GCOE外国人研究者等セミナー

葦原雅道 (ナノ生体科学講座 プロトニックナノマシン研究室(難波研究室))

演題 The structures of the stress hormone receptors: beta1 and beta2 adrenergic receptor Implications for pharmacology
演者 Dr. Gebhard F. X Schertler
(MRC Laboratory of Molecular Biology)
日時

2009年 5月18日(月) 16:00-17:00

場所 吹田キャンパス ナノバイオロジー棟 3階セミナー室






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報告

 G-protein-coupled receptors (GPCR) は酵母からヒトにいたるまで真核生物に存在する膜タンパク質のファミリーであり、細胞外から細胞内へのシグナル伝達に重要な働きをする。細胞外に存在するホルモンや神経伝達物質などの活性化分子(アゴニスト)との結合により、GPCRは構造変化を誘導されGタンパク質を活性化する。その結果、cAMPやCa²⁺といった細胞内伝達物質の濃度が変化する。ヒトのGPCRは約800種類知られており、すべて特徴的な7つの膜貫通αへリックスを持ち、N末端領域は細胞外に存在する。アミノ酸配列の解析から多くのファミリーが定義されたが、その大部分はfamily Aに属し、rhodopsinやヒトβ-adrenergic receptor (βAR) サブタイプβ₁,β₂,β₃もこれに含まれる。また、β₁,β₂,β₃はNC両末端領域と細胞質内に存在するループ3を除くアミノ酸配列において51%と高い相同性を示す。
 これまでrhodopsin以外のGPCRは、構造の柔軟さや発現系の構築の困難さから結晶化が阻まれてきた。そのためGPCRの高分解能構造はrhodopsinに限られており、機能解析や創薬探索はrhodopsinの構造をもとになされてきた。しかし、最近、博士らのグループによってβ₂ARの柔軟な構造をもつ細胞質内ループにFab抗体を結合させ、アンタゴニストcarazololを結合させた状態でcarazolol-β₂AR-Fab5の結晶が得られた。この結晶は小さくX線照射による損傷が激しいため、直径5~10 μmと極めて細いX線を照射できるmicro-beam technologyを用いてデータが収集され、構造が解析された。さらに、同様の技術を用いてアンタゴニストcyanopindololと結合した状態でcyanopindolol-β₁ARの構造が解かれた。ヒトのβ₁ARはβ₂ARに比べ界面活性剤下で非常に不安定なため精製が困難であった。そこでヒトよりも安定なシチメンチョウのβ¹ARをもとに熱安定性をもつ変異体β₁AR-m23が結晶化に用いられた。
 β₁ARとβ₂ARの2つの結晶構造から、リガンド結合ポケットのリガンド選択性について考察された。アンタゴニストcyanopindololは5つのヘリックス(H3, H5, H6, H7, EL2)に位置する15個のアミノ酸側鎖と結合しており、このアミノ酸残基はβ₂ARのアンタゴニストcarazololとの結合に関与する残基と同じであることが明らかとなった。しかしながら、あるリガンド(アゴニスト、アンタゴニスト)はβ₁ARあるいはβ₂ARに特異的に結合する。この特異性を説明するためには、リガンド結合ポケット付近に位置しリガンドとの結合に直接的もしくは間接的に関与するアミノ酸に違いがあるはずである。リガンド結合ポケットから8Åの範囲内で2つのアミノ酸残基がβ₁ARとβ₂AR間で異なっていることが明らかとなった。β₁ARではVal172とPhe325であり、β₂ARではThr164とTyr308である。このアミノ酸残基の違いによってβ₂ARではリガンド結合ポケット付近に極性残基が押し出されている。この極性残基によってリガンド選択性が説明された。さらに変異体の解析から、β₂ARではTyr308がアゴニスト選択性に重要であることが示された。
 本講演で紹介された高分解能構造情報からGPCRと様々なリガンドとの結合部位や結合様式が明らかとなれば、アゴニストやアンタゴニストといった薬剤の標的箇所を効率的にスクリーニングすることが可能となるであろう。創薬のターゲットのおよそ8割がGPCRであることを踏まえると、リガンド選択性の機構解明は非常に重要であり、将来、副作用のない効率的な薬剤の実現に寄与することが期待される。









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