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生理機能に応じたミオシンの6ステップ切替え機構

論文誌情報 Cell 172, 879-888 (2010)
著者 西川宗,有本行雄,池崎圭吾,須河光弘,上野博史,小森智貴,岩根敦子,柳田敏雄

(連絡先:柳田敏雄 yanagida@phys1.med.osaka-u.ac.jp)
論文タイトル Switch between Large Hand-Over-Hand and Small Inchworm-like Steps in Myosin VI
PubMed 20850010
研究室HP

要旨

研究の背景

 ミオシン6は2量体を形成し、ATP加水分解に伴いアクチンフィラメント上を連続運動する分子モーターです。ミオシン6は細胞内部で小胞輸送の為のトランスポーターとして働くと同時に、細胞膜構造を細胞骨格に繋ぎとめるアンカーとしても働く事が知られています。トランスポーターとして働く為には、ミオシン6はアクチンフィラメント上を連続して運動する必要があります。一方で、アンカーとして働く為にはミオシン6は一箇所に静止し続けている必要があります。これまでの研究で、ミオシン6が連続運動する機構は解明されつつありましたが、ミオシン6がトランスポーターとしての役割とアンカーとしての役割を切り替える機構は未解明でした。

研究の成果

 これまでミオシン6は2種類のステップ(前方ステップ及び後方ステップ)を持つと考えられていました。しかし、「量子ドットを用いたFIONA(Fluorescence Imaging with One-Nanometer Accuracy)法」を用いてミオシン-VIのステップをナノメートル精度で詳細に解析することで、実際はミオシン6のステップは3種類のステップ(前方ラージステップ、前方スモールステップ及び後方ステップ)から構成されている事を、本研究は明らかにしました(図1)。

 「2色の量子ドットを用いたSHREC(Single-molecule High-REsolution Colocalization)法」を用いて直接ミオシン6の両足の関係を可視化することにより(図2A)、前方ラージステップの際にはミオシン6は両足を開いた状態を取り、前方スモールステップや後方ステップの際にはミオシン-VIは両足を閉じた状態を取る事が分かりました。さらに「金ナノ粒子を用いた全反射型暗視野照明法」を用いてマイクロ秒レベルの時間分解能でミオシンのステップを観察する事で3種類のステップを生み出す際のブラウニアンサーチ中に於けるレバーアームの向きを明らかにすることに成功しました。これらの3種類の高精度ナノイメージング計測結果に基づき、我々はより詳細なミオシン6のステップ発生機構のモデル提案に成功いたしました(図3)。

 また、ミオシン6が前方スモールステップを生み出す割合は、ADP添加により大幅に増加する事が分かりました。これまでの先行研究よりミオシン6に後向きの負荷を掛けた状態では、ミオシン6へのADP親和性が増加する事が知られています。その事から、ミオシン6に対するADP添加は、ミオシン6に対して後向きの負荷を掛けた状態を模倣していると考えられます。今回の研究成果より、ミオシン6は小胞輸送の際は前方ラージステップを繰り返す事でアクチンフィラメント上を連続運動し、アンカーとして働く際は大きな負荷が働く為に両足揃えの状態を取ることで人間が踏ん張るような状態で1箇所に静止しているのではないかと考えられます(図4)。すなわち、細胞内に於いてミオシン6は掛かる負荷に応じて、トランスポーターとしての役割とアンカーとしての役割を柔軟に切り替えていると考えられます。

図1.
(A)ナノメートル精度で検出されたミオシン6のステップトレース
(B)ミオシンの3種類のステップを示すステップサイズ分布

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図2.
(A)SHREC計測によりナノメートル精度で可視化された運動中のミオシン6の両足の相対的位置関係
(B)金ナノ粒子を用いた超高速イメージング(27,000 Hz)により可視化されたミオシン6のステップ発生中に
   於けるブラウニアンサーチ過程

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図3. 本研究により明らかとなったミオシン6のステップ発生機構のモデル

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図4. 細胞内部に於けるミオシン6の役割切り替えの予想図

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