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雄性生殖細胞における人為的piRNAを介したDNAメチル化の誘導

論文誌情報 Curr Biol 25, 901-906 (2015)
著者 伊藤大介(1),城本悠助(2),新屋幸穂(1),石井知佳(1),西村徹(1),越後貫成美(4),小倉淳郎(4),蓮輪英毅(5),藤原祥高(5),宮川さとみ(2,3),仲野徹(2,3)

  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 大阪大学大学院医学系研究科
  3. JST-CREST
  4. 理化学研究所バイオリソースセンター
  5. 大阪大学微生物研究所 遺伝子機能解析分野
論文タイトル Induction of DNA Methylation by Artificial piRNA Production in Male Germ Cells.
PubMed 25772451
研究室HP 病因解析学研究室〈仲野教授〉

解説

 piRNA(PIWI-interacting RNA)は、PIWIファミリータンパクと結合する、生殖細胞特異的な小分子RNAです。マウスの胎仔期精巣において、PIWIファミリーであるMILI(Mouse PIWI like)およびMIWI2(Mouse PIWI 2)は、piRNAの生合成に必須であり、piRNAの多くはレトロトランスポゾン遺伝子に対する配列を持つことが分かっています。MILIおよびMIWI2欠損マウスの解析、そしてpiRNAの網羅的解析から、piRNAはDNAメチル化によりレトロトランスポゾンの発現を抑制していることがわかっています。
 私たちは、センス鎖とアンチセンス鎖のRNAが存在しさえすればpiRNA生合成が進行しうるのではないかという仮説に基づき、センス・アンチセンスのEGFP鎖を胎仔期の精巣において発現させ、人為的にpiRNAを産生する実験系を構築しました。この目的のため、胎生期の雄性生殖細胞においてEGFPのアンチセンス鎖を発現するトランスジェニックマウスを作製し、このマウスと、同時期にEGFPのセンス鎖を発現するOct4-EGFPマウスとを交配しました。その結果、Oct4-EGFP遺伝子に対するDNAメチル化が生じ、EGFP遺伝子に対するpiRNAが産生されることが明らかになりました(図1)。
 このシステムが内在性の遺伝子に対して応用できるかを調べるため、胎仔期の雄性生殖細胞において発現するDnmt3L(DNA methyltransferase 3-like)に対してアンチセンス鎖を発現するマウスを作製しました。その理由は、この遺伝子がpiRNA産生の時期に高発現している事、および遺伝子欠損マウスの表現型がすでに報告されており、システムの成否が容易であること、の2つからです。このトランスジェニックマウスは、期待通りDnmt3L欠損マウスと同様の表現型を示し、その雄性生殖細胞では内在性のDnmt3LプロモーターにDNAメチル化が誘導されていました。さらに、Dnmt3L遺伝子に対するpiRNAが多数産生されている事を確認しました。
 以上の結果から、胎生期の雄性生殖細胞においてアンチセンス鎖を発現させることにより人為的に、雄性生殖細胞において発現している遺伝子に対するpiRNAを産生でき、遺伝子特異的なDNAのメチル化が誘導されることを明らかにしました(図2)。この技術を利用する事で、精子形成過程における遺伝子の機能解析が簡便にできると期待されるだけでなく、特定の遺伝子にDNAメチル化を誘導し、そのエピジェネティック遺伝についての研究を展開できると考えています。

図1.piRNA を介するエピジェネティックな遺伝子抑制
胎仔期生殖細胞で蛍光タンパク質であるGFPを発現しているOct4-GFPマウスと、GFPのアンチセンス鎖を発現するマウスを交配させた結果、GFPの発現制御領域におけるDNAのメチル化の導入、GFPタンパク質の発現抑制が観察されました。この阻害効果はMili欠損マウスでは、観察されなかったことから、piRNA経路に依存したサイレンシングが人工的に誘導できたことを示しています。

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図2.人為的piRNA産生システムによる遺伝子特異的なDNAメチル化
胎生期の雄性生殖細胞においてアンチセンス鎖のRNAを発現させることにより、人為的にpiRNAを産生でき、遺伝子特異的なDNAのメチル化が誘導可能であることを明らかにしました。

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