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極低温電子顕微鏡像の解析によるバクテリアべん毛繊維超分子の完全な原子モデルから、その超高精度スイッチ機構を解明

論文誌情報 Nature 424, 643-650 (2003)
著者 Yonekura K, Maki-Yonekura S, Namba K.
論文タイトル Complete atomic model of the bacterial flagellar filament by electron cryomicroscopy.
PubMed 12904785
研究室HP 日本電子YOKOGUSHI恊働研究所〈難波特任教授〉

要旨

極低温電子顕微鏡像の解析によるバクテリアべん毛繊維超分子の完全な原子モデルから、その超高精度スイッチ機構を解明

細菌はらせん型べん毛をプロペラスクリューとして高速回転させ水中を泳ぐ。べん毛繊維は蛋白質フラジェリンが数万個も重合した直径20ナノメートルの細長いチューブ状の超分子で、極低温電子顕微鏡法による原子レベルの構造解析により、らせん構造を形成しその巻き方を切り替える超高精度のナノスケールスイッチ機構が明らかになった。

解説

細菌べん毛繊維は細菌運動を駆動するらせん型プロペラスクリューで、分子量約5万の単一蛋白質フラジェリンが2万~3万分子、らせん状に重合することにより構築されるチューブ構造である。直径はわずか20 nmであるが、長さは10 - 15 mmにも達する。極低温電子顕微鏡法により、この超分子バクテリアべん毛繊維の立体構造を約4A 分解能で解析し、原子モデルを構築した。これは世界で始めて、電子顕微鏡像の画像解析のみから得られた生体高分子の原子モデルである。その構造は、ナノマシンの巧妙な構築原理が明かとなる興味深いものであった。構成蛋白質のフラジェリンが繊維内側のコア領域でcoiled-coilを形成し、疎水性相互作用により繊維構造を安定化しいていることや、べん毛繊維の形態変換に重要なアミノ酸の相互作用等が明らかになった。また、先端成長のためのフラジェリン輸送経路である中央のチャネルが主に極性アミノ酸に取り囲まれた直径約20 _の通路であり、この性質がフラジェリンの速やかな輸送に重要であることが示唆された。べん毛は病原性バクテリアの病原因子分泌装置(TypeIII輸送装置)と遺伝的に高い相関関係にあり、その経路の性質を初めて明らかにしたこの構造は、創薬分野への応用にも重要な情報を与えるものである。
生体内で働く様々な超分子には、生命機能にとって重要な役割を担うが構造の知られていないものが多い。結晶化の非常に困難な超分子複合体等では、個々の構成蛋白質または一部の断片の構造が知られていても、機能発現に重要な超分子内での蛋白質間相互作用様式はほとんど知られていないのが現状である。今回の成果は、結晶化の困難な生体高分子を溶液中の機能状態で電子顕微鏡像を記録し、その画像解析のみから原子モデルの構築可能な分解能で構造解析した初の結果であり、ポストゲノムの主要な課題でもある生体高分子の立体構造解析に新たな可能性を示したものである。解析の過程では、種々の新規解析プログラムの開発も行った。