GCOE外国人研究者等セミナー

永田雅俊(時空生物学講座 心生物学研究室(八木研究室))

演題 The striatum-enriched signaling molecule, CalDAG-GEFI, modulates motor behaviors and neuropathology in models of movement disorders.
演者 Dr. Jill Crittenden
(McGovern Institute for Brain Research & Center for Cancer Research Massachusetts Institute of Technology)
日時

2009年 9月4日(金) 16:00-17:00

場所 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3Fセミナー室






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報告

大脳基底核はパーキンソン病、ハンチントン病など多くの疾患の原因部位として知られており、また、薬物乱用や常同行動と呼ばれる無意味な繰り返し行動のような精神疾患にも強く関わっていることがわかっている。しかしながら大脳基底核の構造は解剖学的に複雑であることもあり、疾病の原因や治療薬の作用様式など未解明の部分が多く残されている。
大脳基底核の主要な構成要素の一つである線条体は、解剖学的にマトリックスおよびストリオソームと呼ばれる部位に分けられる。パーキンソン病の治療に用いられるL-DOPAは長期間の服用により運動障害を生じることが知られているが、そのラットモデルではマトリックスに比べストリオソームで初期遺伝子の発現が優先的に多くなっていることがわかっている。同様に、コカインの繰り返し投与によりみられる常同行動とストリオソームにおける初期遺伝子の発現の集中は強く相関している。Crittenden博士はこれらの点から、線条体において特徴的な発現パターンを持つシグナル伝達分子群(CalDAG-GEFI、CalDAG-GEFII)に着目して、マウスをモデル動物に用いて研究を進めてきた。
パーキンソン病症状を誘導してL-DOPAを与えたマウスでは、マトリックスにおいてCalDAG-GEFIの発現量の減少がみられたのに対し、ストリオソームにおけるCalDAG-GEFIIの発現量は上昇していた。このような変化はL-DOPAを与えただけのマウスではみられなかった。またこれらのmRNAの量にも同様な変化が認められ、その変化の割合はパーキンソン病様運動障害の度合いと強く相関していた。さらに、これらの遺伝子の発現量変化は実際の患者においても同様に認められた。CalDAG-GEFIとCalDAG-GEFIIはカルシウムとジアシルグリセロールに結合して、協調的または拮抗的にERKシグナル経路を制御していると考えられており、これらの結果からCalDAG-GEFIとCalDAG-GEFIIの変化がERKの発現量変化をもたらしてパーキンソン病様運動障害を引き起こすことが強く示唆された。
Crittenden博士によるこれらの成果は、パーキンソン病のL-DOPA処置後の運動障害メカニズムを明らかにし、新しい治療方法にもつながるものである。セミナーではCalDAG-GEFIとCalDAG-GEFIIのノックアウトマウスについても触れられ、多くの意見交換が行われた。今後このノックアウトマウスで運動障害を引き起こす詳しい分子メカニズムがさらに明らかになることが期待される。



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