GCOE外国人研究者等セミナー

新井稔也 (脳神経工学講座 視覚神経科学研究室(大澤研究室))

演題 Cue recruitment in visual perception
演者 Prof. Benjamin Backus
(SUNY State College of Optometry)
日時

2009年 6月5日(金) 14:40-16:40

場所 豊中キャンパス J棟 4階 401号室






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報告

  視覚世界の情報は我々のもつ視覚システムによって段階的に処理されており、我々は特徴抽出器を介して得られたさまざまな手がかりをもとにして、最終的な「見え」という知覚を得ている。しかしながら実際には認識しようとする対象自体の属性とは別に、対象に付随して起きる特徴も、「見え」を決定するための手がかりとして使用される。 例えばマガーク効果と呼ばれる現象もその1例だ。これは人の声は唇の動きによって大きく左右されるという現象だが、逆に、日常的に予測される音により同じ視覚画像からも違う見えが生じることもある。博士らはこのような現象を糸口に、知覚システムがどのように手がかりを選択し、用いているのかという問題を明らかにしようとしている。
 今回博士らは回転するNecker Cube(枠のみから構成される立方体)を用いて心理実験を行った。Necker Cube単体の回転は右回転にも左回転にも見えるのだが、同時に回転方向を確定させるような仮想的な遮蔽物を追加することもできる。そこでまずトレーニングとして、被験者には回転方向がひとつに定まるような状況下で、知覚には直接左右しないような、回転に付随した手がかりを加えたNecker Cubeをしばらく見せた。すると遮蔽物のない、どちらの回転にも見えるようなNecker Cubeが提示されたときにも、追加されていた手がかりから予想される方向に回転しているように「見え」る、という傾向が見られた。つまり、視覚としては左回転にも右回転にも見えるはずの物でも、見え方は追加された手がかりによって決まりうるという結果となった。このことから、知覚のシステムには、状況に応じた特徴を統計的に見つけ出し、実際の現象と関係のありそうな手がかりを有用な物として使い始めるシステムが含まれているという可能性が考えられる。
 なお追加された特徴としては、視覚的な位置や運動方向のような、いずれにしても回転を決める際には関係ないと考えられる特徴や、Necker Cubeが右回転のときは高い音、左回転のときには低い音が鳴るといった視覚以外の特徴も用いられた。また、回転方向は本来両眼視のような立体視メカニズムが深く関与すると考えられるが、この効果は単眼、両眼条件において差が見られなかったということも重要な結果として示された。
 さらに博士らは、新しい手がかりが逆回転の手がかりになるようなトレーニングも加えて行った。新しい手がかりの効果が逆になるように交互にトレーニングを行うと、その度に「見え」としてその手がかりの使われ方は変化していく。このことから、人間の知覚システムが、環境に対応して動的に、かつ非常に素早く変化することが示唆された。
 このような、「パブロフの犬」に代表されるような条件反射は高度な知覚システムの一端であり、逆に言えばシステムを解き明かすための重要な糸口になるだろう。人間がどのように外界を知覚し、そこにどのような相互作用があるのかという問題は、脳というシステムを理解するためにも不可欠かつ有用であるということを再認識させられた、非常に有意義なセミナーとなった。

Reference:
Benjamin T. Backus & Qi Haijiang
Competition between newly recruited and pre-existing visual cues during the construction of visual appearance
Vision Res. 2007 Mar;47(7):919-24.




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