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視覚野細胞が伝える3Dステレオ立体視の素情報

論文誌情報 J Neurophysiol 30, 13826-13837 (2010)
著者 佐々木耕太,田渕有香,大澤五住
(連絡先: 大澤五住 ohzawa@fbs.osaka-u.ac.jp )
論文タイトル Complex cells in the cat striate cortex have multiple disparity detectors in the three-dimensional binocular receptive fields.
PubMed 20943923
研究室HP 視覚神経科学研究室〈大澤教授〉

要旨

研究の背景

 私たちは、両眼の網膜に写る2枚の平面的な2次元画像から、奥行感のある立体的な3次元世界を知覚しています。動物や私たちの脳の中で、こうした3次元の視覚情報はどのように表現されているのでしょうか?多くの神経細胞が大量の3次元視覚情報を分担して受け持つ事により、豊かな視覚世界が実現されていますが、1個1個の細胞が分担している部分情報、すなわち神経細胞1個が受け持つ立体視の素情報とは、どのようなものでしょうか?

 ステレオ立体視に関する情報を処理するためには、細胞は両眼からの入力投射を受ける必要があります。左右の目はヒトでは10センチ程度離れた位置から外界を見ているため、左右の網膜に映る物体像に小さな位置ズレが生じます。この位置ズレのことを「両眼視差」と呼びますが、それを両眼からの2枚の画像をもとに計算するためです。このような働きをする神経細胞は大脳で最初に網膜からの情報を受け取る領野である一次視覚野で最初に出現します。

研究の成果

 私たちの研究室では、このような一次視覚野の個々の神経細胞が伝えている3Dステレオ立体視情報の詳細を、3次元空間において初めて完全な形でとらえることに成功し、神経細胞1個が伝える立体視情報の最小単位を明らかにしました。

 図2は、ネコの一次視覚野にある1個の神経細胞が、その視野である3次元空間のどの場所から入力を受け取っているかを示す地図、すなわち、3次元空間における受容野を表しています。赤で示す場所に物体がある時に、この細胞は興奮し、青の場所に物体が位置する時には、逆に抑制を受けます。つまり、物体が動物からある特定の距離にある時にのみ興奮し、それよりも遠方あるいは近くにある時には抑制されることがわかりました。したがって、脳内に存在する3Dステレオ立体視情報の最小単位は、このような1個の細胞が伝える3次元位置である、ということができます。

今後の展開

 一次視覚野の1個の細胞の視野は、上記のように非常に限定されています。そのため、複雑な物体の3次元形状や、複数の物体の3次元的位置関係は、1個の一次視覚野細胞では表現できません。高次の視覚領野は、意識に上る視覚に関する全ての情報を一次視覚野を介して得ていると言われています。高次視覚野の細胞では、多くの一次視覚野細胞からの信号を統合する事により、複雑な3次元形状が表現されているはずですが、その詳細は今後の研究の課題です。

図1.
3次元空間における神経細胞の受容野の模式図

Fig1-3DBRF-illustrated.png

図2.
ネコの一次視覚野細胞の3次元空間受容野の例 赤は興奮性領域、青は抑制性領域を示す。Z軸は動物の前方へ遠ざかる軸。
関連動画:http://ohzawa-lab.bpe.es.osaka-u.ac.jp/resources/pubmovies.html


図3.
3次元空間受容野の内部構造データ

Fig3-3DBRF-cx-example2.png