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ネットワークに内在する情報のベクトル化と制御

論文誌情報 Sci Rep 5, 14984 (2015)
著者 木津川尚史(1),八木健(1)

  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
論文タイトル The transfer and transformation of collective network information in gene-matched networks
PubMed 26450411
研究室HP 心生物学研究室〈八木教授〉

解説

 人間関係や神経回路など、この世界に存在する多くのものはお互いに関係を持ちネットワークを形成しています。そしてネットワークの多くは、その内部に情報を有しています。ただし、ネットワーク内の情報はネットワーク内部のノードに分散しているため、数値化などにより明示することが容易ではありません。このほど、当研究科心生物学研究室の木津川准教授と八木教授は、Gene-Matched Network(GMN)というネットワークを作成してネットワーク内の情報の保持・変換について解析し、GMN内の情報をベクトルで表現することに成功しました。


研究の背景

 八木研究室の主要な研究テーマの1つが、クラスター型プロトカドヘリン(cPcdh)という遺伝子群の研究です。ゲノム上には、50種類以上のcPcdh遺伝子が並んでおり(図1上)、多くの神経細胞ではcPcdhを数個ずつ発現しています。しかしながら、発現パターンは神経細胞ごとに異なります(図1下)。「このちょっと不思議な発現パターンが、神経細胞間のシナプス結合に寄与しているとしたら、できあがる神経回路はどのようなネットワークになるのだろう?と思ったのが、GMN作成の端緒でした」と、木津川准教授。さらにGMNの作成に当たっては、「GMNの作成手順はとても簡単です。『ニューロンペアが同一の遺伝子を発現していたら結合をつくる』これだけです」と語っています。それをモデル化した図が、図2です。遺伝子の種類を色で示しています。個々のニューロンは2種類の遺伝子を発現していて、同じ遺伝子を持つニューロン同士が結合しています。


今回の研究成果

 情報の流れを解析するために、レイヤー型のGMNを用いました(図3)。シグナルは上部からLayer 1に入りLayer 2に伝達されます。この図では、Layer 2のニューロンは、受け取った入力が多いほうから50%のニューロンが活動すると設定しています。ネットワークが情報を持っている場合、その情報は「どのニューロンが活動したか」を示すことにより表すことができます。この情報表現様式をニューロンコードと呼ぶことにします。また、GMNでは、遺伝子コードと名付けたもうひとつの情報表現様式を提案しています。これはGMNならではの情報表現様式で、活動したニューロンが発現している遺伝子のヒストグラムにあたり、単一のベクトルになります(図3下)。
 GMNが情報をどのように扱うかを理解するために、1枚の写真から12x12ピクセルの小画像を抜き出して(図4a)、図4b, c, d, eに示した4種類のGMNに入力し情報の伝達・変換を解析しました。その結果、GMNはレイヤーを縦に10層重ねたものでさえ(図4a)、画像の情報を失わずに伝達できることがわかりました。遺伝子コードのヒストグラムの形が第2層(図4f)と第10層(図4h)であまり変わっていないことに注目してください。この第10層における遺伝子コードを元にして、2層における遺伝子コードがこれと類似している小画像を探してみました。その結果、遺伝子コードが似ている画像は画像自体も似ていることを見いだしました(図4p)。このことは、1)遺伝子コードが似ていれば画像も似ていること、つまり遺伝子コードが画像情報をコードしていること、また2)GMNは層を越えて情報を伝達することができることを示しています。一方、抑制性のニューロンを想定したレイヤーを用いたGMN(図4c)では、遺伝子コードは反転され、実際に反転した画像を見つけることになりました。図4d, eのような、分岐や統合を加えたGMNでも、それぞれ一貫した遺伝子コードの変換が観察されました。
 最後に、どうしてGMNが情報を伝達できるのか、その理由を説明したいと思います。図5aに示すように、レイヤー型のネットワークでは、シグナルはレイヤーを進むごとに集積・分散されます。この集積・分散がランダムに起これば、それは加算平均になります。つまり、ランダムネットワークでは、情報はレイヤーを進むにつれて薄まり失われてしまいます。一方、GMNでは、同一の遺伝子を発現するニューロン同士が完全に結合しあっています。結合が密であれば、その中の情報は再入力しあって、薄まらず伝達されると考えられます。つまり、ある遺伝子を発現するサブネットワークにいったん情報が入ってしまえば、その情報は失われずに伝わることになります。このようにサブネットワークに入り込んだネットワーク情報をサブネットワーク情報素(情報素)と名付けました。ネットワーク全体の情報は、情報素の集合として捉えることができ、サブネットワークごとの情報素量の比率で表されると考えられます。一方、遺伝子コードの各要素は、特定のサブネットワーク内に格納された情報素の量を表しています。たとえば、図3bの遺伝子コードの最初の“1”は、遺伝子1を発現するサブネットワーク1に格納された情報素の量になります。したがって、遺伝子コードは遺伝子1~10により形成されたサブネットワーク1~10に格納された情報素量の比率を表します。こうして、遺伝子コードはネットワーク内の情報を表現していると考えられるのです。
 GMNは、スモールワールド性やクラスター性などの点で、人間社会などのネットワークと共通した特徴を持っています。今後、そのようなネットワークをGMNとして表現することができれば、そのネットワークに内在する情報を遺伝子コードとしてベクトル表現できるようになるかもしれません。

図1.クラスター型プロトカドヘリンとその発現様式

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図2.色あわせで線を結んだらGene-Matched Network

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図3.ニューロンコードと遺伝子コード

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図4.GMNによる小画像情報の伝達と変換

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図5.ランダムネットワーク(a)とGMN(b)

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