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明るい所で素早く動く物体を検出できる仕組みの一つが明らかになりました。

論文誌情報 Proc Natl Acad Sci USA 106, 11788-11793 (2009)
著者 Norihiko Takemoto, Shuji Tachibanaki, and Satoru Kawamura
論文タイトル High cGMP synthetic activity in carp cones
PubMed 19556550
研究室HP 細胞内情報伝達研究室〈橘木准教授〉

  図1. 桿体 (rod) 、錐体 (cone) 細胞内でのcGMP...

要旨

私達の視覚を担う最初の細胞は視細胞で、視細胞によって光が検出されます。視細胞には薄暗いところで働く桿体と明るい所で働く錐体の2種類があります。視細胞がどの様に光を検出するかのメカニズムの研究はこれまで殆ど桿体で行われてきました。それは桿体を大量に精製することが出来たからです。桿体は薄暗いところで働くため、薄暗いところでの光検出のメカニズムは分かってきたのですが、ヒトが行動する昼間の視覚のメカニズム、つまり、錐体での光検出メカニズムについては殆ど分かっていませんでした。錐体でも桿体と同じように、cGMPを細胞内伝達物質として利用し、光を受けるとcGMPの分解が起こり、電気的応答が発生します。錐体の特徴として、光に対する電気的応答が、光のオン・オフによく追随します。このことが一つの理由で、昼間は素早く動く物体を目で追うことが出来ます。錐体で光のオン・オフによく追随して電気的応答を発生させるためには、光が当たったことによって分解されたcGMPを素早く元のレベルまで戻す必要があります。そのために錐体は高いcGMP合成能力を持っていると推測されるのですが、その直接的な証明はありませんでした。本研究ではcGMP合成活性を桿体と錐体とで比べ、錐体ではcGMP合成活性が桿体よりも10倍以上高いことを、生化学的、また電気生理学的に証明しました。これにより、錐体での素早い電気的応答の戻りを説明することが出来ます。

 

図1. 桿体 (rod) 、錐体 (cone) 細胞内でのcGMP合成活性の推定。桿体、錐体では光に対する応答中は細胞内Ca2+濃度が低下することが知られている。このCa2+濃度低下はCa2+結合能を持ち、低Ca2+濃度条件下でcGMP合成酵素を活性化する蛋白質(GCAP) により検知され、低Ca2+濃度下ではcGMP合成が活性化される。これにより、応答の戻りはより速くなる。生化学的な実験結果をもとに細胞内でのcGMP合成活性 (GC activity) を推定した結果、暗時(高Ca2+)明時(低Ca2+)のいずれにおいても錐体におけるcGMP合成活性が桿体の10倍以上であるという結果を得た。この結果により、錐体での応答の戻りが速いことをうまく説明できる。


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図2. 電気生理学的手法を用いた桿体と錐体でのcGMP合成活性の比較 A. 桿体と錐体はともに外節部分と内節部分とからなり、外節部分にcGMP依存性チャネルやcGMP合成酵素等の光検出に必要な蛋白質群を持っている。外節部分を微小電極に吸い込み(錐体についてのみ例として示している)、内節部分を折り取って、細胞内を低Ca2+濃度条件下でcGMPやGTPを含む溶液で還流した。 B. 桿体(黒線)、錐体(赤線)それぞれ3つの標本(実線、波線、点線で区別)について、まずcGMPを灌流してcGMP依存性チャネルを開いて電流を記録し(細線)、次いで、GTPを灌流した(太線)。GTPからcGMPが合成されるとチャネルが開くので、流れる電流を目安に合成されたcGMP量を推定できる。cGMP灌流によって生じる電流の時間経過とGTP灌流によって生じる電流の時間経過の差は錐体の場合(赤線)は小さく桿体の場合は(黒線)大きいことから、錐体では桿体に比べ、cGMP合成活性が高いことが分かる。 C. Bで測定した電流から細胞内cGMP濃度の時間変化を推定した。 D. Cで求めた結果を微分し、細胞内のcGMP濃度の時間変化(cGMP合成活性)を求めた。各標本で細胞内に十分GTPが流入したと考えられる時間(電流強度が80%となった時点;図C横線、図D矢頭)で比較すると、錐体でのcGMP合成活性 (140-300µM/sec) は桿体 (29µM/sec) よりも大きいことが示された。また、これらの値は生化学的測定により得られた値と良く一致していた。




Takemoto Fig2.jpg