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DNAの分解異常による慢性多発性関節炎

論文誌情報 Nature 443, 998-1002 (2006)
著者 Kohki Kawane, Mayumi Ohtani, Keiko Miwa, Takuji Kizawa, Yoshiyuki Kanbara, Yoshichika Yoshioka, Hideki Yoshikawa, and Shigekazu Nagata
論文タイトル Chronic polyarthritis caused by mammalian DNA that escapes from degradation in macrophages
マクロファージでの分解を免れたDNAによっておこる 慢性多発性関節炎
PubMed 17066036

図1:DNase II変異マウスでの関節の腫れ 生後4週間目のマウス(左、野生...

要旨

手足の指、ひざなどの関節がこわばる関節リウマチは激しい痛みを伴う炎症反応であり、約1%の人が発症します。この病気の原因は不明です。今回、私達はアポトーシスや赤血球の産生過程において、DNAを効率よく分解できないマウスがヒトの関節リウマチと似た関節炎を発症することを見出した。

解説

背景と経緯

 関節リウマチは手足の指、ひざなどの関節がこわばり、痛み、変形を伴う炎症反応であり、約1%の人が発症します。発症した関節ではTNF (tumor necrosis factor,腫瘍壊死因子) やIL-6 (インターロイキン6)が多量に発現しています。近年、抗TNF抗体が関節リウマチの治療薬として使われていますが、これは対症療法であり、病気を根治させるものではありません。関節リウマチを根治させるには、病気を引き起こす原因を明らかにする必要があります。
アポトーシスは、不要になった細胞や害となる細胞を取り除く細胞死のメカニズムです。この過程では細胞の凝縮、断片化とともにDNAが急速に分解され、マクロファージによって速やかに貪食されます。私達は、これまでにアポトーシス細胞のDNAは2段階で分解されることを明らかにしました。すなわち、DNAは死細胞内でCAD (caspase- activated DNase)によりヌクレオソームの単位に分解され、その後、死細胞がマクロファージに貪食されるとマクロファージのリソソームに存在するDNase IIによってヌクレオチドにまで分解されます。一方、赤血球の最終分化段階で核は排除され、マクロファージによって貪食されます。この際も、マクロファージに存在するDNase IIがDNAを分解します。

研究成果

 DNase II遺伝子の生体内での生理作用を検討するため、DNase II遺伝子を生後、 [poly(IC)] により欠失させることのできるようなマウスを作成しました。このマウスを [poly(IC)]で処理すると数週間のうちにDNase II遺伝子は除去され、それに対応して、体内のマクロファージにはアポトーシス細胞や赤血球由来のDNAが未分解のまま大量に残りました。また、DNAが残存しているマクロファージは活性化されており、TNFを産生していました。このマウスは歳をとるにしたがって、指先、手・足首、ひじ・ひざの順に、関節炎の症状を示し、8ヶ月目には、ほとんどの関節が発症しました(図1)。レントゲンで観察すると、関節が顕著に変形しており、時には骨折している場合も認められました(図2)。関節では滑膜細胞が著しく増殖し、軟骨や骨を破壊していました。この症状はヒトのリウマチ患者に認められる関節炎とよく似ています。また、発症した関節ではTNF、IL-6やIL-1bなどのサイトカイン遺伝子の発現が10~50倍 増加しており、さらに、血清中にはリウマチ因子、マトリックスメタロプロテアーゼなどが高濃度に認められました。ヒトのリウマチは抗TNF抗体によって緩和されます。DNaseIIを欠損させたマウスが、まだ関節炎を発症していない時期に抗TNF抗体を投与すると、関節炎の発症を抑制することができました。また、関節炎を発症したマウスに抗TNF抗体を投与すると関節の腫れは減少し、サイトカイン遺伝子の発現も顕著に減少しました。
以上の結果は、アポトーシス細胞や赤血球前駆細胞から由来するDNAが効率よく分解されずマクロファージに残存すると、マクロファージが活性化され、その細胞から産生されたTNFによって関節で滑膜細胞の増殖が誘導され、これによって関節炎が発症したことを示唆しています。

今後の展開

 今回の結果は、マクロファージの異常な活性化が関節リウマチの原因のひとつであることを示しました。ヒトの身体では毎日10 億近くの細胞がアポトーシスを起こし、そのDNAがマクロファージにより分解されます。また、毎日、100 億以上の赤血球が骨髄で産生され、赤血球の前駆細胞から排除されたDNAが分解されます。今回の結果は、これらのDNA分解が効率よく起こらなければ関節炎を発症する可能性があることを示しています。今後、ヒトの関節リウマチが同じような原因で発症しているかどうかを調べる必要があります。また、TNFは細菌やウイルスによって感染したマクロファージから産生され、ヒトなどの哺乳動物のDNAはこの遺伝子を活性化しないと考えられてきました。しかし、今回の結果は、アポトーシス細胞や赤血球からのDNAが分解されないとTNF遺伝子を活性化することを示しています。今後は、この活性化がどのような機構でおこなわれているか明らかにする必要があろう。
ヒトの関節リウマチでは3割を超える患者が抗TNF抗体によって緩和されると報告されています。しかし、この治療は発症した関節で産生されるTNFを一過的に中和することによってその症状を緩和するものであり、関節炎の原因を取り除くものではありません。また、抗TNF抗体は時間がたつにつれ体内から排除されることから、治療を長期間継続しなければなりません。今回作成されたマウスの関節炎はヒトの関節炎の症状と非常に似ていることから、より良い治療薬の開発に用いられるであろう。

図1:DNase II変異マウスでの関節の腫れ

生後4週間目のマウス(左、野生型;右、DNase II遺伝子変異)に [poly(IC)]を投与し、DNase II遺伝子を欠失した。生後8ヶ月後に前足(上段、中段)、後足(下段) を観察した。

図2:関節炎を起こしたマウスのレントゲン写真

0610Fig2-Lbw.jpg 生後8ヶ月のマウス(左、野生型;右、DNase II遺伝子変異)の後足をレントゲン撮影した。DNase II変異マウスでは骨の変形、骨折が観察される。