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神経細胞が軸索を伸ばすとき、過渡的にウニのような形態を示す。

論文誌情報 J Neurosci 30, 15221-15227 (2010)
著者 Emi Yamasaki, Daisuke H. Tanaka, Yuchio Yanagawa1 and Fujio Murakami
山嵜絵海,田中大介,柳川右千夫,村上富士夫
論文タイトル Cortical GABAergic Interneurons Transiently Assume a Sea Urchin-like Non-polarized Shape Prior to Axon Initiation
神経細胞が軸索を伸ばすとき、過渡的にウニのような形態を示す。
PubMed 21068327
研究室HP

図1. ウニのような形態をした神経細胞から軸索突起が伸び出す様子を示す図。右下は...

要旨

研究の背景
 
 脳を構成する神経細胞は極性を持った細胞であり、一本の軸索突起と数本の樹状突起をのばしています。樹状突起は信号を受容するアンテナの役割を果たし、軸索突起は神経細胞で処理された信号の出力を次の神経細胞に伝える役割を果たしています。つまりこのような神経細胞の形態は神経細胞のおこなう情報処理にとって欠かせない重要なものです。脳の発生の過程で未熟な細胞からどのようにしてこのような形態が生まれるのか、どのようにして一本の軸索突起が伸び出し、残りが樹状突起になるのかは謎に包まれていました。
 発生期の脳では神経細胞は神経上皮細胞と呼ばれる細胞から生み出されますが、実はこの神経上皮細胞は極性を有しています。また新しく生まれた細胞は移動を始め、別の場所に移動してから成熟しますが、この移動の際には神経細胞は移動方向に先導突起と呼ばれる運動性の高い突起を伸ばしています。つまり移動中の神経細胞も極性を有しています。したがって、未成熟な細胞が有している極性が受け継がれる、すなわち例えば先導突起が軸索になると考えれば、成熟神経細胞の極性の成り立ちは簡単に説明することができます。ところが、神経細胞の成熟の過程を実際に観察した研究はありませんでした。

研究の成果

 私たちは大脳皮質の抑制性ニューロンに着目して、このニューロンが成熟していく過程を長時間に亘って観察し、これまでの考えとは異なる結果を得ました。大脳皮質の抑制性ニューロンはマウスでは丁度胎仔が生まれる頃に移動を終えます。そこでこの時期を狙って観察したところ、ウニのように多くの棘状の突起を持ち、それを伸縮させながらゆっくりと動いている細胞があることに、気がつきました。さらに興味深いことに、その後突然にその中の一本が急激に伸び出して、軸索のような長い突起になることを見つけました。このことは移動細胞が一旦その極性を失い、何らかの新たな機構により、成熟神経細胞の極性が獲得されることを意味しています。

今後の展開

 私たちが観察をおこなったのは、大脳皮質の抑制性ニューロンだけです。したがって、このような現象が一般的に起こっているのかどうかは今のところ不明ですので、他の神経細胞でも観察を行う必要があります。又残された突起はそのまま樹状突起となるのか、それとも何段階かのステップを経て成熟するのかも興味深い点です。どのような仕組みで一本の突起だけが軸索となるかは、培養細胞を用いて盛んに研究が行われていますが、私たちが見つけた現象との関係もこれから明らかにしていく必要があります。

図1.
ウニのような形態をした神経細胞から軸索突起が伸び出す様子を示す図。右下は観察を始めてからの時間。下の図は上と同じだが、分かり易いように軸索に赤い色をつけてある。

20101112_murakami_1.jpg

図2.
今回得られた結果のまとめ。大脳皮質抑制性ニューロンは移動を終えた後、ウニのような形態をとり、その後一本の突起が伸び出して、軸索を形成する。

20101112_murakami_2.jpg

ムービー.
大脳皮質の断面でウニのような形の細胞から突起が伸びる様子を示す。

「研究科ビデオ」で動画をご覧いただけます。