GCOE外国人研究者等セミナー

菊池祐希 (ナノ生体科学講座 プロトニックナノマシン研究室(難波研究室))

演題 Visualising a bacterial DNA-segregation system
演者 Ms. Jeanne Salje
(Graduate Student, MRC Laboratory of Molecular Biology and Graduate School of Science, Kyoto University)
日時

2009年 7月2日(木) 16:00-17:00

場所 ナノバイオロジー棟 3階セミナー室






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報告

 細菌のプラスミドには、①ゲノムサイズが小さくコピー数の多いもの(10〜40コピー)、②ゲノムサイズが大きくコピー数の少ないもの(F因子やR1プラスミドなどで4~6コピー)の2つに大きく分けられる。プラスミドは細菌が細胞分裂する際、両方の娘細胞に分配されなければならない。①のタイプはコピー数が多いため確率的に両方の細胞に分配されるだろうが、②のタイプのプラスミドは厳密に2つの娘細胞に分配されるための特別な機構があると考えられる。セミナーをして下さったJeanne Saljeさんは、大腸菌のR1プラスミド分配機構について研究を行っている。生化学的手法や電子顕微鏡観察による最新の研究成果について解説して下さった。
 R1プラスミドの分配が行われるときには、R1プラスミド上のparオペロンという遺伝子が働く。parオペロンにはParM、ParR、parCという3つの要素が含まれる。ParMは37.5 kDaのアクチン様の蛋白質でATP結合能および加水分解能を持っている。ParRは13.3 kDaのDNA結合蛋白質で、セントロメアとして機能するDNA領域(parC)に結合する。ParRC複合体がキャップとして働き、ParMフィラメントを安定化する。安定化したParMフィラメントは、ParRC複合体を結合させた状態でその両端が伸長し、その結果プラスミドは細胞の両極へと移動する。
 これまで、ParRC複合体がParMフィラメントの端に結合しフィラメントを安定化する事が間接的に示されていた。しかし、ParRC複合体が安定化するフィラメントは、1本なのか複数なのかは不明であった。Saljeさんはこの問題を解決するため、電子顕微鏡によるParRCとParMフィラメントの直接観察を試みた。ビオチン化したparC DNAに適当な濃度のParRと金コロイドが結合したストレプトアビジンを加え、ParMとインキュベートし観察した。すると金標識されたparC DNAが1本のParMフィラメントの両端に位置している事が観察できた。
 次に、ParRC複合体が結合するParMの領域を同定するためpeptide array法を行った。これより、ParMの21-40と121-140残基がParRC複合体と相互作用する事が示された。以前に報告された立体構造から、この2つの領域はフィラメント形成時に外側を向くループ領域である事がわかった。さらに、この領域中のどの残基が相互作用に大切かを検証するため、14個の部位特異的変異体を作製しその性質を調べた。その結果、K123がParRCと強く相互作用し、S39、R121、K129の3残基が弱いながらも相互作用に寄与している事が分かった。ParMフィラメントに結合しているParRC複合体を電子顕微鏡で観察すると、フィラメントの先端に直径約20 nmのリング構造を見る事ができた。以上の結果から、parC DNAと結合したParRオリゴマーがリング構造を形成し、ParMフィラメントの両端と相互作用してclamp(留め具)の働きをするというモデルを導いた。
 また、細胞内のParMフィラメントを低温電子顕微鏡により直接観察した。まず、①高いコピー数のプラスミドでT7プロモーターを持つParMの大量発現系、②高いコピー数のプラスミドでnativeプロモーターを持つParMRCの系、③低いコピー数のプラスミドでnativeプロモーターを持つParMRCの系の3つを作成した。①では密集したParMフィラメントの束が観察され、②では小さな束と単一フィラメントの組み合わせで観察された。そのため、ParMの発現量がより少ない③ではフィラメントの束が観察される事はほとんどないと思われた。しかし、予想に反して3~5本のフィラメントからなる小さな束を観察する事が出来た。ParRC複合体を通していくつかのプラスミドがリンクされ、それによってParMフィラメントが束を形成するのを促進している可能性が考えられる。また、ParMフィラメントの束が核様体の近くに局在していることが分かった。これはフィラメントの両端に結合しているプラスミドが核様体のDNA領域とゆるく相互作用している事を示唆する。以上の結果から次のような新しい疑問が生まれる。ParMの先端とプラスミドの細胞内の正確な位置はどこか?核様体は細胞の極にどのように広がっているか?プラスミドが核様体と相互作用している理由は?今後これらの疑問が解き明かされる事を期待する。インパクトの大きい先端の研究に触れる事ができ、充実したセミナーであった。

Reference
[1] Salje J, Zuber B, Löwe J. (2009) Science. 323: 509-12
[2] Salje J, Löwe J. (2008) EMBO J. 27: 2230-8



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