おもろい研究!君ならできる、ここでできる|新しい生物学・生命科学を拓く大学院|大阪大学大学院生命機能研究科

English

筋肉のアクチン繊維の構造を高分解能で解明

論文誌情報 Nature 467, 724-728 (2010)
著者 藤井高志,岩根敦子,柳田敏雄,難波啓一
論文タイトル Direct visualization of secondary structures of F-actin by electron cryomicroscopy(低温電子顕微鏡によるアクチン繊維2次構造の可視化)
PubMed 20844487
研究室HP 日本電子YOKOGUSHI恊働研究所〈難波特任教授〉

要旨

研究の背景

 アクチン繊維は、アクチンと呼ばれるタンパク質がらせん状に積み重なって形成される繊維複合体です。細胞骨格として幅広く様々な細胞に存在し、数多くの生命機能に密接に関わっています。アクチン分子は重合と脱重合を繰り返し、ダイナミックな細胞活動を実現しています。細胞質流動や細胞分裂時のダイナミックな細胞骨格構造の再編成に深く関与しています。また、筋細胞ではミオシンと共に筋収縮を担っています。また、神経細胞などではフィロポディア・ラメロポディアなどの形成により細胞の形を巧みに変形させることで、神経活動に深く関与しています。このように、アクチン繊維は多岐に渡る生命機能に関与する極めて重要な生体分子です。アクチン繊維の機能発現メカニズムを明らかにするためにはその原子レベルでの構造が必要でした。しかし、直径10nmあまりと非常に細い繊維であり電子顕微鏡での高分解能構造解析はこれまで、大変困難でした。

研究の成果

 今回、画像のコントラストを大幅に改善すること、また画像解析法の改良により、その詳細構造の解明に成功しました。低温電子顕微鏡による撮影とその画像解析により、αヘリックスやβシートなどが解像できる分解能でアクチン繊維の立体像を得ました。これまでに、X線結晶構造解析により単量体時の原子構造は明らかになっていました。この結晶構造を初期構造とし、分子動力学を用いて、今回得られた電子顕微鏡の密度マップに合うようにアクチンの構造を変化させ、アクチン繊維の原子モデルを高精度で得ることができました。この繊維構造から、繊維中のアクチンの構造が単量体の構造と劇的に異なることが明らかになりました。
 アクチン分子は4つのドメインから構成されていますが、このドメインがそれぞれ複雑に相対位置・角度を変えることでこの構造変化を実現していました。また、これまで、繊維内での相互作用は疎水的な相互作用が重要であると考えられていましたが、それよりも親水的な相互作用が重要であり、さらにそれらの相互作用は比較的弱いものであることが明らかになりました。本研究で示された劇的な構造変化が、細胞中でのアクチン分子の重合・脱重合において本質的な役割を担っていると考えられます。

今後の展開

 様々な細胞で重要な役割を担っているアクチン繊維は様々なタンパク質分子と相互作用し、細胞骨格の形成や再編成、細胞内の物質輸送に関わり、筋細胞ではミオシン分子との相互作用により筋収縮を引き起こしています。つまりアクチン繊維は様々な状況で、細胞活動の足場として、また細胞の形態形成や運動の駆動力発生源として活躍しています。このように筋細胞や神経細胞など普遍的に存在するアクチン繊維は、様々な病気にも密接に関わっています。今後はそういった様々なタンパク質を結合したアクチン繊維の立体構造を高分解能で決定していくことで、医学・生命科学の応用研究にもつなげて行きたいと思います。

図1.
急速凍結により氷の薄膜に包埋したアクチン繊維の電子顕微鏡写真

namba-20101016-1a.jpg

図2.
電子顕微鏡像のフーリエ変換によって得られた繊維回折像

namba-20101016-1b.jpg

図3.
アクチン繊維のねじれの固さを示すグラフ

左巻の一重らせんに沿った一つの分子から次の分子への回転角に対して、0.2度おきに繊維構造のポピュレーションを計測すると、電子顕微鏡写真に写った繊維全体の87%がその平均値の166.6度から±1度以内に存在した。 namba-20101016-1c.jpg

図4.
画像解析によって得られた3次元密度マップに当てはめて構築したアクチン繊維の原子モデル

namba-20101016-2.jpg

図5.
アクチン繊維の形成にともなうアクチン分子の構造変化

アクチン繊維構造(ピンク)と単量体の結晶構造(青)を比較したもの。アクチン分子はドメインとよばれる4つの塊(D1, D2, D3, D4)に分けられる。(a)は繊維中の構造と単量体の結晶構造をドメインごと重ね合わせたもので、D2以外は見事に重ね合わせることができ、各ドメインがしっかりした構造であることがわかる。繊維の形成は、以下に示すように、この4つのドメイン間の相対位置や角度が変化するとともに、D2の構造が大きく変化することによって起こる。(b) はD1を重ねあわせたときに見えるD2の構造変化。赤い矢印周りに回転するとともに、右上の短いヘリックスがループに変化している。軸方向のアクチン分子間の相互作用に重要な役割を果たす部分である。(c) は(b)を矢印方向から見た図。(d)はD3を重ねあわせたときのD1とD4の動き。(e)は(d)の水色の矢印の先から矢印に沿って見たD4の動きで、矢印の周りに約7度回転している。(f)は(d)の緑の矢印の先から見たD1の動きで、約13度回転している。 namba-20101016-3.jpg