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世界初!
細胞核内におけるセントロメア領域の立体的配置を解明
- 染色体異常による疾病の原因解明に光 -

論文誌情報 J Cell Biol, in press (2018)
著者 西村浩平(1),古宮正隆(2),堀哲也(1),伊藤武彦(2),深川竜郎(1*)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 東京工業大学生命理工学研究科

(*責任著者)
論文タイトル 3D genomic architecture reveals that neocentromeres associate with heterochromatin regions
PubMed 30396998
研究室HP 染色体生物学研究室〈深川教授〉

本研究成果のポイント

  • ゲノム(遺伝情報の総体)中のセントロメア※1を含む領域が、細胞核内でどのように配置されているかを世界で初めて明らかにした
  • セントロメア領域とヘテロクロマチン※2領域は、直線的なゲノム構成では遠く離れていても、細胞核内では近接し立体的に結合していることを発見
  • 染色体の分配異常で起こる各種疾病の原因解明につながる成果として期待

要旨

大阪大学大学院生命機能研究科の深川竜郎教授・西村浩平特任助教(常勤)らの研究グループは、ゲノム中のセントロメアを含む領域が細胞核内でどのように配置されているかを世界で初めて明らかにしました。

細胞分裂時における染色体の伝達の過程では、セントロメアと呼ばれるゲノム領域が重要です。一般的にセントロメア領域には、遺伝子が存在せず、一定のDNA配列が広範囲にわたって反復して存在しているため(DNAの反復配列)、ゲノム構造を明らかにすることは困難でした。

一方、研究グループは、これまでに、DNAの反復配列が存在しないセントロメアを持つニワトリの染色体を作ることに成功していました。

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図1.細胞核内におけるゲノムの配置の模式図
一つの細胞に含まれるゲノムDNAを直線的に伸ばすと2mほどになるが、これがわずか直径10μmの細胞核内にコンパクトに収められている。遺伝子が存在しないセントロメア、ヘテロクロマチン領域は、直線的には、遠く離れていても、細胞核内では近接して存在していることが、今回明らかになった。

今回、研究グループは、「4C法」※3というゲノム領域間での立体的な(3Dレベルの)相互作用を解明する方法を適用して、DNAの反復配列が存在しないセントロメアを持つ染色体を解析した結果、細胞核内のセントロメア領域を含むゲノム領域の立体的配置(3Dゲノム構造)の解明に成功しました(図1)。

さらに、研究グループは、ヘテロクロマチンという、ゲノム中に散在している、遺伝子の発現※4が広範囲に渡って抑えられている領域が、直線的なゲノム構成ではセントロメア領域と離れて存在していたとしても、細胞核内では近接し立体的に結合していることも併せて発見しました(図1)。

セントロメア領域は細胞分裂時における染色体の分配に必要な領域であり、その機能を発揮するために、その周辺を含めて遺伝子発現が抑えられている必要がありますが、今回の研究は、その仕組みを明らかにするもので、正常な細胞分裂のメカニズムの解明に繋がる重要な研究成果です。

解説

研究の背景

生物を構成する一つ一つの細胞の遺伝情報(ゲノム)はDNAに書き込まれ、細胞核に収納されています。ヒトの一つの細胞に含まれるDNAを直線的に伸ばすと2m程度の長さですが、それがわずか直径約10μmの細胞核内に収納されています(図2)。例えるならば富士山の高さに相当する長さの紐が、3~4cmの箱に収納されているようなものです。この収納はランダムでなく一定の規則をもっていると考えられていますが、不明な点も多くあります。特に、直線的に遠く離れた領域にあるDNAが細胞核内では近接していることもあります。


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図2.細胞内でのゲノムDNAの収納
全ゲノム情報はDNAに書き込まれ、細胞核内に収納される。長大なDNAが一定の規則をもってコンパクトに細胞核内に収納されていると考えられている。これは、富士山の高さに相当する長い紐がわずか3〜4cmの箱に収納されているイメージ。しかし、この収納のしくみには不明な点も多い。


近年、ゲノムDNAの解析が進み、細胞核内でのDNAの立体配置を解析する手法が開発されてきました。しかし、ヒトを含む脊椎動物のゲノムには、遺伝子が存在せず、一定のDNA配列が広範囲にわたって反復して存在しているため、解析が困難な領域が多く存在します。例えば、セントロメアという領域は、細胞分裂に重要な働きを担う重要な機能領域ですが、一定のDNA配列が広範囲にわたって反復して存在しており、ゲノム構造を明らかにすることができていません。


研究グループは、これまでに、DNAの反復配列が存在しないセントロメアを持つニワトリの染色体を作ることに成功していました。今回の研究では、この特別な染色体を活用することで、セントロメアのゲノム領域の解析が可能となりました。この特殊な染色体を使うことに加えて、同じ染色体上でも離れた場所にあるゲノム領域同士の相互作用を解明する4C法という方法を用いて、細胞核内におけるセントロメア領域を含むゲノム領域の立体的配置(3Dゲノム構造)の解明に成功しました。


本研究の成果

研究グループは、以前に、図3に示すようにDNAの反復配列が存在しないセントロメアを持つ染色体を含むニワトリDT40細胞を作成しました。任意の染色体のセントロメア領域をゲノム工学によって取り除く操作を細胞に行うと、セントロメアを失った染色体を持つ多くの細胞は死滅してしまいます。ただし、ある種の遺伝学的手法を用いることで、そのような条件でも生育してくる細胞を選別し取得することができます。そのような細胞の染色体では、本来のセントロメア領域とは違う場所に新しいセントロメアを形成しています(図3:新しいセントロメア)。このような細胞の新しいセントロメアには、反復配列が存在しないのでゲノム解析が可能となります。

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図3.DNAの反復配列が存在しないセントロメアを持つ染色体を保有する細胞の作成方法
オリジナルの細胞のセントロメア領域近傍に細工を仕込み、本来のDNA反復配列を持つセントロメアを取り除く。こうすると多くの細胞は、セントロメアを失ったことで、染色体が抜け落ちてしまい死滅する。この中から、生き残った細胞を選別・取得する方法を用いると、本来のセントロメア領域とは異なる場所に、DNAの反復配列を持たない新しいセントロメアが形成された染色体を持つ細胞が取得できる。

そこで、このような反復配列が存在しない新しいセントロメアを保有する細胞を対象にして、4C法という特定のゲノム領域の相互作用領域(立体的な構造を想定した近接ポイント)が明らかにできる方法を用いて、全てのセントロメアに共通して相互作用する領域を調べました。その結果、全ての新しいセントロメアは、ヘテロクロマチンという、ゲノム中に散在する、遺伝子の発現が広く抑制された領域と結合していたことが明らかになりました。


ヘテロクロマチン領域がセントロメアに近接していると、遺伝子発現が抑えられて、細胞分裂に必要なセントロメアの機能を果たすことができます。しかし、DNAの反復配列がなくなった新しいセントロメアでは、直線的にはヘテロクロマチン領域と近接していないので、どのように遺伝子の発現が抑えられているか謎でした。

今回の研究によって、セントロメアとヘテロクロマチン領域が立体的な配置を介することで、直線的には近接していなくても相互作用していることが明らかになりました(図1)。

今回明らかとなった、ヘテロクロマチン領域と新しいセントロメアとの立体的な相互作用の解明は、セントロメア周辺での遺伝子発現抑制を含めて、立体的なゲノム配置自体が細胞分裂時のセントロメアの機能形成に関与していると考えられる極めて重要な知見と言えます。


本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

がんやダウン症を始め、細胞分裂時の染色体の伝達異常が原因となる疾患は多く知られています。その原因の解明には、細胞分裂時の染色体の正確な伝達メカニズムを理解することが不可欠です。そのためには、セントロメアがどのように機能形成されて行くのかを理解することが極めて重要です。本研究成果により、セントロメアの機能形成機構を理解し、その不全で起こる各種疾病の原因解明につながる成果と期待されます。将来的には、セントロメアの機能形成に関わる分子を標的とした薬剤開発にもつながると期待されます。


用語解説
  1. セントロメア
    細胞分裂の際、染色体分配に重要な染色体領域のこと。紡錘糸が結合する染色体の構造体であるキネトコア(動原体)が形成される領域である。キネトコアなどのタンパク質複合体が集合するために、この領域には遺伝子が乏しいことが知られている。
  2. ヘテロクロマチン
    クロマチンにはユークロマチンとヘテロクロマチンの2つの様態があり、ヘテロクロマチンは塩基性色素によって濃く染まる領域である。ヘテロクロマチン領域内にある多くの遺伝子の発現は抑制されている。通常のセントロメア近傍にはヘテロクロマチンが存在している。
  3. 4C法
    ゲノムの高次構造を解明する解析手段の一つ。細胞を固定後にDNAを制限酵素で切断し、ライゲーションによってつなぎ合わせると直線的には遠く離れた領域でも物理的に近くにいるDNAがつなぎ合わさるせられることになる(キメラDNA)。このようなキメラDNAを増幅し、キメラDNAの実体を次世代シーケンサーで解析するとことで、特定のゲノム領域どうしの相互作用領域(立体的な構造を想定した近接ポイント)が明らかにできる。
  4. 遺伝子の発現
    遺伝子の情報が細胞における構造および機能に変換される過程をいう。 具体的には、遺伝情報に基づいてタンパク質が合成されることを指し、そのプロセスとはDNAから必要な情報としてRNAへ写し取られ、それが核外に運ばれて色々な分子装置をへてタンパク質の合成に至る一連の流れである。

特記事項

本研究成果は、2018年11月5日(月)9時(米国東海岸時間)〔11月5日(月)23時(日本時間)〕に英国科学誌「Journal of Cell Biology」(オンライン)に掲載されました。なお、本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S)及び文科省科学研究費補助金新学術領域研究「染色体OS」の一環として行われたました。また、本研究は東京工業大学の伊藤武彦教授のグループとの共同研究です。

本件に関する問い合わせ先

  • 研究に関すること
    深川 竜郎(ふかがわ たつお)
    大阪大学 大学院生命機能研究科 教授
    TEL:06-6879-4428
    FAX:06-6879-4427
    E-mail:tfukagawa@fbs.osaka-u.ac.jp
    関係リンク先:http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/fukagawa/index_j.html
  • 報道に関すること
    岡本 徳子(おかもと のりこ)
    TEL:06-6879-4645
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    E-mail:nokamoto@fbs.osaka-u.ac.jp