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発達期大脳皮質の軸索経路形成におけるT-カドヘリンの役割

論文誌情報 Development 141, 4784-93 (2014)

本研究成果は、乗岡茂巳元教授との共同研究により得られたものです。
著者 早野祐紀(1),趙虹(1),小林裕明(1),武内恒成(2),乗岡茂巳(3),山本亘彦(1)

  1. 大阪大学・生命機能研究科・脳神経工学講座
  2. 愛知医科大学医学部医学科
  3. 大阪大学・生命機能研究科・生体ダイナミクス講座
論文タイトル The Role of T-cadherin in Axonal Pathway Formation in Neocortical Circuits.
PubMed 25468941
研究室HP 細胞分子神経生物学研究室〈山本教授〉

図1.大脳皮質における基本的神経回路大脳皮質2/3層ニューロンと一部の深層ニュー...

解説

 大脳皮質の白質では入出力線維がその行き先に応じて整列して走行しています。私たちは、この整然とした線維走行が形成される分子メカニズムを研究しました。まず、接着因子カドヘリンスーパーファミリーの1つであるT-カドヘリン(T-cad)が皮質下の脳領域に投射する皮質深層ニューロン軸索に特異的に発現することを見出しました。その機能を明らかにするために、本来発現しない皮質浅層ニューロンへの異所的発現や内在性の発現抑制の実験を行ったところ、軸索の誤った方向への伸長や白質内での走行異常が見出されました。これらのことから、T-cadが大脳皮質からの出力線維の走行や方向性を決めるのに重要な役割を果たすことが示唆されました。

*本研究成果は、生体ダイナミクス講座・乗岡茂巳元教授との共同研究により得られたものです。



研究の背景

 大脳皮質は6層の細胞層から構成され、それぞれの層の神経細胞は特定の脳部位と神経連絡を形成しています。出力線維に着目すると、それぞれの層に位置する神経細胞は異なる脳部位へ軸索を投射しますが、その経路である白質の中では行き先に応じて同じ性質を持つものどうしがコンパクトに集まり整然とレーン分けがなされています。ちょうど高速道路で、行き先別にレーンが分かれているようなものです。このような軸索の集合様式は、長い距離を安定的に伸長し正確な回路を形成するために有利な機構と考えられますが、その意義やメカニズムには不明な点が数多く残されています。
 私たちは、この機構には回路特異的に発現し、且つ軸索表面に存在する分子が関与していると考えました。そのために、まず神経回路に特徴的な発現パターンを示す分子を探索するためにモノクローナル抗体法を用い、その抗原分子を同定し、機能解析を行うという方針で研究をスタートさせました。



成果

 ラット全脳を抗原としてモノクローナル抗体を作製し、これを用いて脳切片の組織染色を行ったところ、白質内に線維状の特徴的な発現パターンを示す抗体(6C9)が得られました。この6C9抗体を用いて抗原分子を精製しアミノ酸配列の解析を行った結果、細胞接着因子Tカドヘリン(T-cad)であることが明らかになりました。
 さらに、T-cadが発生期の大脳皮質深層ニューロンのうち、皮質下に投射する神経サブタイプと視床-皮質投射神経の一部に発現し、主に軸索に局在していることが判明しました。そこで私たちは、この分子が大脳皮質の神経回路形成に関与することを想定し、in vivoでの強制発現やノックダウンの手法を用いて機能解析を行いました。本来T-cadを発現していない表層ニューロンに強制発現を行うと、一部の軸索走行が深層ニューロンの投射方向へと変化しました。また、深層ニューロンの内在性T-cadの発現をRNAiで抑制したところ、T-cad陽性軸索の束から脱して異なるルートを走行する軸索が観察されました。これらのことから、T-cadが皮質深層ニューロンの白質内での軸索分布と伸長方向を制御していることが明らかとなりました。



研究成果の意義

 神経回路の発達期における軸索の束化現象は、単に「似たもの同志の寄り集まり」を作っているだけでなく、軸索の進みやすい道筋を構築し、さらには伸長方向をも調節し得ることが示されました。神経軸索の束化・脱束化は、他の神経回路においても共通して観られる現象であることから、T-cad以外の分子がそれぞれの回路特異的に存在し軸索伸長を制御していることも示唆しています。また、モノクローナル抗体を利用した分子の探索は、機能性タンパク質の発現解析と分子の精製・同定、場合によっては機能阻害実験にも応用できる、現在でも大変有効な手法であることも示されました。本研究成果により、高等動物のより複雑で精密な神経回路形成機構の解明が進むことが期待されます。

図1.大脳皮質における基本的神経回路
大脳皮質2/3層ニューロンと一部の深層ニューロンは反対側の大脳に軸索を投射して脳梁を形成する(赤)。それに対して、大部分の深層ニューロンの軸索は、ic (内包)を経て、同側の中脳(MB)、後脳(HB)、脊髄(Spc)などに投射する(緑)。大脳の中間帯(IZ)では、このように行き先の異なる軸索が特定のレーンを走行している。

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図2.中間帯(IZ)での軸索走行
入力線維(視床線維)は中間帯の最も皮質板よりを走行し、次いでT-cad陽性線維、Tag-1陽性線維の順にレーン分けされている。ただし、それぞれのグループで発現のオーバーラップがある。

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図3.T-cadの異所発現、内在T-cadのノックダウン実験
T-cadを本来発現しない2/3層ニューロンに発現させると、伸長方向を変化させ内包に向かうものが出現する(濃緑)。深層ニューロンでT-cadをノックダウンすると走行するレーンを外れてしまう。

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