GCOE外国人研究者等セミナー

池添貢司・塩崎博史(脳神経工学講座 認知脳科学研究室 (藤田研究室))

演題 "A three-dimensional spatio-temporal model of MT neurons that predicts responses to natural movies" "Decoding visual experiences from brain activity evoked by natural movies"
演者 Dr. Shinji Nishimoto
(Helen Wills Neuroscience Institute, University of California, Berkeley)
日時

2010年 2月18日(木) 17:00-18:00

場所 豊中キャンパス 基礎工学部J棟4階セミナー室






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報告

セミナー(1)"A three-dimensional spatio-temporal model of MT neurons that predicts responses to natural movies"
霊長類の大脳皮質には,多くの視覚関連領野が存在し,各領野はそれぞれ異なる機能を担っている.MT野と呼ばれる領野には,物体の運動速度(運動の向きと運動の速さの両方を表す量)に選択性を持つ細胞が存在し,これらの細胞の活動が運動知覚の神経基盤となっている.運動知覚のしくみを理解するためには,MT野の神経細胞がどのようにして運動情報を計算しているかを理解することが重要であるが,先行研究では限られた種類の人工的な視覚刺激ばかりが用いられてきたため,自然視状況下でのMT野細胞の情報処理については不明な点が多い.

西本博士らは,サバンナを駆け巡る動物や,風にたなびく木々などの,自然動画刺激を用いることで,MT野細胞の情報処理に迫った.自然動画刺激を見ているサルのMT野から,単一神経細胞の活動を記録し,MT野細胞が刺激のどの成分に応答していたかを表す関数である時空間受容野を推定した.その結果,MT野には様々な速度に特化した時空間受容野を持つ細胞が存在し,多くの細胞は視覚刺激の時間的に変化しない成分には応答しなかった.今回明らかとなったMT野細胞の性質は,静止している物体から,誤って運動の知覚が生じないようにする過程に関係しているかもしれない. 

西本博士は,本研究科の大澤研究室で博士学位を取得されたのち,現在までカリフォルニア大学バークレー校で視覚情報処理の研究を続けられている.大澤研究室で培った知識,技術をもとに海外で活躍する博士の姿に,多くの学生が感銘を受けたように見受けられた.
(レポート執筆:塩崎博史)


セミナー(2)"Decoding visual experiences from brain activity evoked by natural movies"
この日、西本博士には2つのセミナーを行っていただいた。2つ目のセミナーでは、被験者の脳活動から、被験者が見ている動画を再構成する研究について講演していただいた。

脳内の神経活動や神経活動に伴う代謝活動を解析することによって人の感覚経験を復元する技術は、近年盛んに研究されているブレインマシンインターフェース技術やマインドリーディング技術の一つであり、産業分野や医療、福祉分野などでの応用が期待されている。視覚経験の復元においては、機能的核磁気共鳴画像法(functional Magnetic Resonance Imaging、以下fMRI)を用いて非侵襲的に計測した、神経活動の増加に伴った血流成分の変化(Blood Oxygen Level Dependent signals)を解析することによって、視覚刺激として被験者に提示した白黒の静止画像を復元することが可能になっている。しかしながら、BOLD信号の変化は遅く秒単位で起こるために、我々が日常に体験するような時々刻々と画像が更新されるような動画刺激の復元をBOLD信号から行うことは不可能と考えられてきた。
西本博士らは、視覚野の神経細胞の刺激応答特性を考慮した時空間フィルタとベイズ推定法を用いて、BOLD信号から被験者に提示した動画刺激を復元する方法を開発した。被験者に映画の予告編などの人や建物を含んだ動画を提示し、提示中のBOLD信号をfMRIで計測した。
西本博士らの開発した手法がBOLD信号から復元した動画は、刺激動画の持つおおまかな時空間構造を再現していた。この結果は遅いBOLD信号からでも比較的速く変化する感覚経験を復元できることを示しており、さらなる技術の進歩によってより詳細な視覚経験を非侵襲的に復元できる可能性を示唆している。
西本博士はこの手法を応用して得られた他の結果についても述べられ、これらはブレインマシンインターフェース技術のさらなる進歩を予感させるものであった。

発表がとても魅力的であったことと、西本博士が大澤研出身でセミナー参加者の多くの人が西本博士と元々親交があったことで、セミナーはとてもカジュアルな雰囲気の中で進行した。多くの質問があり、1時間という限られた時間はとても充実したものであった。
(レポート執筆:池添貢司)



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