GCOE外国人研究者等セミナー

至田充宏(脳神経工学講座 細胞分子神経生物学研究室(山本研究室)

演題 Synaptic and Non-Synaptic Roles of Neural Activity in sensory map development.
演者 Dr.Patricia Gaspar
(University Paris VI)
日時

2009年 9月14日(月) 14:00-15:00

場所 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3Fセミナー室






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報告

 脳は複雑な神経回路を形成し、その回路を通して情報伝達することによって高次の機能を果たしている。感覚系は神経回路形成に対する理解が比較的進んでおり、大脳皮質において、末梢感覚器に対応した正確な地図(sensory map)が存在することが知られている。外界からの入力は末梢感覚器を介して神経活動に変換され、視床を経由して大脳皮質に伝達される。視床から大脳皮質へと情報伝達する軸索を視床皮質軸索といい、正確なsensory mapが形成されるためには、視床皮質軸索の正確な投射と、大脳皮質側の標的細胞の成熟が必要である。
視床皮質軸索が大脳皮質に投射されsensory mapが形成される時期には、自発的でシナプスを介さない神経活動とシナプスを介した神経活動の両方が存在しており、sensory mapの形成は神経活動依存的な回路形成を理解する上で最適なモデルの一つである。今回のセミナーでPatricia Gaspar博士は、sensory mapが形成される際のシナプス機構の役割について最先端の研究成果を紹介して下さった。

視床皮質軸索は、神経伝達物質のグルタミン酸の放出を介して神経活動を大脳皮質の細胞に伝達する。視床皮質軸索の末端部分にはセロトニン作動性の神経細胞の軸索も投射されており、その末端から放出されるセロトニンによって視床-皮質軸索からのグルタミン酸の放出が抑制されることが知られている。Patricia Gaspar博士らは、セロトニンを分解するモノアミン酸化酵素のMAOAを欠損させることでセロトニンの増加がおこり、それによってマウスのヒゲに対応したsensory mapであるバレルの形成が阻害されることを示している。加えて、その欠損マウスに対してセロトニン作動性レセプターの5-HT1Bも欠損させることで、MAOAの欠損によって上昇したセロトニンの影響を受けなくなるため、バレルの形成がレスキューされることを示している。

このようなセロトニンの増加によって起こるバレルの形成異常はシナプスを介した神経活動が抑制されることによって起こるのだろうか。Patricia Gaspar博士らは、セロトニンによって抑制されるシグナルの下流に位置し、シナプス小胞の放出に関与する事が知られているRim遺伝子を欠損させることにより、シナプスを介した神経活動のみを阻害することでこの問題に取り組んでいる。Rim1、Rim2の両方を欠損させたマウスではカルシウムイオンの流入によっておこるシナプス小胞の放出が起こらない。Patricia Gaspar博士らは、視床皮質軸索に発現しているセロトニントランスポーターのプロモーター下にcre配列を挿入し、Rim1、Rim2をコンディショナルに欠損させることで、視床皮質軸索においてシナプスを介した神経活動の阻害を試みた。その結果、視床皮質軸索の投射パターンに異常は見られず、バレル状のクラスター形成に関しても異常は観察されなかった。しかしながら、視床皮質軸索の投射先である大脳皮質の第4層に異常が見られ、バレルの中心に向かって樹状突起を伸ばすことが知られているステレイト細胞の突起の伸長方向がおかしくなっていることがわかった。
以上の結果より、sensory map の形成に関して、視床皮質軸索が大脳皮質の第4層に到達し、そこで伸長を停止する際にはシナプスを介した神経活動は重要でない事が明らかになった。一方、ポストシナプス側の細胞が成熟する際にはシナプスを介した神経活動が必要であるという事がわかった。



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