GCOE外国人研究者等セミナー

岡崎 安孝(脳神経工学講座 認知脳科学研究室 (藤田研究室))

演題 Macaque anterior intraparietal (AIP) area: cortical connections and role in linking perception and action
演者 Elena Borra
(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 脳皮質機能構造研究チーム・ポスドク)
日時

2007年 11月13日 (火) 17:00-18:00

場所 豊中キャンパス 基礎工学部 J棟3階セミナー室






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報告

 我々の物体認識は様々な感覚を通じて行われる。例えば触覚の物体認識が存在する。触覚の物体認識とは視覚によって物体の形と場所を認識して、腕を伸ばして手で物を掴むことである。つまり視覚情報を運動制御情報に変換すること、視覚運動変換が必要となる。
 頭頂葉連合野には手で物を掴むという行動を司る anterior intraparietal area (AIP) がある。このAIPは視覚運動変換にとって重要な部位であることが機能的に示されている。Borra博士は、本セミナーでAIPが視覚情報を運動制御情報 に変換している中心的部位であることを解剖学的に示した。
 人やサルの視覚情報経路は2つに分かれることが知られている。一つは、物体の形を処理すると考えられている腹側視覚経路。一方、空間情報などを処理する と考えられている背側視覚経路がある。背側視覚経路の最終段階に位置する頭頂連合野があり、AIP は、その頭頂連合野に位置する。
 サルのAIPには3種類の応答特性を持った神経細胞が存在する。一つは"motor dominant"という物体が暗い環境下の中でも明るい環境下の中でも、手で物を掴んだ時に応答する神経細胞。二つ目は"visual and motor"という物を掴む時に物が明るい環境下の中で見えた時のほうが暗い環境下の中で見えなかった時よりも強く応答する神経細胞。三つ目が "visual dominant"という物を掴む時に物が明るい環境下の中で見えたときのみに応答する神経細胞。さらに、神経細胞の応答特性から後者の2つの神経細胞は さらに2つに分けることが出来る。"object-type"の神経細胞は、物を見ているだけで、形に対し選択的に応答を示す。一方、"nonobjet -type"の神経細胞は、物を見ているだけでは応答を示さないが、物を見て、掴んでいるときに、物の形に対して選択的に応答を示す。
 "nonobjet-type"の神経細胞の応答特性を説明するためには視覚運動変換が行われることが必要となる。しかし、AIPが体性感覚情報や物体 の形を認識するための視覚情報を受け取っている解剖学的な証拠はなかった。そこで、Borra博士は、AIPの神経細胞がどの部位の神経細胞と結合してい るのかをサルのAIPにトレーサを打ち込むことで、結合している神経細胞を可視化して調べた。
 主に5箇所でAIPとの結合が存在した。
1) Inferior parietal lobuleの中の複数領域に結合が存在した。特に、PGやPFGという領域は、腕の運動制御の情報処理をしている。その中のdoarsal lateral intraparietal area (LIPd) という部位は眼球運動や固視に関与する。
2) Parietal opecular cortexのSⅡという領域に結合が存在した。SⅡは体性感覚の情報を処理する部位である。
3) Agranular cortexの中の複数領域に結合が存在した。その中のF5という部位はAIP野と同じような機能を持っている。
4) Ventral dorsolateral prefrontal cortexの中のarea 46とarea12に強い結合が存在した。area12は作業記憶情報の処理に関与していると考えられている。
5) Infeior temporal cortexの中の複数領域に結合が存在した。Inferior temporal cortexは、腹側視覚経路に位置し、物の形の情報処理の最終段階と考えられている。
 このような実験結果から、AIPは物体の形情報をInferior temporal cortexから受け取り、腕の制御情報をPGやPFGから受け取り、SⅡから体性感覚の情報を受け取り、作業のための記憶を処理しているとされる area12から作業記憶情報を受け取り、LIPdから眼球制御の情報を受け取っていると推測される。まさにAIPの"nonobject-type"の 応答を説明するために必要な結合である。
 このような解剖学的研究と電気生理などの生理学実験から得られる脳の機能的な知見をあわせ考えることで、脳をより深く理解が出来ると実感できるセミナー だった。また、普段はあまり聞く機会のない解剖学的研究の話だったが、簡潔に分かりやすく実験結果をまとめていたので、聴衆も容易に理解し、興味深く聞く ことが出来た。
 
Referrence
[1] Borra E, Belmalih A, Calzavara R, Gerbella M, Murata A, Rozzi S, Lupino G. (2007) Cerebral Cortex, in press
[2] Murata A, Gallese V, Luppino G, Kaseda M, Sakata H, (2000) J Neurophysiol, 83(5):2580-2601
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