GCOE外国人研究者等セミナー

平岡 孝一(ナノ生体科学講座 プロトニックナノマシン研究室(難波研)) 

演題 Type VII Secretion System of mycobacteria; toward visualization of nanomachines in their native cellular environment using electron cryo-microscopy.
演者 Dr. Peter J. Peters
(Group Leader, Division of Cell Biology NKI-AVL)
日時

2012年 2月21日 午後2時~3時

場所 吹田キャンパス ナノ棟1階セミナー室






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報告

  GCOE外国人研究者セミナーレポート
担当:平岡孝一
 タンパク質の三次元的な情報は、生物の機能を理解する上で非常に重要である。タンパク質の立体構造を解く技術としてX線結晶構造解析、NMR、電子顕微鏡(EM)などがある。どの技術にも一長一短があり、X線結晶構造解析は非常に高い分解能で構造を解く事ができるが、結晶化を必要とするために適用される試料に限りがある。NMRは解析できるタンパク質の分子量に限りがある(約100kDa以下)。EMは比較的大きな構造物の観察に適しており、ナノマシンなどの複合体を形成する生体分子での活躍が期待されている。しかし、化学固定や重金属による染色で試料の状態が人工的であるという問題点もある。

 今回講演して下さったPeters博士のグループは、電子線トモグラフィー(electron cryotomography(cryoET))を用いて、より自然に近い状態での生体組織観察に成功している。高い圧力と急速凍結によ非晶質生体試料の固定と、50 nm以下という非常に薄い切片をつくることで、負染色によらない立体像観察を可能としている。試料を+70度から-70度傾斜させて電顕像を撮影し、それらの画像を用いて三次元再構成することで立体像の観察を可能にした。

 Cryo-ETによる立体像は分解能は低いが、X線結晶構造解析やNMRにより解かれたタンパク質の立体構造を細胞スケールの大きな像の各部に当てはめることで、細胞内のタンパク質の配置をマッピングすることが可能となった。現在は薄膜切片の作製にダイヤモンドナイフを用いているが、イオンビームによる"ナノナイフ"なる技術も新たに提唱されており、これによってナイフによる試料の歪みを軽減できるという。まだ発展途上の技術であるが、今後の進展が楽しみである。

 生体分子の中でも、超分子といわれるものは非共有結合性の相互作用で複合体を形成し、単体では持ちえない機能を有し、まさにナノマシンとして機能している。cryoEMによる立体像再構成技術の進歩により、X線結晶構造解析に頼らずともかなりの高分解能で構造を解くことが可能となってきた。複合体として機能する超分子をバラバラにせずに丸ごと解析できることがcryoEMの強みであったが、トモグラフィーとの組み合わせによってさらに大きな細胞レベルでの構造の議論ができるようになっている。

 結晶化の必要も分子量の制限もなく、どんな細胞や組織でも応用可能という試料の適用範囲の広さは、cryoETが構造解析の強力なツールであることを裏付けている。この技術が生命科学に新たな知見を与えてくれることは間違いないだろう。


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