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脳形成障害の原因遺伝子の機能を解明
- がんや生活習慣病などの抑制に働くオートファジーを標的にした予防治療開発に期待 -

論文誌情報 EMBO J, e201593148 (2016)
著者 長谷川純矢(1,2),岩本遼(1),大友孝信(2),根津亜季子(2),濱﨑万穂(1,2),吉森保(1,2)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科細胞内膜動態研究室
  2. 大阪大学大学院医学系研究科遺伝学研究室
論文タイトル Autophagosome-lysosome fusion in neurons requires INPP5E, a protein associated with Joubert syndrome
PubMed 27340123
研究室HP 細胞内膜動態研究室〈吉森教授〉

本研究成果のポイント

  • 脳形成障害を示す先天性疾患ジュベール症候群※1の原因遺伝子INPP5E※2の機能を解明
  • ジュベール症候群患者のINPP5Eの変異が、発症とどのように結びつくのかは不明だった
  • がん・神経変性疾患・炎症性疾患・生活習慣病などの疾患抑制に働く、オートファジーを標的とした予防治療戦略の開発への応用に期待

要旨

大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科の吉森保教授らの研究グループは、脳形成障害を示す先天性疾患ジュベール症候群※1の原因遺伝子INPP5E※2が、真核生物における細胞の分解機能であるオートファジーを制御していることを世界で初めて明らかにしました。

INPP5Eはオートファジーの最終ステップであるリソソーム※3とオートファゴソーム※4の融合を促進していました(図)。またジュベール症候群の患者で見つかっている複数のINPP5Eの突然変異がいずれもオートファジーを阻害することを明らかにしました。この結果はジュベール症候群の発症はオートファジーの低下による可能性を示唆します。


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図.INPP5Eの働きのモデル
INPP5EはリソソームのPI(3,5)P2を脱リン酸化し、それによってコータクチンが活性化しアクチン重合が促進されます。その結果リソソームとオートファゴソームの融合が起こります。


本研究成果は、ジュベール症候群の発症メカニズムを明らかにしただけではなく、発がん・神経変性疾患・炎症性疾患・生活習慣病など多数の重要疾患の抑制に働くオートファジーの制御システムの一端を解明したものであり、オートファジーを標的とした予防治療戦略の開発への応用が期待されます。

本研究成果は、欧州科学誌「The EMBO Journal」に、6月23日(木)にオンライン公開されました。

解説

研究の背景と内容

オートファジーは真核生物の全ての細胞の内部に備わる分解機能で細胞内の浄化作用をもちます。オートファゴソームと呼ばれる膜構造が形成され細胞質中の構造物や分子を包み込み、それがリソソームと融合することで包み込んだ対象物の分解が起こります。今回、吉森教授のグループは、未解明だった融合過程をINPP5Eが制御していることとその仕組みを初めて明らかにしました。

一方脳形成障害により精神運動発達遅滞など多彩な症状を示すジュベール症候群の患者では、INPP5Eの変異が複数見つかっていましたが、それが発症とどのように結びつくのかは判っていませんでした。今回の研究により、INPP5Eはリソソーム膜に含まれるホスホイノシチド※5PI(3,5)P2をPI(3)Pにすることで、オートファジーの最終ステップであるリソソームとオートファゴソームの融合を促進していることが分かりました。同グループはさらに、PI(3,5)P2の減少とPI(3)Pの増加がアクチン※6重合を促進するタンパク質であるコータクチンの活性化を誘導し、その結果、リソソーム表面にアクチン線維が形成されそれがリソソーム・オートファゴソーム融合に寄与することも示しました。このことから、神経細胞におけるオートファジーの低下が同症候群を引き起こしている可能性が示唆されました。


本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

オートファジーは、細胞内浄化作用を通して発がん・神経変性疾患・炎症性疾患・生活習慣病など多数の重要疾患の抑制に働くことが近年明らかになり、大きな注目を集めています。その研究分野はこの10年ほどの間に爆発的に発展しています。

本研究成果によって、未知の部分の多いオートファジーの分子機構の理解を進め、またホスホイノシチドの細胞機能における役割を新たに発見したことで、生命科学を進展に繋がりました。今後ジュベール症候群のみならず広範な疾患を対象としたオートファジーを標的とする予防治療の開発に貢献することが期待されます。


用語解説
  1. ジュベール(Joubert)症候群
    特徴的な小脳と脳幹の形態異常、筋緊張低下、発達遅延、間歇的過呼吸・無呼吸、非典型的眼球運動などを呈する常染色体劣性遺伝病です。小児慢性特定疾病に指定されています。
  2. INPP5E
    ホスホイノシチド(後述)のリン酸を除去する酵素。
  3. リソソーム
    細胞小器官のひとつ。生体膜でできた袋状の構造で、内部に消化酵素を持つ。細胞の「胃袋」にあたる器官。
  4. オートファゴソーム
    オートファジーでは、まず細胞の中に隔離膜と呼ばれる扁平な生体膜の袋が生じ、それが成長しながら浄化の対象になるものを包み込み閉じる。そうやって中に標的を閉じこめた直径約1マイクロメートルの構造をオートファゴソームと呼ぶ。これも細胞小器官の一種である。これとリソソームが融合すると、包み込んでいたものがリソソームの消化酵素で分解される。
  5. ホスホイノシチド
    生体膜を構成する脂質の一種。構造の違いによって7種類あり、INPP5Eはリソソームにおいて、そのうちのPI(3,5)P2をPI(3)Pに変換していた。ホスホイノシチドは各々細胞内において特有の生理機能を持っており、今回リソソーム・オートファゴソーム融合促進という新しい機能が見つかったことになる。
  6. アクチン
    細胞骨格と呼ばれる線維状の構造を形成するタンパク質。分子が繋がって(重合)、線維状になります。アクチン線維が、リソソーム・オートファゴソーム融合に必要なことは知られていましたが、今回初めてそれがINPP5E〜PI(3,5)P2減少PI(3)P増加〜コータクチン活性化という流れによって制御されていることが判りました。

特記事項

本研究成果は、2016年6月23日(木)(ドイツ時間)に欧州科学誌「The EMBO Journal」(オンライン)に掲載されました。

なお本研究は、文科省科研費新学術領域研究の一環として行われました。

本件に関する問い合わせ先

  • 吉森 保(よしもり たもつ)
    大阪大学 大学院生命機能研究科/医学系研究科 教授
    TEL:06-6879-3580
    FAX:06-6879-3589
    E-mail:tamyoshi@fbs.osaka-u.ac.jp
    関連URL:http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/yoshimori/