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慢性皮膚炎・免疫異常に関わるシグナル伝達機構の解明

論文誌情報 Nature 471, 633-636 (2011)
著者 徳永文稔(1),中川朋子(1),中原匡咲(1),佐伯泰(2),谷口雅美(1),坂田真一(1),田中啓二(2),中野裕康(3),岩井一宏(1,4)
  1. 大阪大学大学院医学系研究科 医化学
  2. 東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 タンパク質代謝研究室
  3. 順天堂大学医学部 免疫学
  4. 大阪大学大学院生命機能研究科 代謝調節学

連絡先/別刷り請求先: 岩井一宏 kiwai@cellbio.med.osaka-u.ac.jp
論文タイトル SHARPIN is a component of the NF-κB activating linear ubiquitin chain assembly complex.
PubMed 21455180

要旨

研究の背景

 ユビキチン修飾系はタンパク質が出来上がった後に、ユビキチンが数珠状に繋がって形成されるポリユビキチン鎖を結合させることで、多彩な様式でタンパク質の機能を調節しています。私達の身体の中には多彩なポリユビキチン鎖が存在しており、ポリユビキチン鎖の種類によってタンパク質の制御のされ方が異なることが明らかになっています。私達は直鎖状ポリユビキチン鎖と呼ばれる新しいポリユビキチン鎖が、NF-κBと呼ばれる転写因子の活性化に関与することを報告していました(Nature Cell Biology, 2009)。

 NF-κBはTNF-αやIL-1βなどの種々の刺激によって活性化されることで種々の遺伝子の発現を亢進させる転写因子で、免疫応答、炎症、細胞の生存などの多彩な生理作用を発揮します。さらに、その活性調節異常が皮膚炎、自己免疫疾患、ガンを含め幾多の疾患に関与していることが知られており、創薬のターゲットとして多くの研究者が研究を進めている転写調節因子です。


研究の成果

 私達は直鎖状ポリユビキチン鎖を生成するユビキチンリガーゼ複合体の構成成分としてHOIL-1L、HOIPを同定していましたが、今回、同複合体の新たな構成成分としてSHARPINを同定しました。細胞が炎症性サイトカインなどで刺激を受けたあと、HOIL-1L-HOIP-SHARPIN複合体はNEMOと呼ばれるNF-κBの活性化に非常に重要な役割を果たすタンパク質と選択的に結合して、NEMO に直鎖状ポリユビキチン鎖を付加することでNF-κBの活性化に導くことを明らかにしました(図1)。そこで、同複合体をLUBAC(linear ubiquitin chain assembly complex)と名付けました。

 SHARPINは慢性皮膚炎、種々の免疫異常、関節炎などの多彩な症状を呈する自然変異マウスであるcpdmマウスの責任遺伝子として同定されていましたが、cpdmマウスが上記のような多彩な症状を示す理由はわかっていませんでした。本研究チームはSHARPINが欠損することでLUBACの他の構成成分であるHOIL-1LとHOIPの発現が低下し、刺激依存的なNF-κB活性化が減弱されているために上記の多彩な症状を呈していることを示しました(図2)。今回の報告の結果は、直鎖状ポリユビキチン鎖の生成を制御することで、慢性皮膚炎や免疫異常が関与する疾患に対する治療法が開発できる可能性を強く示唆していると考えられます。


今後の展開

 前述のように、リウマチ、膠原病などの免疫異常を伴う疾患、アレルギー、ガンなどの多彩な疾患ではNF-κBの活性化の亢進が疾患と関わっていることが知られています。さらに、直鎖状ポリユビキチン化はこれまでのところ他の刺激伝達系には影響を及ぼさず、NF-κBを特異的に活性化していると考えられています。ですので、直鎖状ポリユビキチン化を阻害すればNF-κBの活性化のみを選択的に抑制できると考えられるので、それら疾患の治療剤の良いターゲットになることが期待されます。すでに、共同研究で直鎖状ポリユビキチン鎖生成阻害剤のスクリーニングに着手しています。また、cpdmマウスの皮膚炎は尋常性乾癬と呼ばれる皮膚炎と類似しています。本研究を通して尋常性乾癬の病因、治療法の開発に繋がる可能性も考えて研究を進めています。

図1.LUBACによるNF-κB活性化機構(画像をクリックすると拡大されます)

細胞がTNF-αやIL-1β等の炎症性サイトカインで刺激されるとLUBACユビキチンリガーゼ複合体(HOIL-1L-HOIP-SHARPINによって構成)がNEMOと結合して、NEMOに直鎖状ポリユビキチン鎖を結合させます。NEMOが直鎖状ポリユビキチン化されるとIKK複合体内のIKKβがリン酸化されることで活性化され、NF-κBと結合しているIκBαをリン酸化します。リン酸化されたIκBαは速やかに分解され、IκBαから遊離したNF-κB (この図ではp65/p50複合体)が核に移行してDNAと結合して、種々の遺伝子の転写を亢進させます。

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図2.SHARPINの欠損がcpdmマウスの多彩な症状を示す理由(画像をクリックすると拡大されます)

cpdmマウスではSHARPINが欠損しています。SHARPINが欠損することでLUBACの他の構成成分であるHOIL-1LとHOIPタンパク質の量が減少するために、TNF-αなどの刺激依存的なNF-κB活性化が強く減弱されます。しかし、残存しているHOIL-1L-HOIP複合体がNF-kBを活性化できるので、NF-κBの活性化は完全には消失しません。したがって、cpdmマウスで認められる多彩な症状は刺激依存的なNF-κBの活性化が完全には消失しないが、非常に強く阻害されたために上記の多彩な症状を呈していることが判明しました。ただし、NF-κBの活性化が少し減弱しただけではcpdmマウスのような症状は示しません。

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