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繊毛運動そろうもそろわぬも根っこがかなめ

論文誌情報 Cell 148, 189-200 (2012)
著者 国本晃司(1),山崎裕自(1),西田倫希(2),篠原恭介(3),石川裕章(4),長谷川紀昭(2),岡上(5),濱田博司(3),野田哲生(6),田村淳(1),月田承一郎(7),月田早智子(1)

Koshi Kunimoto (1), Yuji Yamazaki (1,*), Tomoki Nishida (2,*), Kyosuke Shinohara (3,*), Hiroaki Ishikawa (4,*), Toshiaki Hasegawa (2), Takeshi Okanoue (5), Hiroshi Hamada (3), Tetsuo Noda (6), Atsushi Tamura (1), Shoichiro Tsukita (7) and Sachiko Tsukita (1,§)
  1. Laboratory of Biological Science, Graduate School of Frontier Biosciences and Graduate School of Medicine, Osaka University, 2-2 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan.
  2. Research Center for Ultra-high Voltage Electron Microscopy, Osaka University, 7-1 Mihogaoka, Ibaraki, Osaka 567-0047, Japan.
  3. Developmental Genetics Group, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University and CREST, Japan Science and Technology Corporation (JST), 1-3 Yamadaoka, Suita, Osaka 565-0871, Japan.
  4. Department of Biochemistry and Biophysics, University of California, San Francisco, CA94143, USA
  5. Department of Hepatology, Saiseikai Suita Hospital, Osaka, Japan.
  6. Department of Cell Biology, Cancer Institute of Japanese Foundation for Cancer Research, 3-10-6 Ariake, Koto-ku, Tokyo 135-8550,Japan.
  7. Department of Cell Biology, Faculty of Medicine, Kyoto University, Yoshida-Konoe, Kyoto 606-8315, Japan.

* : These authors nearly equally contribute to this work from different directions.
§ : Corresponding author.
論文タイトル Coordinated Ciliary Beating Requires Odf2-Mediated Polarization of Basal Bodies via Basal Feet
PubMed 22265411
研究室HP 分子生体情報学研究室〈月田教授〉

解説

研究の背景

 生体は上皮細胞シートによってコンパートメントを形成し、いろいろな器官や臓器を形成しています。特に気管や卵管ではその内腔をまるで絨毯のようにびっしりと繊毛細胞のシートが覆っています。一つの繊毛細胞は毛のような構造を100本以上も持っており、全ての細胞の全ての繊毛がまるでボートをこぐように、共同して動き、気管では細菌やウイルスなどの病原体、卵管では卵子を運んでいます。一本一本の繊毛の根元には基底小体という構造がありますが、基底小体が細胞膜にドッキングし、そこから繊毛が長く伸びていきます。根元の基底小体にはbasal footという円錐のように尖った特徴的な突起構造が付着しています。このような繊毛を数多く持つ繊毛細胞がどのようにして繊毛を、規則正しく、同じ方向に動かすことが出来るのかは謎でした。我々は、Outer dense fiber 2 (Odf2)という蛋白質に変異を起こしたOdf2 変異マウス(Odf2Δ/Δ)を作成したところ、この規則正しい繊毛運動が完全に消失しました。Odf2は2001年にNakagawa et al.により当研究室で、中心体や基底小体の構成成分であると同定され、その後、繊毛形成に深く関わることが示された蛋白質です。本論文においては、何故Odf2の変異が繊毛協調運動の異常を引き起こすのかを示しました。

カバーイラストの説明)
上図: 野生型(Odf2+/+)マウス。繊毛(緑)の並び方は整然としており、運動方向は一方向性である。basal foot という突起(赤)が規則正しく、運動方向を向いている。

下図: 変異型(Odf2Δ/Δ)マウス。繊毛(緑)の並び方はばらばらであり、運動方向もばらばらである。basal foot という突起が完全に消失している。


研究の成果

 我々は、Odf2を全身で変異させたマウスは繊毛が生えず、胎生致死になると予想しました。しかし、そのマウスは繊毛を保持しており、ほぼ正常に生まれてきました。ところが、そのマウスは少し体が小さく、咳やくしゃみを発作的に続けることがわかりました。前述のように、気管では、繊毛を100本以上も持つ繊毛細胞が、気管内腔をびっしりと覆っており、全ての繊毛細胞の全ての繊毛が口側(外界)に向けて協調しながら、一方向性に高振動(1分間に1000回以上)し、粘液と一緒に細菌などを排出しています。これにより我々の体は細菌などの感染から守られているのですが、呼吸症状を呈しているOdf2Δ/Δマウスは気管の繊毛の運動に異常があるのではと考えました。そこで高速度カメラで気管の内腔を観察したところ、繊毛の振動の方向がOdf2Δ/Δマウスでは完全にばらばらになっていることがわかりました。さらに、蛍光粒子を気管の内腔に添加しその動きを解析しました。するとOdf2Δ/Δマウスでは、蛍光粒子は全く口側(外界)に排泄されず、繊毛協調運動をベースにした粘液排泄機能が完全に障害されており、それを代償するため、咳やくしゃみ発作を続けていることがわかりました(図1)。
 ところで、高振動する繊毛の根元に付着するbasal footという突起構造はOdf2Δ/Δマウスではいったいどうなっているのかという疑問が沸きました。我々は、まず超薄切片による通常の電子顕微鏡による観察を試みましたが、basal footや基底小体の全体像を可視化することは出来ませんでした。我々はさらに厚いサンプルを解析するため超高圧電顕トモグラフィーによる三次元的構築を行うことを試みました。マウス気管を用い、700nmの電顕サンプルを作成し、Hitachi H-3000にて観察、トモグラフィーを作成し、基底小体の三次元再構築を行いました。野生型(Odf2+/+)マウスではbasal footの構造がはっきりと確認出来ましたが、Odf2Δ/Δマウスでは繊毛の根元からbasal footが完全に消失していることがわかりました(動画1,2参照)。
 次にbasal foot がどのようにして繊毛の動きの方向を整えるのかという疑問を解決するため、basal footの先端に注目しました。Odf2+/+マウスにおいて、basal footの先端には代表的な細胞骨格である微小管が結合していることがわかりました。さらに正常気管の繊毛細胞の細胞膜直下には規則正しく配列された微小管のネットワークが存在し、それが規則正しくbasal foot の先端と結合することによりネットワークが維持されていることがわかりました。一方、Odf2Δ/Δマウスではbasal foot が完全に消失しているため、微小管のネットワークも完全に崩壊しており、基底小体の位置、距離、方向などの平面極性が障害されていることがわかりました(図2)。
 これらの解析結果を総合すると、Odf2Δ/Δマウスは、まず、繊毛協調運動の障害により粘液排泄機能が障害され、咳、くしゃみなどの症状を呈しました。さらなる解析により、このマウスは慢性中耳炎、慢性副鼻腔炎、鞭毛を持つ精子の障害による男性不妊、また卵管の卵子輸送障害によると思われる女性不妊も併発していることがわかりました。以上より、Odf2Δ/Δマウスは原発性繊毛機能不全症と診断しました(図3)。


今後の展開

 今回の研究により、basal footという突起構造が繊毛協調運動のかなめになっていることがわかりました。Odf2と関係する蛋白質などの解析など、さらに研究をすすめることにより、最終的には気管の繊毛細胞の動きを人為的に調節し、気道の感染症やその重症化を予防することが、出来る可能性があります。また,卵管が原因の不妊症の方も同様に治癒させることが出来る可能性があります。また、生物学的に見て、基底小体と中心体はそれ自体の構造や付着構造において相同性が高く、その機能の違いや関わりにおいて非常に注目されています。今後、中心体の付着構造についても詳細な解析を行い、中心体の役割、またその付着構造の役割についての詳細な解析も続けたいと思います。その構造がさらに明らかになったり、新しい関連蛋白質が同定されることにより、繊毛、中心体の成り立ち、またそのあらたな機能が判明したり、生物の進化や、遺伝病の遺伝子同定やその治療につながる可能性があります。

図1.
気管表面に添加した蛍光粒子を10秒間トレースした画像。粘液排泄能を示す。Odf2+/+マウス気管では粒子は一方向性に口側(外界)に運ばれたが、Odf2Δ/Δマウスでは粒子は全く、口側(外界)に運ばれなかった。矢印は代表的なビーズの軌跡。


図2.
上図:超高圧電顕トモグラフィによる気管繊毛細胞の微小管ネットワークの描出画像。基底小体の横断面が見えている。Odf2Δ/Δマウスでは微小管のネットワークが崩壊しており、基底小体の配向もばらばらである。緑:微小管

下図: Odf2+/+マウスでは basal foot(突起)の先端に微小管が結合している。Odf2Δ/Δマウスではbasal foot(突起)が消失しているため微小管が結合出来ない。


図3.
上図: Odf2Δ/Δマウスは咳、くしゃみ様発作を繰り返す。超高圧電顕トモグラフィによる気管線毛基底小体の三次元構成像。 水色:基底小体、ピンク色:basal foot(突起)、青色:基底小体の膜結合部、黄色:繊毛膜、桃銀色:繊毛内微小管
Odf2Δ/Δマウスではbasal foot(突起)のみが完全に消失していた。

下図:模式図。 水色:基底小体、ピンク色:basal foot(突起)、緑色:微小管骨格
Odf2Δ/Δマウスではbasal foot(突起)がなくなることにより、繊毛の運動方向がばらばらになる。


動画1.
Odf2+/+マウス気管(正常)の超高圧電顕トモグラフィ。basal foot(突起)は一方向を向いている。



動画2.
Odf2Δ/Δマウス気管(変異)の超高圧電顕トモグラフィ。basal foot(突起)が消失している。