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霊長類の第一次視覚野の機能構築を単一細胞レベル解像度で解明

論文誌情報 J Neurosci 33, 16818-16827 (2013)
著者 池添 貢司(1,2),森 理也(1),喜多村 和郎(3,4),田村 弘(1,2,4),藤田 一郎(1,2,4)

Koji Ikezoe (1, 2), Yoshiya Mori (1), Kazuo Kitamura (3, 4), Hiroshi Tamura (1, 2, 3), Ichiro Fujita (1, 2, 3)

  1. Laboratory for Cognitive Neuroscience, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University, Toyonaka, Osaka, 560-8531, Japan
  2. Center for Information and Neural Networks (CiNet), Osaka University and National Institute of Information and Communications Technology, Suita, Osaka, 565-0871, Japan
  3. Core Research for Evolutional Science and Technology (CREST), Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Saitama, 332-0012, Japan
  4. Department of Neurophysiology, Graduate School of Medicine, University of Tokyo, Bunkyo, Tokyo, 113-0033, Japan
論文タイトル Relationship between the local structure of orientation map and the strength of orientation tuning of neurons in monkey V1: A 2-photon calcium imaging study
PubMed 24133282
研究室HP 認知脳科学研究室〈藤田教授〉

解説

 大阪大学大学院生命機能研究科の池添貢司特任助教、森理也博士課程学生、田村弘准教授、藤田一郎教授、東京大学大学院医学系研究科の喜多村和郎准教授らの研究グループは、霊長類の大脳皮質の第一次視覚野に2光子カルシウムイメージング法を適用し、方位選択性細胞が方位選択性の強さに基づいて規則的に配列し、その規則的配列は方位選択性細胞の最適方位に基づいた配列の不均一性と関係していることを明らかにしました。



研究の背景と結果

 視覚入力が大脳皮質で最初に処理される第一次視覚野(V1、図1)の神経細胞は、視野内の小領域(受容野)にある線分の傾き(方位)を変化させると応答の強度を変化させる(方位選択性)。ある神経細胞の方位選択性は、もっとも強い応答を誘発する方位(最適方位)と、最適な方位以外に対してどの程度応答するか(方位選択性の強さ)の2つのパラメータで定義できる。ノーベル賞受賞者であるHubelとWieselらの1960年代の一連の研究で、V1の神経細胞は大脳皮質表面に対して平行な方向に、最適方位が徐々に変化するように細胞が配列していることが示された。この規則的配列は方位地図と呼ばれる。しかし、方位選択性の強さについても細胞が規則的に配列しているのか、そうであるならば、その配列は方位地図とどういう関係にあるかについては、長い論争があり、未だに解明されていなかった。たとえば、過去にこの問題を調べた研究で用いられた神経活動計測法では、隣接する細胞の活動を区別せずに加算して計測していた。この場合、隣接する細胞が異なる最適方位を持つと、加算された活動では方位選択性が個々の細胞が本来持つ選択性よりも弱く見積もられる。つまり、従来の計測法で方位選択性が弱い細胞が集合すると推測される領域については、以下の3つの解釈が可能である。

  1. 最適方位が似た方位選択性の弱い細胞が集合している
  2. 最適方位の異なる方位選択性の強い細胞が集合している
  3. 最適方位の異なる方位選択性の弱い細胞が集合している

 今回の研究では、サルのV1野に2光子カルシウムイメージング法を適用して、個々の細胞の位置を明らかにした上で視覚刺激に対する応答を計測し、方位選択性細胞の配列を調べた。その結果、似た方位選択性の強さを持つV1細胞は大脳皮質上で近くに位置する傾向があり、異なる最適方位をもつ細胞が集合している領域では、個々の細胞の方位選択性は弱かった。さらに、似た最適方位をもつ細胞が集合している領域では、細胞はさまざまな方位選択性を持つことが示された。すなわち、従来の計測法で方位選択性が弱い細胞が集合すると推測された領域では、神経細胞は上記の①または③のように配列している。この研究により、20年以上続いた一次視覚野の方位地図の構造に関する論争に決着がついた。近接している細胞が異なる最適方位を持つ場合、それらの方位選択性が弱いという今回の結果は、近くにある細胞同士がそれぞれの最適方位に関わらず相互作用をもち、それぞれの方位選択性の形成に関与していることを示唆している。

図1.サル大脳皮質一次視覚野(V1)
左大脳皮質の側面図上にV1の位置を示す。左側が脳の前方。V1は大脳皮質への視覚情報の入り口に相当し、その細胞は、視覚刺激の方位や空間周波数に感受性を持つ。

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図2.サルV1野の方位選択性応答の2光子カルシウムイメージング
左:2光子カルシウムイメージングで可視化したサルV1野の方位選択性に基づく細胞の配列。線分:その位置にある細胞の持つ最適方位。○:方位選択性は持つが、最適方位を持たない細胞。●:方位選択性を持たない細胞。右図:左の図で示したa-dの細胞の視覚刺激に対する応答。周辺の細胞と異なる最適方位を持つ細胞(d)では、方位選択性が弱い。上部の縞のパッチはグレーで示した時間に提示した視覚刺激。

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