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侵入してきた病原細菌を退治する細胞の仕組みを解明!
- オートファジー機能解明で様々な病気の発症メカニズム理解に一歩 -

論文誌情報 J Cell Biol 203, 1 (2013)
この論文は掲載号のIn This Issueのページで紹介されました。
著者 藤田 尚信(1,2),森田 英嗣(3),伊藤 敬(8),田中 敦史(2),中岡 惠(2),長田 有生(1),梅本 哲雄(2),斎藤 達哉(4,5),中戸川 仁(7),小林 昇平(9),原口 徳子(9),Jun-Lin Guan(10),岩井 一宏(11),徳永 文稔(12),齊藤 一伸(6),石橋 弘太郎(8),審良 静男(4,5),福田 光則(8),野田 健司(1,2),吉森 保(1,2)

Naonobu Fujita (1, 2), Eiji Morita (3), Takashi Itoh (8), Atsushi Tanaka (2), Megumi Nakaoka (2), Yuki Osada (1), Tetsuo Umemoto (2), Tatsuya Saitoh (4, 5), Hitoshi Nakatogawa (7), Shouhei Kobayashi (9), Tokuko Haraguchi (9), Jun-Lin Guan (10), Kazuhiro Iwai (11), Fuminori Tokunaga (12), Kazunobu Saito (6), Koutaro Ishibashi (8), Shizuo Akira (4, 5), Mitsunori Fukuda (8), Takeshi Noda (1, 2) & Tamotsu Yoshimori (1, 2)
  1. Department of Genetics, Graduate School of Medicine, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  2. Laboratory of Intracellular Membrane Dynamics, Graduate school of Frontier Biosciences, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  3. Department of Molecular Virology, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  4. Department of Host Defense, WPI Immunology Frontier Research Center, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  5. Department of Host Defense, Research Institute for Microbial Disease, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  6. Core Instrumentation Facility, Research Institute for Microbial Disease, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan
  7. Frontier Research Center, Tokyo Institute of Technology, Yokohama 226-8503, Japan
  8. Department of Developmental Biology and Neurosciences, Graduate School of Life Sciences, Tohoku University, Sendai, Miyagi 980-8578, Japan
  9. Advance ICT Research Institute Kobe, National Institute of Information and Communications Technology, Kobe 651-2492, Japan
  10. Department of Internal Medicine–MMG, University of Michigan Medical School, Ann Arbor, MI 48109
  11. Department of Molecular and Cellular Physiology, Graduate School of Medicine, Kyoto University, Yoshida-konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan
  12. Institute for Molecular and Cellular Regulation, Gunma University, 3-39-15 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8512, Japan
論文タイトル Recruitment of The Autophagic Machinery 1 to Endosomes during Infection is Mediated by Ubiquitin
PubMed 24100292
研究室HP 細胞内膜動態研究室〈吉森教授〉

図1.細胞内に侵入した人工ビーズを包むエンドソーム膜に穴が開く(下段)。エンドソ...

解説

 大阪大学大学院生命機能研究科/医学系研究科の吉森保教授と藤田尚信元助教らの研究グループは、細胞内に侵入した病原細菌がオートファジーによって殺される仕組みを明らかにしました。オートファジー(自食作用)とは、細胞の中をオートファゴソームと言う膜でできたミクロの装置で掃除(隔離)して不用品などを分解・再利用するシステムで、2004年に吉森教授らにより、細胞内に侵入した病原細菌も分解することが初めて発見されました。その後、世界中で様々な病原体について同様のことが報告されましたが、細胞がどのようにして病原細菌を識別しているのかが不明でした。今回の研究により、細菌が侵入時に潜り込む細胞内小器官※1のエンドソームの膜を細菌が脱出するために破ると、その破れを察知したオートファゴソームがエンドソームごと細菌を包み込んで分解することが分かりました。オートファジーは、リソソームやミトコンドリアなどの他の細胞内小器官が破れた時も働いて様々な病気を防いでいることが最近分かってきており、同じ仕組みが使われているものと思われます。今回の成果は病原細菌による感染症にとどまらず癌や糖尿病等の発症メカニズムを理解するための重要な一歩と言えます。



研究の背景

 オートファジーを担うオートファゴソームは、膜で包まれた直径約1㎛のいびつな球形の細胞内小器官で、必要に応じて細胞の中に現れ、細胞内に生じた老廃物などを包み込んで分解する働きを持っています。そのオートファゴソームが、細胞自身の成分だけではなく、侵入してきた病原細菌をも分解するという免疫の機能も持つことを吉森教授らが過去に見つけていました。しかし、細胞がどうやって菌の侵入を察知してオートファゴソームを作って菌を包み込むのかは謎のままでした。

 細胞内小器官の一つエンドソームは、細胞外の栄養などを取り込む役割を持っており、それを利用してサルモネラを含む多くの病原細菌が細胞に侵入します。吉森教授らは、サルモネラがエンドソームから出ようと膜を傷つけるとオートファゴソームが形成され、エンドソームごとサルモネラを包み込むことを見つけました。そこで、ある試薬を表面に付着させた微小な人工のポリスチレンビーズを用いてさらに詳細な解析を進めました。このビーズは、サルモネラのようにエンドソームに入り、その膜に穴を開けるのでサルモネラの代用になり、かつサルモネラのように生きていて複雑な他の反応を起こさないので侵入の解析に好都合です。

 ビーズを用いた解析の結果、オートファゴソームは傷ついたエンドソームしかターゲットにしないこと、傷ついたエンドソームにユビキチンというたんぱく質が結合しそれが目印となってオートファゴソームが周りに形成されることなどが分かりました。

 ビーズを細胞から取り出して調べてみると、ビーズの周りにはエンドソーム膜があり、その膜の成分のたんぱく質にユビキチンが実際に結合していました。次に、オートファゴソームの形成に働くAtgと呼ばれるたんぱく質群について調べると、それらは全てユビキチンを介して傷の付いたエンドソーム膜に結合することが分かりました。遺伝子工学を駆使した実験により、Atgたんぱく質がどのようにしてユビキチンに結合するのかも明らかになりました。



本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 オートファジーがどのようにして、細胞内に侵入した病原細菌を感知してオートファゴソームで包み込んでいるのかは、大きな謎でした。今回、実はオートファジーは細菌を狙っているのでは無く、細菌によって傷が付いたエンドソームを隔離除去しようとしていることが分かりました。その時に細菌も同時に隔離されますが、もしかしたら細胞は細菌には気付いていなくて、単に壊れたエンドソームを処分しようとしているだけなのかもしれません。最近、吉森教授らは別の細胞内小器官であるリソソームが破れるとオートファジーで隔離除去されることを見つけていますし、やはり細胞内小器官の一種であるミトコンドリアも膜に穴が開くとオートファジーで除去されることが以前から知られています。傷の付いた細胞内小器官を除去するのはオートファジーの普遍的な役割なのでしょう。傷の付いた細胞内小器官は、癌や糖尿病、炎症等の様々な重要疾患の原因になります。今回、ユビキチンを介したAtgたんぱく質の結合が、オートファジーによる損傷細胞内小器官の除去のメカニズムであることが分かったので、それらの疾患の治療や予防に役立てることができるかもしれません。



用語解説


  • 細胞内小器官 細胞内部に存在する膜(生体膜)でできた袋状の微細構造体。様々な種類があり、それぞれ異なる役割を持つ。形状や大きさも種類により異なる。

図1.細胞内に侵入した人工ビーズを包むエンドソーム膜に穴が開く(下段)。エンドソーム膜に穴が開くと結合するたんぱく質に蛍光タンパク質(マゼンタ色)を繋いだもので検出。穴が開いた後にユビキチンが結合する(上段)。ユビキチンに蛍光タンパク質(緑色)を繋いだもので検出。この後にオートファゴソームが形成される。

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図2.サルモネラは、細胞内小器官のエンドソームに入り込む(左)。その後、Ⅲ型分泌装置という針のようなものをエンドソーム膜に刺して、自分のたんぱく質を宿主のヒト細胞に送り込もうとする(中)。しかしエンドソーム膜に穴が開くと、ヒト細胞はそれを感知しエンドソーム膜にユビキチンをくっつける。ユビキチンが付くと、オートファゴソームを作るAtgたんぱく質群がそのユビキチンに付きオートファゴソームが周囲に形成されサルモネラはエンドソームごと隔離・分解される(右)。

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