GCOE外国人研究者等セミナー

須賀原 智子 (細胞ネットワーク講座 形態形成研究室 (近藤研究室))

演題 Patterning and cell fate in the otic placode
演者 Prof. Fernando Giraldez
(DCEXS Universitat Pompeu Fabra)
日時

2009年 4月16日(木) 11:00-12:00

場所 吹田キャンパス アネックス棟 2階会議室






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報告

内耳は、聴覚や平衡感覚といった感覚を感知する感覚器であり、内耳プラコードをその起源とする。プラコードとは、頭部外胚葉の一層の細胞層が肥厚してできた組織である。内耳プラコードが陥入して耳胞を形成した後、さらにいくつかのステップを経ることで迷路状の構造をなす内耳を形成する。内耳の神経細胞である内耳有毛細胞は、前庭と蝸牛に存在する。前庭の有毛細胞は平衡感覚を、蝸牛の有毛細胞は聴覚を司る。内耳有毛細胞の分化機構の解明は、難聴の治療をめざした再生医療への応用に不可欠なものであり、近年非常に注目を集めている。
 Fernando Giraldez博士はスペインの研究者で、内耳有毛細胞の発生を研究テーマのひとつとしている。今回のセミナーでは、主に以下の3つの話題について講演された。

1. Regional cell fate of otic placode 
 内耳の神経前駆細胞は、内耳プラコードのantero-medial側の細胞群を起源とすることを、博士らのグループが以前に示した。しかし、蝸牛の神経細胞や前庭の神経細胞へと特異化される過程については、まだほとんど分かっていない。そこで博士らの研究グループは今回、ニワトリ胚を用い、内耳プラコードの異なる部位の細胞をDiIとDiOによってそれぞれ標識し、その細胞が将来内耳のどの器官の細胞となるかを追跡した。その結果、内耳プラコードの細胞群はlateral側の細胞から器官形成に寄与しはじめ、発生時期の進行に伴い内耳プラコードのよりmedial側の細胞群が順々に器官形成に寄与して行くということを示した。

2. Interaction of Sox3 and FGF signaling in early otic development
  プレプラコードから内耳プラコードへと特異化される時期に、内耳プラコードとなる部分の広い範囲でPAX2が発現することが知られている。また博士の研究グループでの最近の研究から、発生初期における内耳プラコードでの神経分化においてSOX3が必要とされることが示された。また、Sox3とPax2が発現するには内耳プラコードの領域において非相互依存的にFGFシグナルを必要とすることが、他の研究グループのゼブラフィッシュを用いた実験により示されている。博士らの研究グループはニワトリ胚を用いて、ある特定のステージでFGFシグナルを阻害することが内耳プラコードにおけるSox3とPax2の発現にどのように影響するかを調べた。3~4 体節期にFGFシグナルを阻害した時にはPax2、Sox3の両方とも発現が低下した。しかし、7体節期にFGFシグナルを阻害したところ、Sox3の発現のみ低下が見られた。この時Pax2の発現には変化は見られなかった。以上の結果から、ニワトリ胚においてもPax2とSox3は異なる時期にFGFシグナルの影響を受けていることが示された。
   
3. BMP4 maintains hair cell precursor
  有毛細胞は支持細胞に囲まれているが、この有毛細胞と支持細胞は同じ幹細胞を起源とすることが知られている。発生過程の内耳では、将来的に有毛細胞が分化する部位(sensory pouch)でかなり早い段階にBMP 4が発現する。BMP 4を異所的に発現させたところ、有毛細胞のマーカーであるAtoh 1とHes 5の発現が減少した。逆にBMPの機能を阻害するNogginを異所的に発現させたところ、Atoh 1とHes 5の発現が上昇した。この結果から、BMP 4はAtoh 1の発現を抑えることで幹細胞の自己複製に寄与していることが予想された。また、免疫染色ではBMP 4の下流因子であるId 3の発現が低下している部位でAtoh 1が発現していることも確認している。さらに、博士らの研究グループでは、Notchシグナルのγセクレターゼ阻害剤を用いて、NotchシグナルとBMPシグナルが協調してAtoh 1の発現を抑制していることも示している。以上の結果から、博士らの研究グループは、BMPシグナルとNotchシグナルが互いに協調することで、幹細胞が有毛細胞へと分化することを抑えているというモデルを提唱した。

 今回のセミナーではFernando Giraldez博士、Joana Nevesさんのお二人から、内耳有毛細胞の分化に関するとても興味深い知見をお聞きすることが出来た。さらにセミナー後も、研究に関するディスカッションなど非常に有意義な時間を過ごすことができた。この場をお借りして、お二人に感謝したい。



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