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蛍光性白金ナノクラスター:合成、精製、物性評価、そして生体分子イメージングへの応用

論文誌情報 Angew Chem Int Edit 50, 431-435 (2011)
著者 田中慎一(1),宮崎淳(1),ティワリ・K・ダーメンドラ(2),神 隆(2),井上康志(1)
  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 大阪大学免疫学フロンティア研究センター
論文タイトル Fluorescent Platinum Nanoclusters: Synthesis, Purification, Characterization, and Application to Bioimaging
PubMed 21154543
研究室HP ナノ・バイオフォトニクス研究室〈井上教授〉

図1.(画像をクリックすると拡大されます) 白金ナノクラスターの合成(①〜③)と...

要旨

研究の背景

金属ナノクラスター(金属ナノ粒子の一種である)は、金属原子が数個~数十個から構成された微粒子である。金属ナノクラスターは半導体量子ドットに良く似た光学特性を持ち、電子がナノメートル以下の空間に閉じ込められているため粒子のサイズに依存した固有の吸光、発光特性を示す。さらに、金属ナノクラスターは、半導体量子ドットに比べて、そのサイズが小さいだけでなく、細胞毒性も低いため、新規の生体分子イメージングツールとして期待されている。つまり、金属ナノクラスターを利用することで、タンパク質やDNAなどの生体分子が細胞、組織、個体のなかで、どのように分布し、局在しているのかを捉えることが可能となる。これまでに、金や銀から構成された金属ナノクラスターの開発が進められ、細胞内部の可視化が試みられてきた。ところが、同じ貴金属の中でも、白金の金属ナノクラスターの開発はなされてこなかった。そこで私たちは、新たに蛍光性白金ナノクラスターを開発し、その光学特性を評価し生体分子イメージングへの応用を試みた。


研究の成果

白金ナノクラスターの合成は、PAMAM(G4-OH)デンドリマーを鋳型として用いて実施した。PAMAM(G4-OH)デンドリマーの内部に白金イオンが取り込まれ、その後、還元反応を行うことによって白金ナノクラスターが合成される。またPAMAM(G4-OH)デンドリマーはその内部に一定の大きさの内孔を持つため、取り込まれる白金イオンの数がその内孔の大きさによって制限されることで、合成される白金ナノクラスターのサイズが規定できる。

白金ナノクラスターの精製は分子ふるいクロマトグラフィーを用いて行った。精製後、白金ナノクラスターの蛍光スペクトル、蛍光寿命、質量分析、量子収率を測定し白金ナノクラスターの光学特性と分子構造について評価した。その結果、白金ナノクラスターは5つの白金原子より構成されていることと、その発光波長が470nm(励起波長380nm)であることが明かとなった。さらに、その量子収率は18%で、同じ発光波長を持つZnSe量子ドット(5%)や金ナノクラスター(3.3%)に比べて3倍以上高く、高い発光強度を持つことが明かとなった。

白金ナノクラスターの生体分子プローブとしての実現可能性について評価した。まず、ケモカイン受容体CXCR4に対する抗体を結合させた白金ナノクラスター生体分子プローブを調整した。その後、HeLa細胞へ白金クラスターを投与し特異的に発現しているケモカイン受容体を染色し、蛍光観察を行うことでケモカイン受容体を可視化した。また、HeLa細胞を2日間にわたり、白金ナノクラスターに曝しても細胞の生存に影響はないことから、白金ナノクラスターの細胞毒性は低く、長時間の生体分子イメージングに使用できることを確認できた。


今後の展開

本研究成果より、蛍光性白金ナノクラスターは高輝度、高光安定、subナノサイズ、低細胞毒性であるため、従来の蛍光プローブに比べてバイオイメージングに非常に適した分子プローブであることが見出された。また、量子サイズ効果によって蛍光性白金ナノクラスターの発光波長はその分子サイズ(構成原子数)に依存することから、今後は、合成手法の最適化を行い、構成原子数(発光波長)が精密制御された白金ナノクラスターの合成技術を確立し、青色から近赤外まで多様な発光波長を有する蛍光性白金ナノクラスターの開発を展開する。さらに、開発した白金ナノクラスターを用いて生細胞や生体試料イメージングへの応用も同時に目指していく。

図1.(画像をクリックすると拡大されます)

白金ナノクラスターの合成(①〜③)と、生体分子イメージング用のプローブの合成(③〜⑤)の流れを示す。デンドリマーPAMAM(G4ーOH)のもつポケットに白金を集合させることで、白金ナノクラスターを合成する(②)。次に、メルカプト酢酸(MAA)でリガンド交換した後、白金ナノクラスターを精製させる(③)。生体分子イメージングに応用するにあたって、ここでは、ケモカイン受容体CXCR4に対する抗体を結合させている(⑤)。

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図2.(画像をクリックすると拡大されます)

微分干渉顕微鏡で撮影した画像と、蛍光顕微鏡で撮影した画像とを重ね合わせて表示している。ケモカイン受容体の抗体CXCR4ーAbを結合した白金ナノクラスターにより、HeLa細胞のなかでケモカイン受容体が発現しているところが可視化されている(a,青色)。ケモカイン受容体を発現していないCHOーK1細胞では検出されない(c)。

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図3.(画像をクリックすると拡大されます)

白金ナノクラスターを添加した培地でHeLa細胞を培養して、時間の経過に沿って、細胞生存率を調べた。白金ナノクラスターを添加しない対照実験の結果と比較して、2日間にわたって白金ナノクラスターの添加による細胞生存率に影響はなく、細胞毒性が低いことがわかる。

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