞘に包まれたべん毛繊維の束を詳細に観察したところ、7本のべん毛繊維と24本の微小繊維が束になっており、その束がほどけないように、編みタイツのような表面構造を持つ “鞘”に包まれていることがわかりました(図2)。また、モーター部分の構造を解析したところ、驚くべきことに、7個のべん毛モーターと24 個の微小繊維の基部体が2 次元に連結されており、各々のべん毛モーターを6個の微小繊維の基部体が囲むように規則配列していることがわかりました。この2次元配列は、脊椎動物の骨格筋の太いミオシン繊維と細いアクチン繊維の配列と全く同じで、細菌のように単純な微生物がこのように複雑な、しかも複数の回転モーターの規則配列からなる運動器官を持つことがわかったのはこれが初めてで、驚くべき発見です(模式図は図4)。

 7本のべん毛繊維が鞘に包まれていることは以前から知られていましたが、密に詰まった束の中でお互いに接触し合うべん毛繊維がどのよう摩擦を回避して高速回転するのか、まったくの謎でした。今回明らかにした構造では各々のべん毛繊維を6本の微小繊維が取り囲んでおり、べん毛繊維が回転する際に、それを囲む微小繊維が逆方向に回転すればべん毛繊維間の摩擦がなくなり、7本のべん毛繊維が同期して高速に回転できると考えられます。その様子を図2に示します。



今後の展開



 べん毛モーターは直径わずか45 nmからなる小さなモーターで、高速で回転できるにもかかわらず、エネルギー変換効率がほぼ100%という高性能な分子モーターです。今の機械に使われているモーターや車のエンジンは、この高性能モーターに遠く及びません。そのため、べん毛モーターのメカニズムを明らかにすることは、よりエネルギー変換効率の高いモーターを作成することを可能にします。



用語解説



注1)磁性細菌

磁性細菌はマグネットソームと呼ばれる器官をもつ微生物で、有機栄養源となる堆積層の表面近くに生活する。極微量の酸素が存在する環境を好む微好気性細菌である。マグネットソームはナノメートルスケールの微小な磁石で、地磁気を感じて方位磁針のような役割を果たす。



注2)電子線クライオトモグラフィー法

電子線クライオトモグラフィー法では、穴が無数にあいたカーボン薄膜を載せた試料グリッド上に生体分子水溶液を載せて余分な水分を濾紙で吸い取り、グリッドを液体エタンに突入させて急速凍結し、電子顕微鏡の観察試料にする。こうして非晶質の氷薄膜中に閉じ込めた試料を、-70°から70°まで傾斜させ、さまざまな角度からの電子顕微鏡写真を撮影する。その撮影角度を正確に見積もり、病院のX 線CT と同じ計算法で生体分子の立体像を再構成することができる。非晶質の氷薄膜中に閉じ込めた生体分子の立体構造は電子線照射に対して弱く、照射ダメージを抑えるため、個々の写真は非常に低い電子線量で撮影される。その結果、得られる立体像の解像度は低いが、細胞中で機能している状態の生体分子の構造を観察できる唯一の方法である。

図1.地中海で発見された磁性細菌MO-1

(A) MO-1のクライオ電子顕微鏡写真と(B)そのトレース
M:マグネットソーム、P:リン酸を貯蔵した液胞
矢印:べん毛の束

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図2.電子線クライオトモグラフィーによる磁性細菌のべん毛モーターの立体構造

(A-E) 構造解析された磁性細菌のべん毛モーターの奥から手前のスライス像。

(F) べん毛繊維(虹色)、鞘(ピンク)、細胞外膜(青緑色)のトレース。

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図3.鞘に包まれ密な束になったべん毛繊維と微小繊維の相互逆回転による、べん毛繊維の高速同期回転メカニズム

(A) 電子顕微鏡で観察されたべん毛繊維と微小繊維の基部体部分。
(B) (A)で観察されたべん毛基部体を黄色、微小繊維の基部体を緑色でトレースした。
(C) べん毛繊維と微小繊維の回転の模式図。べん毛繊維(黄色)が反時計方向に回転すると、微小繊維(緑色)が時計方向に回転し、べん毛繊維の回転における摩擦を軽減する。

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関連動画.
べん毛繊維と微小繊維の回転。べん毛繊維(黄色)が反時計方向に回転すると、微小繊維(緑色)が時計方向に回転し、べん毛繊維の回転における摩擦を軽減する。



図4.水平連結六方7連べん毛モーターの模式図

金色がべん毛モーター、銀色が微小繊維基部体

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