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ヒト肺炎病原菌の感染器官の3D構造を解明

論文誌情報 mBio 7, e00243-16 (2016)
著者 川本晃大(1),松尾里紗(2),加藤貴之(1),山本泰生(2),難波啓一(1),宮田真人(2)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 大阪市立大学大学院理学研究科
論文タイトル Periodicity in attachment organelle revealed by electron cryotomography suggests conformational changes in gliding mechanism of Mycoplasma pneumoniae
PubMed 27073090
研究室HP プロトニックナノマシン研究室〈難波特任教授〉

要旨

生命機能研究科難波研究室の川本晃大特任助教らは、大阪市立大学理学研究科の宮田真人教授の研究室の大学院生(当時)松尾里紗さんとの共同研究により、ヒトに肺炎を発症させる細菌「マイコプラズマ・ニューモニエ」が、ヒトに感染するために接着と滑走を行う装置である“接着器官”の三次元構造を、ナノメートルレベルで明らかにしました。マイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起“接着器官”を形成し、この突起で宿主組織の表面に張り付いたまま“滑走運動”を行いますが、これが感染にも重要な役割を果たすことが知られています。これまでの研究により、接着器官を構成しているタンパク質の存在およびその位置は同定されていましたが、滑走運動の詳細なメカニズムは分かっていませんでした。本研究で解明した構造から、接着器官内部にある構造が伸び縮み可能な構造であることが示され、滑走運動メカニズムの解明に踏み込むことに成功しました。

本研究成果は、マイコプラズマの接着器官の構造と機能に関する今後の研究を大きく進展させるもので、マイコプラズマ感染症対策の研究に役立つことが期待されます。

本研究成果は、米国の微生物学専門オンライン誌であるmBioに掲載されました。

解説

研究の背景

日本で毎年数万~数十万人が発症しており、ヒト市中肺炎の10〜30%を占める“マイコプラズマ肺炎”(図1)は、マイコプラズマ・ニューモニエという小さな細菌によって起こります。この肺炎は、2010〜2011年に世界的に大流行しました。また、最近ではごく近縁のマイコプラズマ・ジェニタリウムが起こす「非クラミジア性非淋菌性尿道炎」患者の増加も問題になっています。マイコプラズマ感染症はマクロライド系抗生剤での治療が行われますが、耐性菌の比率が増えていることも懸念されています。

これらマイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起状の接着器官を形成し、この突起で宿主組織の表面に張り付き滑走運動を行います。この接着と滑走はマイコプラズマの感染にも必須です。接着器官は多種類のタンパク質により形成される複雑な装置で、ゲノム情報を見るかぎり既知の生物に類似のものは一切ありません。そのためその構造や接着・滑走運動のメカニズムは長らく未解明のままでした。


研究の内容

本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いた電子線クライオトモグラフィー※1により機能状態の滑走装置の立体構造を明らかにしました。滑走装置の三次元像がナノメートルレベルで詳細に明らかになり、図2のピンク色で示した細胞表面の突起がおよそ格子状に並んでいること、青色で示した薄いプレート部分が蜂の巣のような格子構造を持つ硬い構造であること、黄色で示した厚いプレート部分が蛇腹のような伸び縮み可能な構造であることが明らかになりました。そして、ピンク色で示した突起が滑走のための“あし”として働くP1 アドヘジンというタンパク質であることを、免疫染色法を用いた電子顕微鏡観察によりつきとめました。


今後の展開

単離した構成タンパク質の立体構造をクライオ電子顕微鏡像解析法やX線結晶構造解析法により解析することで、接着器官の構造をより高解像度で明らかにします。それと並行して、タンパク質を蛍光標識し蛍光顕微鏡でその動きや接着器官の構造変化を調べることで、どの部分がどのように動いて滑走運動が起こっていのるかを調べます。接着と滑走に必須である滑走装置の分子構造は、マイコプラズマ感染症対策のための重要な情報となることが期待されます。


用語解説
  1. 電子線クライオトモグラフィー
    タンパク質や細胞を無染色無固定のまま試料グリッド上で急速凍結し、低温試料ステージを搭載した透過型電子顕微鏡(クライオ電子顕微鏡)に挿入してグリッドを傾斜しながら多方向で投影像を撮影し、これら多数の傾斜像から三次元構造を再構成する手法。手法の原理は病院で実施されるX線CTと同じである。得られる三次元構造の解像度は低いが、細胞内で機能している状態の生体分子の構造を壊さずそのまま観察できる唯一の方法。

特記事項

本研究は、下記の計画研究の一部として行われました。

  • 科研費・新学術領域「運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性」(領域代表:宮田真人)
    http://bunshi5.bio.nagoya-u.ac.jp/~mycmobile/index.php
  • 科研費・特別推進研究「クライオ電子顕微鏡による生体分子モーターの立体構造と機能の解明」(研究代表:難波啓一)

本件に関する問い合わせ先

  • 研究に関すること
    宮田 真人(みやた まこと)
    大阪市立大学 大学院理学研究科 細胞機能学研究室 教授
    TEL:06-6605-3157
    携帯電話:080-3118-2060
    E-mail:miyata@sci.osaka-cu.ac.jp
    関連URL:http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/~miyata/index.html
  • 報道に関すること
    大阪市立大学 法人運営本部 広報室
    松木・三苫
    TEL:06-6605-3410
    FAX:06-6605-3572
    E-mail:t-koho@ado.osaka-cu.ac.jp

図1.電子顕微鏡で観察した肺炎マイコプラズマ。

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図2.滑走装置の三次元構造。細胞膜を白で部分的に示してある。細胞表面上に並ぶピンク色の突起が宿主組織に張り付き、左方向に滑走する。青色と黄色の2枚のプレートは細胞内部の器官。上と下は同じものを90度回転して見た図。

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図3.接着器官の細胞内部にある2枚のプレート構造。(A)図2の青色で示した薄いプレート。蜂の巣のような格子を持つ硬い構造。(B)図2の黄色で示した厚いプレート。蛇腹のように伸び縮み可能な構造。(C,D)多数の薄いプレート(A)の平均像とそのフーリエ変換像。(E,F)多数の厚いプレート(B)の平均像とそのフーリエ変換像。(G)厚いプレートの繰り返し構造の周期長の分布。大幅に伸び縮み可能な構造であることがわかる。

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図4.滑走運動のメカニズム。厚いプレート(黄色)が伸びることで接着器官前方にある構造(緑色)が突起先端の細胞膜を押し細胞が前方に伸びる。厚いプレートが縮むと後方にある構造(オレンジ色)が前方に移動する。この構造変化を繰り返すことで前方に進むことができると考えられる。

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