GCOE外国人研究者等セミナー

塩崎博史(脳神経工学講座 認知脳科学研究室 (藤田研究室))

演題 Where do correlations between neuronal activity and sensory decisions originate?
演者 Dr. Bruce Cumming
(Laboratory of Sensorimotor Research, National Eye Institute, USA)
日時

2009年 8月1日(土) 15:00 - 16:00

場所 豊中キャンパス 基礎工学部J棟3階セミナー室






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報告

ヒトやサルは感覚入力に対して意思決定を行い,適切な行動を選択することができる.意思決定の際,感覚器で受容された感覚情報は,大脳皮質感覚野を経て,意思決定を行う脳回路に到達し,行動に変換される.過去の研究により,知覚判断課題中のサル大脳皮質感覚野の神経細胞は,個体の判断と相関した活動を示すことが知られている.この相関は,感覚情報が感覚野細胞に到達するまでに蓄積されたノイズが,意思決定に影響を与えている証拠と考えられてきた.Cumming博士等はこの仮説に疑問を呈した.博士等は,感覚野の神経細胞活動と知覚判断との相関は,より高次の回路からの信号(トップダウン信号)を反映しているという新たな仮説を提唱し,仮説を指示する実験的証拠を得た.

Cumming博士等は2頭のサルを訓練し,2秒間提示されるランダムドットパターンの中心部分が飛び出ているか,へこんでいるかを弁別させた.この奥行き弁別課題中に,大脳皮質V2から単一神経細胞の活動を記録した.同時に,心理物理学的逆相関法と呼ばれる手法を用いて,サルが視覚刺激提示期間中のどの期間の刺激情報を用いて課題を解いていたかを推定した.

サルは,2秒間の視覚刺激提示期間中,前半部分をより強く用いて課題を遂行していた.一方,個々のV2細胞の活動とサルの奥行き判断との相関は,視覚刺激提示開始後から徐々に強くなり,視覚刺激提示開始後400msから視覚刺激提示終了まで一定の値を維持した.視覚刺激提示期間後半に着目すると,サルはこの期間の視覚刺激情報をあまり判断に用いていないのに対し,V2細胞の活動と奥行き判断との間には視覚刺激提示期間前半と同程度の相関があった.この結果は,V2細胞活動と奥行き判断との相関は,V2細胞活動に含まれるノイズが意思決定に影響を与えているという仮説と一致しない.

課題中のV2細胞の活動と視覚刺激との関係を解析すると,奥行き判断によって細胞の視差感受性曲線のゲインが変化していたことが明らかになった.過去の知見により,刺激特徴感受性曲線のゲイン変化は,代表的なトップダウン信号である注意の信号によっても引き起こされることが知られている.Cumming博士はこの知見を踏まえて,V2細胞活動と奥行き判断との相関はトップダウン信号を反映していたと結論した.

Cumming博士は数々の未発表データを紹介してくださり,参加者との議論が非常に盛り上がった.議論に熱中するCumming博士の目は少年の様に輝いていた.既存の枠組みを超えた仮説を提唱し,実験的に粘り強く仮説を検証する姿は,われわれに強い印象を残した.



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