GCOE外国人研究者等セミナー

福嶋 雄一(脳神経工学講座 細胞分子神経生物学研究室 (山本研究室))

演題 Clathrin mediated endocytosis is the physiological mechanism of vesicle retrieval at hippocampal synapses
演者 Bjorn Granseth
(MRC Laboratory of Molecular Biology, UK)
日時

2007年 9月6日(木) 16:30-17:30

場所 ナノバイオロジー棟 3階セミナー室






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報告

 神経細胞は、シナプスという構造を介して他の細胞に情報伝達をおこなう。この神経終末においてシナプス伝達が維持されるためには、神経伝達物質放出後、 シナプス小胞がリサイクリングされることが必要である。シナプス終末でのエンドサイトーシスの動態については長年、研究がおこなわれてきており、エンドサ イトーシス機構にはクラスリン依存性および非依存性エンドサイトーシス("kiss-and-run")があることが知られている。しかしながら、シナプ ス小胞のリサイクリング過程やその過程に関わる分子メカニズムにせまった研究はあまり報告されていない。博士らはこの問題に取り組むにあたって、海馬の神 経終末に着目し、CME(clathrin-mediated endocytosis:クラスリン依存性エンドサイトーシス)がどのくらいの時間で起こるのか、また小胞のリサイクリング機構のうちCMEの果たす役割 について研究をおこなわれた。
 博士らはシナプス小胞のエンドサイトーシスの動態を可視化するために、2種類のレポーター(sypHy、synaptopHluorin)を用いた。こ れらはプレシナプスタンパクにpH-snsitive GFPを融合させたタンパクで、細胞外液にふれると緑色の蛍光を発し、小胞内の酸性によってすばやく消光する仕組みであり、小胞の動態をとらえることがで きる。海馬のシナプス部位において、single APs(single action potentials)によって誘発されたシナプス小胞の放出後、これらのレポーターによって時定数約1sの"kiss-and-run"は検出されず、 約15sの遅いモードのエンドサイトーシスのみが検出された。さらにpHluorinsを用いた方法を使っても、エンドサイトーシスのスピードは電気刺激 強度を変えても一定であり、時定数約15sの遅いモードのエンドサイトーシスのみ検出した。次に分子的な側面から追究するため、CMEに関わるタンパクで あるAP180のC末断片の過剰発現によってCMEを抑制したり、あるいはRNAi法によってクラスリンの発現をノックダウンすると、刺激後のシナプス小 胞の回収が約60~80%ブロックされるという結果が得られた。これらの結果は、海馬のシナプス終末においてCMEが主に関わっているということを強く示 唆している。
 ところで、クラスリン依存性のエンドサイトーシスはシナプス部位のみで起こっているのか、それともその周辺の軸索上でも起こっているのだろうか?博士ら は、プレシナプスタンパク(synaptophysin、synaptobrevin)やクラスリンに蛍光タンパクを付加し、これらの動態を可視化して観 察をおこなった。まず、電気刺激によりクラスリンやプレシナプスタンパクがシナプスのactive zoneから周辺の軸索にすばやく移動することが分かった。また、sypHyのシグナル強度から、刺激によってシナプス部位から移動したクラスリン量が放 出された小胞数に匹敵していることが判明した。つまり、クラスリンや小胞タンパクがシナプスのactive zone外に移動して、CMEを引き起こしていることが示唆された。
 以上の結果より、海馬の神経終末においては、クラスリン依存性エンドサイトーシスがシナプス小胞のリサイクリングに主要な役割を果たしていることが明ら かになった。これらの結果から考えて、速くてクラスリン非依存的なエンドサイトーシス、つまり"kiss-and-run"のようなメカニズムは、海馬の シナプスではあまり働いていないという結論に至った。海馬のシナプスでは"kiss-and-run"が主要なリサイクリングメカニズムであると言われて きたが、博士らの研究はその説を覆すようなインパクトある研究成果である。
 
Referrence:
Granseth B, Odermatt B, Royle SJ, Lagnado L.
Clathrin-mediated endocytosis is the dominant mechanism of vesicle retrieval at hippocampal synapses.
Neuron. 2006 Sep 21;51(6):773-86.
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