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NatAによるタンパク質N末端アセチル化を介した選択的ミトコンドリア分解の制御
- マイトファジーの新たな制御因子の発見 -

論文誌情報 J Biol Chem 290, 25034-25044 (2015)
著者 英山明慶(1,2),岡本浩二(1)

  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 日本学術振興会特別研究員(DC1)
論文タイトル Protein N-terminal acetylation by NatA is critical for selective mitochondria degradation
PubMed 26296886
研究室HP ミトコンドリア動態学研究室〈岡本准教授〉

解説

 マイトファジーは細胞内において、ミトコンドリアを選択的に分解する機構であり、機能不全となったミトコンドリアを除去することで、その品質管理に貢献しています。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeでは、呼吸増殖を長時間行った場合にマイトファジーが進行します。その際、ミトコンドリア分解の分別マーク・タンパク質Atg32の発現が誘導され、ミトコンドリアの表層に局在し、他のオートファジー関連因子と相互作用します(図1)。そして、ミトコンドリアが隔離膜によって囲まれた後、液胞(リソソームに相当)に運ばれ分解されます。Atg32を中心に、マイトファジーの分子メカニズムの解明が進められていますが、その制御機構は未だ不明な点が多いです。当研究科ミトコンドリア動態学研究室はマイトファジーのメカニズムの解明を目指しており、このほど岡本准教授と大学院生の英山明慶さんは、その制御に関与する新規因子としてNatAを見出しました。NatAはタンパク質N末端アセチル化酵素であり、触媒サブユニットArd1とアダプターサブユニットNat1で構成される複合体です。このタンパク質はリボソームと結合し、新生ポリペプチド鎖の2番目のアミノ酸残基に対して、アセチルCoAからアセチル基を転位させます。
 岡本准教授らは、NatAの各サブユニットを欠損させた細胞や酵素活性をなくした変異体では、ミトコンドリアの分解が強く抑制されることを突き止めました。さらにNatA欠損細胞では、ミトコンドリアが隔離膜で囲まれた構造体(マイトファゴソーム)の形成にも異常が起きていることを確認しました。このことは、NatAがマイトファジーの隔離膜形成以前の制御に大きく関与していることも示唆しています。そこで、マイトファゴソーム形成に必須な因子であるAtg32の機能解析をNat1、Ard1欠損細胞で行ったところ、Atg32の発現がタンパク質レベルで部分的に抑制されることを確認しました。また、転写レベルではより顕著に、mRNAの量が減少していることがわかりました。一方、Nat1とArd1の欠損細胞でAtg32の発現量を上げた場合、マイトファジーが部分的に回復することも確認しました。このことから、Atg32は、NatAとマイトファジーの間を介する因子の一つであると考えられます。しかしながら、NatAは直接的にAtg32に作用しないことが示唆されています。したがって、NatAの基質タンパク質がAtg32の発現誘導ないし、マイトファジーの制御に関与していると考えられます (図2)。
 以上の結果より、NatAによるタンパク質N末端アセチル化がマイトファジーに重要であることが示唆されました。マイトファジーは酵母からヒトまで真核生物に保存された基本的な仕組みであり、細胞の恒常性維持に重要な役割を果たします。神経変性疾患であるパーキンソン病は、マイトファジーの破綻が原因の一つと考えられていることから、マイトファジーのメカニズムを理解することは、さまざまな疾患の予防や治療などへ貢献できる可能性があります。今回の研究成果は、マイトファジーのメカニズムの全容解明に向けた足掛かりの一つとなることが期待できます。

図1.マイトファジーによる選択的ミトコンドリア分解のモデル

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図2.NatAのマイトファジーへの関与

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