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明るい光のもとでも光を感じることが出来る仕組みの一つが明らかになりました。

論文誌情報 Proc Natl Acad Sci USA 105, 16051-16056 (2008)
著者 Sadaharu Miyazono, Yoshie Shimauchi-Matsukawa, Shuji Tachibanaki, and Satoru Kawamura
論文タイトル Highly Efficient Retinal Metabolism in Cones
PubMed 19556550
研究室HP 細胞内情報伝達研究室〈橘木准教授〉

  図1眼球内の視物質再生反応経路(visual cycle). (左...

要旨

私達の視覚を担う最初の細胞は視細胞です。視細胞は光を検出しますが、薄暗いところで働く桿体と明るい所で働く錐体の2種類があります。視細胞での光検出メカニズムの研究はこれまで殆ど桿体で行われてきました。それは精製した桿体を大量に得ることが出来たからです。しかし、薄暗いところで働く桿体の光検出のメカニズムは分かってきたのですが、ヒトが行動する昼間の視覚のメカニズム、つまり、錐体での光検出メカニズムについては殆ど分かっていませんでした。
 薄暗い所と明るい所とで違うのは光量です。薄暗いときと真夏の昼下がりの太陽のもとでは光量は100万倍も違います。何れの場合もものを見ることが出来ますが、それは私達の網膜の中の視物質という物質が光を検出するところから始まります。私達の視物質はタンパク質部分と光を吸収する11-シスレチナールとからできており、視物質に光が当たると11-シスレチナールはオールトランスレチナールへと構造変化を起こします。これが視物質レベルにおける光の検出です。オールトランスレチナールは視細胞の中でオールトランスレチノールに還元され、視細胞外へ運搬されるので、脊椎動物の視物質は光を受けると一旦分解されることになります。その後、11-シスレチナールが再びくっついて再生することで再び機能することが出来るようになります。網膜の中にはこの視物質の再生メカニズム(visual cycle)が存在していることが知られています。
 視物質は1視細胞中に108-109分子存在します。薄暗いところで光が強くなければ分解量はそれほど多くはないのであまり問題になりませんが、真夏の昼下がりのように明るい所ではたくさんの視物質が光を受け、大量に分解していきます。なので、明るい所でもものを見続けるためには視物質の再生を早くしないと視物質が枯渇してしまいます。枯渇を起こさせないようなメカニズムが明るい所で働く錐体には存在するはずだと考え、そのメカニズムを調べてみたところ、錐体では桿体に比べてオールトランスレチナールの還元活性が30倍以上も高く、光検出によって精製する大量のオールトランスレチナールを素早く無くすこと、また、視物質の再生経路として、桿体とは別に、錐体自身の中に効率的に11-シスレチナールを合成する仕組みがあることが明らかになりました。この反応はオールトランスレチナールの還元と共役して11-シスレチノールを酸化する反応で、これまで知らせていなかった反応です。これらによって錐体では視物質が枯渇することなく再生され、眩しい明るさのもとでものを見ることが出来ると考えています。

 

図1眼球内の視物質再生反応経路(visual cycle). (左)これまでに知られている桿体視物質の再生経路。光検出後に生じたオールトランスレチナールはレチノールデヒドロゲナーゼ8(RDH8)によって還元されオールトランスレチノールとなる。オールトランスレチノールは桿体から色素上皮層(PRE)へ運ばれ、そこで数段階の反応を経て再び11-シスレチナールとなり、桿体へ輸送されて視物質の再生が起こる。(右)錐体でも同じ経路を経て11-シスレチナールが供給されるが、その経路以外に、網膜内で視細胞に近接して存在するミューラー細胞(Muller cell)へオールトランスレチノールが送られ、そこで11-シスレチノールが作られて錐体へ送られると考えられている。これまでは、錐体へ送られた11-シスレチノールは RDH8 の逆反応で11-シスレチノールへ酸化されると考えられていたが、私達は、RDH8 ではなく、未知タンパク質が関与し、光検出によって生じたオールトランスレチナールをオールトランスレチノールへ還元する反応と共役して11-シスレチナールへの酸化が起こることを証明した(AL-OL反応;赤矢印)。RDH8 の逆反応と比べて、50倍以上も効率が高い。

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