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細菌べん毛モーターの双方向回転原理の対称性を証明

論文誌情報 Proc Natl Acad Sci USA 107, 17616-17620 (2010)
著者 中村修一,上池伸徳,横田淳一,南野徹,難波啓一
論文タイトル Evidence for symmetry in the elementary process of bidirectional torque generation by the bacterial flagellar motor(細菌べん毛モーターの双方向トルク発生素過程の対称性の証明)
PubMed 20876126
研究室HP 日本電子YOKOGUSHI恊働研究所〈難波特任教授〉

要旨

研究の背景

 大腸菌やサルモネラ菌などの細菌は、べん毛と呼ばれるらせん繊維状の運動器官をスクリューのように回転させて水中を自由に泳ぎ回ります(図1AとB)。回転を駆動しているのは、繊維の根元にあって細胞膜を貫通する直径約45ナノメートルの、タンパク質分子でできた回転モーターです(図1C)。べん毛モーターは機械モーターと非常によく似た構造をしており、回転子と固定子の間の相互作用で回転力(トルク)を発生します。固定子は水素イオンのチャネルでもあり、細胞の外から内に流れ込む水素イオン流をエネルギー源として毎秒300回転もの高速で回転し、極めて高いエネルギー効率で働きます。時計回りにも反時計回りにも回転し、その回転方向は環境中の化学物質に反応してミリ秒程度の短い時間で瞬時に切り替わります。
 べん毛モーターの回転は一見滑らかに見えますが、回転と停止を交互に繰り返すステップ状の動作を1回転中に26回していることが、他の研究グループによって2005年に明らかにされました。べん毛モーターのトルクは、固定子チャネル内のイオンの移動と共役して起こる固定子-回転子の相互作用により発生すると考えられており、回転子が26個のタンパク質から成るリング構造であることから、ステップ状動作はトルク発生の素過程をとらえたものであると考えられています。しかし、以前の結果では回転方向によってステップ幅が異なるなど、回転のしくみが双方向で同じか否かも不明で、トルク発生の仕組みは未解明のままでした。

研究の成果

 今回、10000分の4秒間隔で撮影可能な高速カメラでサルモネラ菌のべん毛モーターの回転動作を解析し(図2)、一周26回のステップ状動作を確認するとともに、反時計回りと時計回りの双方向でステップの幅が同じであることを明らかにしました(図3)。その結果、回転方向に非対称な構造を持つモーター構成タンパク質の一部が、ギアを切り替えるように反転することで、双方向に対称なモーターのステップ動作を可能にしている可能性が示唆されました。

今後の展開

 筋肉の主要タンパク質で筋収縮力を発生するミオシンとアクチン繊維、細胞内の物質輸送に関わるキネシンと微小管、細胞内高エネルギー物質の合成を担うFoF1-ATP合成酵素など、生命活動において重要な役割を果たす生体分子モーターは数多く存在しますが、入力エネルギーの方向を変えないまま動作方向を切り替える仕組みを持っているのは細菌べん毛モーターだけです。効率の高いエネルギー変換機構と高性能な出力切り替え機構は、将来の産業応用において活躍が期待されるナノモーターに応用すべきものであり、今回の成果はその基本的作動原理の解明を目指す上で極めて重要であると考えられます。

図1.
細菌べん毛

(A)数本のべん毛を束にして回転させ遊泳するサルモネラ菌。サルモネラ菌は5〜10本のべん毛を持ち、それらが束を形成して高速に同期回転することで推進力が発生する。菌の体長は2ミクロン程度であり、1秒間に体長の約20倍の距離を泳ぐことができる(遊泳速度:毎秒30〜40ミクロン)。(B)細菌べん毛の全体図。OM、PG、CMは、それぞれ外膜、ペプチドグリカン層、細胞膜を示す。(C)べん毛モーターのモデル図。固定子のチャネルを通して細胞内に流入する水素イオンのエネルギーを回転運動に変換する。 namba-20101029-1.jpg

図2.
べん毛モーター回転ナノ計測法(ビーズ法)

ガラス表面に固定した細菌の表面から伸びたべん毛繊維に直径100 nm(0.1ミクロン)の蛍光ビーズを付着させ、モーターの回転に伴って回転するビーズの動きを、1秒間に2400コマ(10000分の4秒間隔)の高速度で撮影する。 namba-20101029-2.jpg

図3.
サルモネラ菌べん毛モーターのステップ状動作

(A)反時計回りに回転しているモーターのステップ状動作。横軸は時間で縦軸は回転角度。(B)は(A)の一部を拡大したもの。(C)反時計回りのステップ幅(角度)のヒストグラム。(D)時計回りに回転しているモーターのステップ状動作。横軸と縦軸は(A)と同じ。(E)は(D)の一部を拡大したもの。(F)時計回りのステップ幅(角度)のヒストグラム。べん毛モーターは反時計回り、時計回りのいずれの方向にも、約14º間隔のステップ状動作を繰り返して回転している。 namba-20101029-3.jpg