GCOE外国人研究者等セミナー

前田悠子(脳神経工学講座 視覚神経科学研究室(大澤研究室))

演題 Can perceptual learning improve the disparity sensitivity of stereo-deficient monkeys?
演者 Prof. Yuzo M. Chino
(University of Houston)
日時

2009年 9月24日(木) 10:00-12:00

場所 豊中キャンパス 基礎工学部J棟3階Room308






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報告

 物の遠近は、左右の眼に移る像のわずかな差を検出することで知覚される。この両眼視差の情報処理を行う大脳皮質の視覚野での神経回路の発達は、視覚経験、特に生まれた後の一定期間の視覚入力に強く影響される。しかし、生まれつき斜視を持つ個体、あるいは生後の重要な時期に斜視になった個体では、両眼から入力される像の間の相関が歪められることで、正常な両眼視メカニズムの発達が阻害される。その結果、両眼視能力の著しい低下や弱視が起こり、成体になっても回復しない。今回Chino博士には、この斜視とその結果起る視覚障害の仕組みを神経細胞レベルで解明し、また人工的に斜視を模した環境で飼育したサルに知覚学習をさせて、両眼視の能力を回復させようと試みる研究について、過去の知見と最新の結果を解説していただいた。

 生後4~14週にかけて、サルにプリズムを組み込んだゴーグルを装着させたまま飼育すると、先天的な斜視と同等の状態を人工的に作ることができる。このサルのゴーグルを外し、知覚学習を行いその前後での立体視能力を行動実験において調べたところ、立体視精度の向上が見られた。

 このように立体視精度が学習により向上する変化の基礎となる脳神経回路構造の変化、つまり視覚野のどの部分が関わっているのか、またどんな神経メカニズムによって成されているのかの解明を目指した。要因の一つとして、視覚野ニューロンのチューニングが鋭くなることが考えられる。そこでChino博士らは眼優位性に着目したところ、通常のサルに比べてプリズム装着で飼育したサルは両眼性ニューロンの割合が少なかったのが、知覚学習後はそれが増加した。これより立体視の精度向上は、V2 ニューロンの視差感度が良くなったことと、上流のニューロンがV1・V2ニューロンから得ていた視差情報をより効率的に活用する学習が起きた結果であると示唆された。また、知覚学習によって両眼間のノイズを減少させ、従ってV2ニューロンが視差の手がかりを区別する能力が向上したこともわかった。

 これらの立体視精度の向上は、成熟した脳の視覚野でも見ることができた。つまり従来の研究で提言されてきたよりも、成熟した個体の脳が驚くほど柔軟性を持っていることがわかった。斜視の治療に向けて、更なる発展が期待される研究成果を聞かせていただいたと思う。




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