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Pih1d3遺伝子はマウス精子の軸糸ダイニンの細胞質における組立てに必要である

論文誌情報 J Cell Biol 204, 203-213 (2014)
著者 Dong Fenglan(1),篠原恭介(1),Yanick Botilde(1),鍋島了(1),浅井泰子(1),福本明美(1),長谷川紀昭(2),松尾萌(3),武田洋幸(3),白鳥秀卓(1),中村哲也(1),濱田博司(1)

  1. 大阪大学大学院生命機能研究科
  2. 大阪大学超高圧電子顕微鏡センター
  3. 東京大学大学院理学系研究科
論文タイトル Pih1d3 is required for cytoplasmic preassembly of axonemal dynein in mouse sperm
PubMed 24421334
研究室HP

解説

研究の背景

 われわれヒトは繊毛とよばれる微小管から構成される毛を持つ細胞を体のいたる所に持っている。繊毛は流れを作る動く繊毛と細胞外の化学シグナルや力学的シグナルを感知する動かない繊毛の2種類がある。動く繊毛は体の中で気管・脳室・卵管・精子などに存在し、繊毛内部のダイニン腕と呼ばれる装置により運動することで流れを作る。しかしダイニン腕が細胞の中でどのように組み立てられるのかに関しては未解明な点が多く残されている。



研究の成果

 今回、ゼブラフィッシュにおいて多発嚢胞腎(繊毛の運動不全により発症する)の原因遺伝子として報告されていたTwister遺伝子のマウス相同遺伝子の一つであるPih1d3遺伝子のノックアウトマウスを作製し機能を解析した。このホモ変異体マウスは正常に生まれ成長し目立った異常はみられなかったが、ホモ変異体のオスマウスは不妊であることが判明した。その原因を調べるためホモ変異マウスのオスの精子を調べたところ精子が運動性を失っている事が分かった。免疫抗体染色・電子顕微鏡・生化学の実験からホモ変異体のオスマウスの精子では細胞質内でのダイニン腕の組立てが正常に進行せず、結果精子内のダイニン腕の数が減少することが判明した(図1)。さらにダイニン腕が細胞質内で組み立てられる詳しいメカニズムを調べるため、ダイニン腕の組立てを補助すると考えられているHSP70とHSP90, ダイニン腕が組み立てられる際の最初の枠組みになると考えられているIC1-IC2中間鎖複合体のそれぞれとPih1d3蛋白の相互作用を免疫沈降法によって調べた結果、 Pih1d3蛋白はHSP70, HSP90と協調してIC1-IC2複合体を安定化させる役割を持つ新規の因子であることが明らかとなった(図2)。



今後の展開

今回の成果により精子内の運動装置を組み立てるメカニズムの一端が明らかとなった。今後さらに詳しいしくみが解明されその知見がヒトの不妊治療に応用されることが期待される。

図1.Pih1d3ノックアウトマウスでは精子のダイニン腕形成が異常となる
(A)精子断面の透過型電子顕微鏡像。野生型マウスの精子では微小管上に運動装置ダイニン腕(矢頭)が観察されるがPih1d3ノックアウトマウスの精子ではダイニン腕の数が減少している(B)ダイニン腕の中間鎖サブユニットIC2の局在。野生型マウスの精子に比べてノックアウトマウスの精子ではIC2の蛋白の量が減少している。

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図2.細胞質内のダイニン腕組立てにおけるPih1d3の機能のモデル
Pih1d3蛋白はHSP70, HSP90と協調して中間鎖複合体であるIC1-IC2複合体を安定化することにより組立ての最初期に機能している。

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