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炎症誘導機構【炎症アンプ】は様々な病気に関連していた!
- メタボリック症候群など慢性炎症性疾患の新規治療法開発へ -

論文誌情報 Cell Rep 3, 946-959 (2013)
著者 村上 正晃(1),原田 誠也(1),上村 大輔(1),小椋 英樹(1),奥山 祐子(1),熊井 乃里子(1),奥山 梓(1),Rajeev Singh(1),蔣 菁菁(1),熱海 徹(1),白矢 紗也佳(2),中辻 裕司(2),木下 允(2),上阪 等(4),西田 誠(6),佐古田 三郎(5),宮坂 信之(4),瀧原 圭子(6),平野 俊夫(3)
  1. 大阪大学 大学院生命機能研究科、大学院医学系研究科、免疫学フロンティア研究センター、JST-CREST 免疫発生学研究室
  2. 大阪大学 大学院医学系研究科 神経内科学
  3. 大阪大学 JST-CREST
  4. 東京医科歯科大学大学院医学研究科
  5. 刀根山病院
  6. 大阪大学保健センター

<お問い合わせ>
村上 正晃(ムラカミ マサアキ)
大阪大学 大学院生命機能研究科、大学院医学系研究科、免疫学フロンティア研究センター、JST-CREST 免疫発生学研究室
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2
Tel:06-6879-3881
Fax:06-6879-3889
E-mail:murakami@molonc.med.osaka-u.ac.jp
論文タイトル Disease-Association Analysis of an Inflammation-Related Feedback Loop
PubMed 23434511

図1.炎症アンプは非免疫系細胞の炎症誘導機構である血管内皮細胞や線維芽細胞といっ...

解説

 大阪大学大学院生命機能研究科の村上正晃准教授と大阪大学の平野俊夫総長らの研究グループは、JST課題解決型基礎研究の一環として、本研究グループが発見した局所炎症誘導の分子機構である『炎症アンプ』がヒトの様々な疾患や病態に関与することを、全ゲノムを対象にした機能的スクリーニングの結果とヒト疾患関連遺伝子データベースとの情報とを照合する新たな方法によって明らかにしました。また、炎症アンプの機能的スクリーニングによって同定された遺伝子の1つである増殖因子エピレグリンについて詳細な解析を行い、エピレグリンの中和や細胞内信号伝達の遮断によって、関節リウマチや多発性硬化症の動物モデルの症状が劇的に改善されることを示しました。さらに、ヒトの関節リウマチ、多発性硬化症および動脈硬化の患者の血清中のエピレグリン量は、対照群と比較して有意に増加していることが分かりました。これらの結果は、大規模な機能的スクリーニングデータをヒト疾患の発症機構と関連づける新たな方法を確立するとともに、増殖因子エピレグリンがヒトの慢性炎症性疾患の疾患マーカーや治療標的として利用できる可能性を示唆しています。


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研究の背景

 自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患は、未だに根治が難しい病気です。最近では動脈硬化やメタボリック症候群、神経変性疾患などにも慢性炎症が関与していると考えられています。慢性炎症性疾患が難病である原因のひとつは、その分子レベルでの発症機構がよく分かっていないという点にありました。我々の研究室ではマウスの自己免疫疾患モデルを用いてこの分子機構について研究を進めてきました。炎症部位には免疫細胞の浸潤が認められますが、我々は、免疫細胞というよりはむしろ血管等を構成する内皮細胞や線維芽細胞といった非免疫系の細胞から多量の炎症性因子(IL-6などのサイトカインやケモカイン)が産生されることが自己免疫疾患の発症に重要であることをマウスの病気のモデルで明らかにしてきました。この炎症の根源ともいえる多量の炎症性因子の産生機構を『炎症アンプ』と命名し、その分子機構として転写因子STAT3とNF-kBの同時活性化が重要であることを以前から報告しています(図1)。



研究の成果

 今回の研究では、炎症アンプの分子基盤をより詳細に明らかにするために、特定の遺伝子機能を阻害することができるshRNAを利用して、約16,000遺伝子についてそれぞれ遺伝子機能を阻害し、炎症アンプの活性化に与える影響を網羅的にスクリーニングしました。その結果、約1000遺伝子が炎症アンプの活性化を制御していることが判明しました。さらに、炎症アンプの活性化によってどのような遺伝子が誘導されるかをスクリーニングするために、DNAアレイ法を用いて解析し、マウスの細胞において約500遺伝子、ヒトの細胞では約800の遺伝子が炎症アンプの活性化で発現する標的遺伝子であることが分かりました。
 これまでの炎症アンプの研究はマウスを使った実験が多く、ヒトの病気に関係しているかどうかは推測の域をでませんでした。このことから、ヒトの疾患関連遺伝子データベースを利用するということを考えました。このデータベースにはヒトのさまざまな疾患に関係する遺伝子の情報が世界中から集められています。我々の行った3種のスクリーニングで同定された炎症アンプの制御遺伝子群および標的遺伝子群が、このデータベースの疾患関連遺伝子群をどれだけ含むのかを検討したところ、任意に抽出した遺伝子群と比較して、今回同定できた炎症アンプの制御遺伝子群および標的遺伝子群には有意に多くの疾患関連遺伝子が含まれることが分かりました。またその疾患関連遺伝子群には、自己免疫疾患に関するものばかりではなく、最近慢性炎症が関わることが示唆されているメタボリック症候群やアルツハイマー病等の神経変性疾患に関連するものも多く含まれていました(図2)。この結果は、炎症アンプがヒトのさまざまな疾患に関連することを示しています。また今回の研究で、全遺伝子を対象とするような大規模なスクリーニングで得られる大量のデータを、ヒト疾患関連遺伝子データベースの情報と照らし合わせることによって、ヒトの病気との関連性を明らかにするという新たな解析法(reverse-direction法)を確立しました。
 我々はさらに、大規模スクリーニングによって同定した炎症アンプの制御遺伝子であり、標的遺伝子でもあり、また疾患関連遺伝子としても報告されている遺伝子である受容体ErbB1とそのリガンドエピレグリンについて詳細な解析を行いました。エピレグリンは可溶性の増殖因子であり、細胞表面の受容体ErbB1に結合して細胞内信号伝達を誘導します。細胞株の実験では、ErbB1受容体の機能を低下させるもしくはErbB1信号伝達の阻害剤を添加すると炎症アンプの活性化が大きく減弱し、反対に増殖因子エピレグリンを加えるとその活性化が有意に増強されました。また、関節リウマチや多発性硬化症のマウスモデルにおいて、エピレグリンの作用の抑制やErbB1信号伝達阻害剤がその病状を著しく改善することを証明しました(図3)。さらに重要なことに、関節リウマチ、多発性硬化症および動脈硬化の実際の患者さんの血液中のエピレグリン量は、健康な人たちの量よりも有意に増加していました(図4)。この結果は、増殖因子エピレグリンがヒトの慢性炎症性疾患の疾患マーカーや治療標的として利用できる可能性を示しています。



今後の展開

 さまざまな慢性炎症性疾患をもたらす炎症アンプの活性化の制御遺伝子が明らかになったことで、これら遺伝子を標的とする新規創薬が可能となります。実際に製薬会社と共同で創薬化を目指しています。また本研究結果は炎症アンプの関与が示唆されるヒトの疾患を明らかにしたので、現在関節リウマチ等の治療薬として用いられている抗IL-6受容体抗体の適用疾患の拡大のための指針として利用できると考えられます。


図1.炎症アンプは非免疫系細胞の炎症誘導機構である
血管内皮細胞や線維芽細胞といった非免疫系細胞が、IL-6とIL-17などの転写因子STAT3およびNF-kBを同時活性化させるような因子によって刺激を受けると、それぞれの単独刺激と比較して大量のIL-6やケモカインといった炎症性因子が発現誘導される(赤色の棒グラフ)。放出されたIL-6は自身の細胞に作用するという増幅ループ(炎症アンプ)が形成され、これが自己免疫疾患モデル(F759関節炎や多発性硬化症モデル:EAE)の発症に深く関与する。

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図2.炎症アンプはヒトのさまざまな疾患に関連する
全遺伝子を対象とした3種のスクリーニングの結果をヒト疾患関連遺伝子データベースの情報と照合し、それぞれの遺伝子リストに含まれる疾患関連遺伝子の数を疾患の種類ごとに円グラフで表示したもの。自己免疫疾患に関する遺伝子(赤色の部分)以外にもメタボリック症候群(青色)や神経変性疾患(緑色)、さらに、アトピー、アレルギーを含むその他の炎症性疾患(水色)などさまざまなヒトの病気に関与する遺伝子が炎症アンプ関連遺伝子群に含まれている。

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図3.エピレグリンの作用を阻害するとマウスの関節炎が軽減する
関節リウマチのマウスモデルであるF759マウスの後ろ足の関節に炎症アンプを活性化させるIL-6とIL-17を投与することにより、3週間以内に関節炎を誘導することができる。この実験系においてshRNAを用いてエピレグリン(Epiregulin)の抑制(赤矢印)もしくはエピレグリンに対する抗体によってエピレグリンの作用を阻害する(青矢印)と、マウスの関節炎の病状(関節炎臨床スコア)が顕著に改善される。

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図4.エピレグリンは患者の血清中で高い値を示す
関節リウマチ、動脈硬化および多発性硬化症の患者の血清中エピレグリン(Epiregulin)は、健康な人(対照)と比較して有意に高い値を示す。

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